高齢者から奪うな 「全世代型社会保障」の正体 「体が動く限り働け」と重圧

週刊『前進』02頁(3107号02面01)(2020/02/13)


高齢者から奪うな
 「全世代型社会保障」の正体
 「体が動く限り働け」と重圧



(写真 12月18日、社会保障破壊と最先端で闘う高槻医療福祉労働組合が冬季一時金の超低額回答に反撃して半日間のストを貫徹した)


 昨年12月、政府・全世代型社会保障検討会議は「(高齢者が)支えられる側でなく支える側として活躍していただく」とする中間報告を発表。2月4日には、企業に「70歳までの就業機会確保」を求める高年齢者雇用安定法改定案を閣議決定した(表)。安倍政権は「働き方改革」の柱として、高齢者を最大の標的に社会保障破壊を進め、一層の強搾取・強収奪に踏み出そうとしているのだ。

「70歳まで就業」法制化

 5日付日経新聞は法案の今国会成立、来年4月施行の見通しを示し、「『70歳現役社会』を見据えた法整備」であり「年功型賃金など雇用慣行の見直しも欠かせなくなる」と報じた。安倍は改憲に向け「働き方を中心に年金、医療、介護全般にわたる改革を進める」と公言してきた。それとの本格的な攻防が始まった。
 「70歳までの就業機会確保」とは、これまでの65歳までの①定年廃止、②定年延長、③非正規職として再雇用、④別会社(子会社を含む)での再就職に加え、⑤フリーランス(個人請負)契約、⑥起業、⑦社会貢献活動(NPO)を選択肢として認めるというものだ。定年を迎えた正社員を労働法の権利・保護規定から外し、低賃金で搾取し続けようとするものでしかない。それは現役世代全体の低賃金化につながる。
 現に厚生労働省が7日に発表した昨年の統計では名目賃金ですら前年より0・3%減り、月額32万2689円だった。働く高齢者や女性が増えてパートタイム労働者の比率が高まったことが大きいという。国や資本が望む通りの結果だ。

「老後」などない「働き方改革Ⅱ」

 高齢者には消費税の重圧の上に年金カットと医療・介護負担増(後述)が襲いかかる。低賃金・低収入で蓄えのない非正規職や個人事業主、さらにほとんどの労働者に退職後の「老後」などなくなる。働いて働いて体が動かなくなっても収奪され続ける、恐るべき未来が待っている。
 1月21日、経団連は春闘の指針となる経営労働政策特別委員会報告を発表。「労働生産性の飛躍的向上」のための「働き方改革フェーズⅡ(第2段階)」を打ち出し、終身雇用、年功型賃金など日本型雇用が労働市場の流動化を阻害しているとして「ジョブ型雇用」の導入を求めた。これまでの正社員型ではなく業務(ジョブ)による雇用と評価に基づく賃金制度に変える。要は正社員ゼロ化であり「解雇自由」の総非正規職化だ。業務がなくなれば解雇、賃金も評価次第。労働者の抵抗は減り、労働組合も一掃できる----。存亡の危機に立つ安倍と資本は、改憲と一体で戦後の雇用・人事・賃金制度と組合の最後的解体を狙う。その柱に高齢者の駆り出しが位置づけられている。

「高齢者も支える側に」

 全世代型検討会議の中間報告は、「少子高齢化の克服」のため、高齢者が「年齢にかかわらず働くことができる環境を整備すれば、生産年齢人口が減少する中でも就業者数を維持できる」「支えられる側でなく支える側として活躍していただく」と強調した。
 急激に進む少子化と人口の減少は、新自由主義による非正規職化と貧困の結果だ。国と資本の言う「少子高齢化の克服」とは、そうした社会の根本問題の「解決」どころか(もちろん資本主義のもとでの解決などありえないが)「就業者数の維持」が一切であり、国家の存続と資本の利潤確保のために労働者から奪いつくそうとするものでしかない。そのために青年や現役世代だけでなく、退職した高齢者をも根こそぎ駆り出そうとしているのだ。

医療・介護費増のダブルパンチ

 中間報告は「年齢ではなく負担能力に応じた負担」を求めた。医療費は、75歳以上でも「一定所得以上は窓口負担割合を2割」にする。現行の倍だ。秋の国会に関連法案の提出をめざすという。加えて社会保障審議会介護保険部会は住民税非課税で収入が120万円超(月10万円超)の高齢者に対し、介護施設の食費の自己負担限度額を月2万円から4万2千円に引き上げる意見書を出した。生活は破壊的な状態に追い込まれる。政府は介護保険法などの改定法案として今国会に提出しようとしている。
 そもそも公的介護は老人福祉法による行政措置として全額が公費で行われていた。それを社会保険制度に変えた2000年の介護保険発足時には食費・居住費は無料だった。それが自己負担にされ、介護保険料も年々上がり続けている。制度自体が過酷で巨大な大衆収奪のシステムだ。
 高齢者世帯、高齢者のいる世帯にとって医療・介護費増のダブルパンチは命にかかわる事態を招く。高齢でも、あるいは体調が悪くても働きに出なければ家族が生きていけない----。こんな社会は絶対に間違っている。何が「持続可能な社会のため」だ。怒りの爆発と決起は不可避である。

新自由主義攻撃に怒りスト爆発

 世界中で新自由主義攻撃に対する怒りが爆発し、ゼネストが闘われている。
 フランスでは12月5日、年金制度改悪に反対して150万人が行動に立ち、ゼネストに突入した。現在も国鉄やパリの公共交通機関の多くが運休している。マクロン政権は鉄道労働者や公務員労働者が早期の退職を認められていることをやり玉に挙げて「特権の廃止=均等化」を打ち出した。実際には全労働者の年金支給開始年齢の引き上げ、年金受給額削減の攻撃である。1月末から清掃労働者もストに入り、パリ周辺の三つのごみ処理施設のうち二つが稼働を停止している。清掃労働者は「自分たちの平均寿命はフランス人の平均より7年短い」と訴え、早期退職制度の継続を求めている。まさに命のかかった闘いである。日本でも同じだ。これに続こう。
 安倍と資本による働き方改革、全世代型社会保障改革は改憲・戦争と一体の階級戦争だ。労働組合の闘いが情勢を決める。「労組なき社会」を許さず関西生コン支部弾圧を粉砕しよう。2・16国鉄集会に大結集しよう。現場の怒りを組織し20春闘に総決起しよう。

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■高年齢者雇用安定法の改定案
70歳まで働く機会の確保を企業の努力義務とする―7つの選択肢
〈企業が雇用する場合〉
❶定年廃止/❷定年延長/❸契約社員など非正規職として再雇用
❹別会社(子会社を含む)での再就職
〈企業が雇用しない場合〉
❺フリーランス(個人請負)契約
❻起業する者への業務委託
❼社会貢献活動(NPOなど)参加支援

■全世代型社会保障検討会議中間報告(2019年12月19日発表)
・高齢者に「支えられる側」でなく「支える側」として活躍していただく
・働き方の変化を中心に据えた年金、医療、介護、社会保障全般にわたる改革
・70歳までの就業機会確保、兼業・副業、年金受給開始年齢の選択の拡大
・年齢ではなく負担能力に応じた負担に
・75歳以上でも一定所得以上は医療費の窓口負担を現行の1割から2割に

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