日米貿易協定の可決弾劾 労働者・農民を踏みにじる暴挙だ 米の対日争闘戦に追いつめられる日帝

週刊『前進』04頁(3092号03面03)(2019/12/09)


日米貿易協定の可決弾劾
 労働者・農民を踏みにじる暴挙だ
 米の対日争闘戦に追いつめられる日帝

まともな審議も行わず採決強行

 日米貿易協定の承認案が12月4日、参院本会議で可決された。絶対に許すことはできない。安倍政権は米トランプ政権が強く要求する来年1月1日発効を貫徹するために、臨時国会でほとんどまともな審議も行わず採決を強行した。
 日米貿易協定は労働者・農民の生活を資本の食い物にして徹底的に破壊するものだ。特に農産物については、牛肉は38・5%の関税が協定発効後26・6%に下がり、16年目には9%に引き下げられる。豚肉(高価格帯)は4・3%がゼロに、オレンジは16〜32%がゼロになる。「TPP(環太平洋経済連携協定)水準の関税を守った」ことが成果とされているが、それ自身が日本の農業・農家に壊滅的な打撃を与えるのだ。
 しかも、来春にも開始される貿易交渉の「第2段階」は、トランプが「包括的な協定」と言っているように、医薬品や金融、為替協定など全面的なものになる。米製薬業界をはじめとした資本の利益で市場を蹂躙(じゅうりん)するものとなるのだ。
 こうした労働者・農民の生活を揺るがす問題であるにも関わらず、いやそれを自覚しているからこそ、安倍政権は合意内容についての議事録や関税撤廃額の正確な試算など最低限のデータすら示さず説明を拒み続けた。野党議員が反発して出席していない間も形だけ「審議」を進める「空回し」で審議時間だけを稼いだ。「ウィンウィンな合意だ」と強弁した根拠は何一つ示さず、すべてウソやごまかし、隠蔽(いんぺい)で押し通したのだ。

自動車関税撤廃で合意は大うそ

 一つは、自動車関税撤廃で合意したとのウソである。乗用車と自動車部品について、日本政府は「さらなる交渉による関税撤廃」との文言が盛り込まれたと説明してきた。しかし、米国政府が公表した英語の協定文では「自動車と自動車部品の関税の撤廃については、今後のさらなる交渉次第である」との表現にとどまり、関税撤廃は前提にはなっていない。この部分の日本語の文書は存在しておらず、文言をごまかして国内向けに説明して乗り切ろうとしたのだ。
 そもそも9月25日に最終合意を終えた米通商代表部のライトハイザー代表も記者会見で「我々は農業の圧倒的大部分を手に入れた。(米国が輸入する)乗用車や自動車部品は含めなかった。我々が(関税削減などで)支払った分は、日本よりずっと少ない」と述べていた。自動車関税の撤廃は何の合意もなく先送りされたというのが事実だ。
 二つに、関税撤廃の大きさの説明もペテンである。
 日本政府の試算によれば、関税削減額は、日本から米国への輸出分が2128億円、米国から日本への輸出分が1030億円と説明された。これをもって政府は「倍ぐらいの(日本の)勝ち越しだ」と成果を誇った。しかし、この試算には上記の、日本から輸出する乗用車(関税率2・5%)や自動車部品(主に2・5%)の関税撤廃も含まれている。朝日新聞などの試算では、これら自動車関連を除いた関税削減額は、260億円前後と政府試算の1割程度となった。日本政府は貿易額ベースで日本側の84%、米国側の92%の関税が撤廃されると説明しているが、これも自動車関連を含めた数字であり、対米輸出の35%に上る自動車関連を省くと日本側の関税撤廃の比率は大幅に下がる。二国間で貿易協定を結ぶ際には貿易額の9割程度の関税撤廃を求めるというWTO(世界貿易機関)ルールにも違反するものになる。

農家をごまかし農業破壊進める

 三つに、農林水産品の関税撤廃率についての説明にもごまかしがある。
 日本政府は「農林水産品の関税撤廃率はTPPのときは82%だったが、今回はそれより大幅に低い37%にとどめた」と、農家向けに譲歩は限定的だったと強調した。しかし、37%というのは政府公表の品目ベースであって、より実態が反映される金額ベースでは61%になる(朝日新聞の試算)。実は、関税撤廃が見送られた品目は1100ほどあるが、半分以上はそもそも輸入実績がない品目が加えられていた。関税撤廃を見送っても輸入実績がないから関係ないし、もちろん成果にもならない。こういう米側にとって関心が低い品目については関税撤廃を認めないとすることによって、関税撤廃を見送った品目数だけを形だけ増やした。そして、品目ベースの試算だけ発表し、金額ベースの公表は頑なに拒否して、あたかも農産品の関税撤廃を大きく押し返したかのように農家向けにアピールしようとしたのだ。
 四つに、トランプによる安全保障を理由にした米通商拡大法232条に基づく輸入自動車への高関税措置について、「日米首脳会談でトランプ氏に(発動しないことを)確認した」ことも成果としたが、この「確認」についての議事録の提出にすら応じなかった。実際には何の合意もない「口約束」にすぎないからだ。
 最後に、労働者人民にとって、安倍がトランプに対抗して自動車関税撤廃をかちとることが勝利ではない。それは自動車資本の利益でしかない。TPPをはじめ貿易協定は、こうした輸出産業のために農業を犠牲にするものとして行われてきた。日本の自動車資本もまた、米国市場を蹂躙して労働者の生活を破壊し、米国内工場においては労組を禁圧した低賃金構造で利益を上げる構造をつくってきた。自由貿易も保護主義も、資本の利益のためでしかない。日米貿易協定そのものを吹き飛ばす国際連帯だけが労働者の未来だ。

国際連帯の力で帝国主義打倒を

 日米貿易協定は、日帝にとって危機と敗勢を突きつけられるものであった。これは来春からの「第2段階」で一層激化する。11月に開かれた米議会公聴会では、自動車関税撤廃どころか、対日貿易赤字削減のために輸入車の数量制限が必要だという論議が行われている。しかも来秋の大統領選が近づくにつれて、トランプにとって妥協を許されなくなり、強硬姿勢を強めることは明らかである。
 トランプ政権は製造業の国内基盤と輸出競争力を失ったがゆえに、戦後世界体制の枠組みを破壊することによってしか延命の道を見いだすことができなくなった。アジアを中心にしたサプライチェーンの破壊や世界支配の暴力的再編をかけて、対中対決を非和解化させながら、同時に対日争闘戦も激化させていく。安倍政権は追い詰められながら、日米安保の強化と改憲による戦争国家化へと踏み込んでいくしかない。戦争に突き進むしかない帝国主義を、国際連帯の力で打倒しよう。
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