3・11反原発福島行動へ 民衆への大量被曝強制を肯定 ICRPの新勧告案を断罪する

週刊『前進』04頁(3110号03面02)(2020/02/24)


3・11反原発福島行動へ
 民衆への大量被曝強制を肯定
 ICRPの新勧告案を断罪する


 福島第一原発事故から9年を経た今春、ICRP(国際放射線防護委員会)は「大規模原子力事故における人と環境の放射線防護」という新勧告案を決定しようとしている。ICRPは、原発・核燃料サイクル推進勢力(資本家階級)が労働者に被曝を強制し、それを合理化するための国際的司令機関である。新勧告案は福島・チェルノブイリ原発事故のような大量被曝強制を肯定・容認している。徹底的に断罪する。

致死線量の1シーベルトまで推奨

 まず、労働者への被曝の強制についてはっきりさせることが必要だ。原発労働者は通常の運転時でも被曝を強いられている。ICRPはこれを「計画被ばく状況」と名付けて合理化している。さらに大規模原発事故発生時に「緊急被ばく状況」として、事故対処で最も過酷な放射線量の現場への人の投入を認めている。
 今回の新勧告案では、「緊急時初期段階」で事故対応に駆り出される労働者(原発労働者、医療や自治体労働者)や消防士、警官、兵士などについて、被曝制限のための「参考レベル」は「一般に100㍉シーベルトを超えるべきでない」と記している。「参考レベル」とは、いつでも資本家階級の都合のいいように変えるということだ。そして「例外的状況」では「あらゆる実行可能な対策が1グレイ(1シーベルト)程度の被曝量を超えないようにする」と推奨している。だが、この値は致死線量の下限値(1〜2グレイの被曝で10%未満の人々が死に至る)だ。急性致死量の放射線被曝は重度の組織・臓器損傷、凄惨な死をもたらすのだ。
 またICRPは福島第一原発事故直後に出した特別声明で、「ボランティアによる救命活動に対しては線量を制限しない」ことまで求めている。

住民は避難させない方針

 次に住民への被曝強制についても重大だ。新勧告案は、「住民の緊急時の被曝限度参考レベル」は事故対応者と同じ「100㍉シーベルト以下」としている。平時の被曝限度の100倍である。これまでは「20〜100㍉シーベルト」であり、上限に近い値をとるように仕向けている。
 強制避難区域の被曝線量の目安は、チェルノブイリでは5㍉シーベルト以上、福島では20㍉シーベルト以上だ。支配階級はこれらの二つの原発事故で、住民の避難が自分たちの経済的・社会的利益を激しく損なったことを反動的に総括して、今後、大規模事故が起きた場合、100㍉シーベルト以下なら避難させないということだ。実際、避難について「病院・老人ホームの患者などの避難は害の方が大きかった」と幾度も強調し、また「長期にわたって大規模に実施することは破壊的であり困難」と、新勧告は避難に徹底して否定的である。
 また緊急時以降の「回復期」とみなされる「現存被曝状況」では「年間10㍉シーベルト以下、長期的な目標は年間1㍉シーベルト程度」としているが、これまでは「年間1〜20㍉シーベルトの低い方、長期的には年間1㍉シーベルト」だった。「目標」とか「程度」とかの表現で下限の実現をあいまいにし、現行被曝限度の1㍉シーベルトの10倍の10㍉シーベルトを押し付けようとしている。
 この間の医学的・科学的知見の発展、反核・反原発闘争の粘り強い展開のなかで、低線量・内部被曝の危険性が一層明らかになり、今日では欧州放射線リスク委員会(ECRR)は公衆の被曝線量限度を年0・1㍉シーベルトと主張している。ICRPの新勧告案はこの世界史的流れを根底から覆そうとしているのだ。

核戦争の正当化狙う米帝

 これまで帝国主義・スターリン主義の支配階級は、核武装と原発政策で労働者人民に多大な被爆・被曝を強制し、放射線による殺傷行為を積み重ねてきた。その最大の核犯罪がヒロシマ・ナガサキ、ビキニ、チェルノブイリ、そしてフクシマである。こうした核犯罪を肯定・隠蔽(いんぺい)し、その犯罪者を擁護・免罪するための手引書を作成し、核戦争と原発事故を拡大再生産する国際的核犯罪組織がICRPなのである。ICRPは米帝の影響力が極めて強く、今回の新勧告案には核戦争を正当化し推進していく米帝の狙いが透けて見える。
 危機を深める米帝は昨年8月、中距離核戦力(INF)全廃条約を失効させ、直後に地上発射型巡航ミサイルの発射実験を行い、今年2月には小型核弾頭搭載の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を実戦配備した。さらに米日帝は沖縄・本土への中距離核ミサイルの配備も計画している。
 米軍が昨年発表した文書「核作戦」は、実際に核兵器を使った後の放射能まみれの戦場で兵士が軍事作戦を展開することを想定し、適切な防護措置をとれば安全としている。
 日帝・安倍政権もまた、日米間の同盟と対抗のきしみの激化のなかで帝国主義としての生き残りをかけて改憲攻撃に突進し、同時に独自の核武装化の衝動をますます強め、核兵器材料のプルトニウムを生産する原発・核燃料サイクルにどこまでもしがみついている。今回の新勧告案は、ICRP日本委員の甲斐倫明(放射線審議会委員)と本間俊充(原子力規制庁、元原子力研究開発機構所属)が策定した。ここに新勧告案にかけた日帝の思惑が露骨に表現されている。
 「帰れば被曝、残れば貧困、そのうえに住宅無償提供の打ち切り」「だれかの犠牲のうえに成り立つ原発はいらない」----この福島の怒りの声は、ICRP新勧告案の欺瞞(ぎまん)性を根底から暴き告発する。ICRP新勧告案を国際連帯で打ち砕こう。
 日帝の核武装阻止、すべての原発・核燃サイクルをただちに廃絶へ。改憲・戦争阻止、「復興オリンピック」反対、安倍打倒を合言葉に3・11反原発福島行動に総決起しよう。
(河東耕二)

大規模原発事故が発生した場合の新勧告案の被曝限度参考レベル
緊急被曝状況 現存被曝状況 〈備考〉
平時の被曝限度
対応者
(原発労働者等)
100mSv以下 ※例外的に1Sv程度以下 年20mSv以下 年平均20mSv
(職業被曝)
一般公衆 100mSv以下 年10mSv以下 年1mSv
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