国鉄分割・民営化の破産 JR各社の現状 JR東 検修の大再編を構想 「人手かけないメンテ」で安全破壊

週刊『前進』04頁(3122号02面04)(2020/04/06)


国鉄分割・民営化の破産
 JR各社の現状
 JR東 検修の大再編を構想
 「人手かけないメンテ」で安全破壊


 JR東日本における車両のメンテナンスは、これまでは自動車の車検と同様、大きくは「定期検査」という形で、総合車両センターと車両センターで行われてきました。国鉄時代から続けてきたこの車両メンテナンスの仕組みを、JR東日本は昨年打ち出した「ミライの車両サービス&エンジニアリング構創」により、今後30年かけて大転換しようとしています。

郡山は部品工場に

 「ミライの車両サービス&エンジニアリング構創」の核心は、①走行距離や走行時間を基準に定期的にメンテナンスしてきたTBM(タイム・ベースド・メンテナンス)から、車両の各部品や機器の動作状況をIoT(モノのインターネット)でデータセンターに集約・分析し、故障の予兆をつかんでメンテナンスするCBM(コンディション・ベースド・メンテナンス)に転換する、②AIやロボットの導入でメンテナンス業務を自動化・機械化し、「人手をかけないメンテナンス」にして人件費を極限的に削減する——というものです。
 10両編成の車両を一括で昇降させる装置を導入するとか、マルチ検修ラインを建設するとか、台車交換・機器修繕・車体検査の自動化・機械化を図るとか、あまりに現場実態とかけ離れた構想であるため、管理職ですら「どうやれば実現できるのか説明ができない」と当惑しているような代物です。しかし山手線や東京総合車両センターなどで「モニタリング保全体系」として着手されています。
 一方、東北地方では、各地に点在している車両センターを仙台、盛岡、秋田の各エリアごと一つに集約し、集約された車両センターには、1両ごとに切り離さなくて済むような長大な建屋を建設し、ロボットによる消耗品の取り換えや、清掃作業の機械化・自動化を図るとしています。
 現在、定期検査全般を施工している郡山総合車両センターについては、各車両センターで取り外した部品をトラックで運び込んでメンテナンスする部品修繕工場にするとしており、実質的な規模縮小です。JR東日本テクノロジーなどのグループ会社が請け負ってきた車両検修ラインや台車検修ラインが丸ごとなくなります。なお、東北は基礎調査に入る前の段階であり、まず首都圏から始めて地方で進めていくものと思われます。

青年の動きがカギ

 現在のJR東日本の社員構成は、国鉄採用が1万数千人、JRになってから採用された「平成採」が約4万人です。平成採は「鉄道事業からサービス産業へ」と転換する過渡期前期の世代であり、鉄道の仕事に誇りを持ち、技術を積み上げてきた世代です。実際に、技術職にとどまりたいと管理職試験を拒否し続けている青年や、溶接技術を磨きたいと、その業務が外注化されると同時にあえて外注先に出向している青年もいます。その労苦を否定され、一握りのキャリア組や管理者になるのか、それともグループ会社に出向・転籍するかの二者択一を迫られています。
 郡山総合車両センターでは大量の平成採が東労組から脱退しましたが、それは会社への忠誠心からではありません。社友会も求心力を持てず、本社の幹部が時折、来所して訓示と称するオルグを行っています。最大の矛盾が押し付けられた平成採の青年層から労務支配の崩壊は始まります。一切は彼らがどう動くのかにかかっています。
 AIやIoT導入で車両の状態監視とメンテナンスの判断が可能になったとしても、車両に手をかけることができるのは現場の労働者です。

職場から反撃する

 鉄道車両は電気機器と相当な重量の機械部品から成る、多種膨大な部品の集合体です。機械部品と機械部品の接合と擦り合わせ、電気部品と電気部品の電気接続が、メンテナンス業務の「肝」であり、労働者の手間と技術を排除することはできません。
 しかも、過酷な運行環境などによる故障は千差万別であり、メンテナンスは画一的にはできません。山手線の電柱倒壊、新幹線や私鉄での台車亀裂などの重大事故は、会社のコスト削減・要員削減・技術継承の破壊が原因ですが、労働組合を一掃する攻撃を前に闘う労働運動が後退していることも、他方の原因です。
 JR東日本は台風19号による損失と新型コロナウイルスによる収入減を見込み、車両メンテナンス予算の大幅削減(郡山総合車両センターでは25%)を強制しています。これは車両の安全性低下を招くばかりか、グループ会社の経営を圧迫し、エルダー再雇用を含むグループ会社全体の雇用の圧縮につながります。
 郡山総合車両センターでJRは、車両エルダー(退職後の再雇用は原則グループ会社への出向となるが、出向させずJRが直接雇用する車両系社員の俗称。出向より労働条件が良い)から東労組組合員を排除する新たな労務政策をとり始めました。それは東労組組合員の大きな動揺と怒りを生み出しています。これに平成採の動向が複雑に絡み合い、予測のつかない激動情勢に入っています。ここに食い込まなければなりません。
 3月上旬に実施された職場代表選挙の結果は、社友会候補161票、東労組候補76票、私・橋本光一は昨年より7票増の20票、棄権12票でした。来年に向け、さらに職場の一人一人と思いを共有し、つながりを強めることが求められています。「ミライの車両構創」と対決し、車両メンテナンス職場で労働組合運動の再建を勝ち取らなければなりません。その道を動労福島が切り開きます。
(動労福島委員長・橋本光一)
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