「定年延長」はわなだ 死ぬまで無権利・低賃金 高齢者雇用法の影響は全世代に

週刊『前進』04頁(3122号03面01)(2020/04/06)


「定年延長」はわなだ
 死ぬまで無権利・低賃金
 高齢者雇用法の影響は全世代に


 政府は3月31日、コロナをめぐる混乱の中で高年齢者雇用安定法(高年法)の改悪を強行。70歳までの就業の選択肢として請負や有償ボランティアを加えた。今国会では、公務員全体の賃金を下げて定年を65歳にする法案の早期成立も狙う。共に高齢者雇用を水路に全世代の賃金を引き下げ、無権利化する大攻撃だ。

個人請負かボランティア

 現行法は企業に定年の廃止や延長、再雇用などで65歳まで働ける機会をつくることを義務づけている。改悪法は努力義務としてこれを70歳まで延長し、新たに個人請負(フリーランス)や社会貢献活動への参加支援などを選択肢に加えた(表参照)。来年4月から施行し、政府は今後、年金受給開始年齢の70歳超への引き上げを見越した義務化も狙う。
 社会貢献活動とは非営利組織(NPO)での有償ボランティアを指す。個人請負と同様、労働基準法や最低賃金などの規定から外される。企業は雇用責任を問われなくなり、契約打ち切りで即、雇い止め。労災事故でも救済されなくなる。それは資本にとっては好都合極まりなく、労働者にとっては地獄である。そのことがコロナ危機の中で暴かれている。ここに改悪法の最大の意味がある。
 定年を過ぎたら子会社・別会社の非正規職、あるいは労働者としての権利を奪われる個人請負、有償ボランティアとして働かされる----。資本はいつでも使い捨て可能で最低賃金かそれ以下もありうる安上がりな雇用に走ることになる。改悪法は雇用制度全体を破壊し労働者保護法制に大きな風穴を開けるものだ。
 1月、経団連は経営労働政策特別委員会報告を発表。「労働生産性の飛躍的向上」を終身雇用、年功型賃金などが阻害しているとして、「ジョブ型雇用」の導入を求めた。これまでの正社員型ではなくジョブ(業務)による雇用と評価に基づく賃金に変える。業務がなくなれば解雇、賃金も評価次第。労働者の抵抗は減り、労働組合も一掃できる。
 存亡の危機に立つ安倍と資本は、改憲と一体で戦後の雇用・人事・賃金制度と労働組合の解体を狙う。その歴史的攻撃の柱に高年法が位置づけられている。

90代まで働かざるをえない現実

 安倍は「働き方を中心に年金、医療、介護全般にわたる改革を進める」と公言してきた。改悪高年法は年金支給額のカットと受給開始年齢の引き上げ、社会保険、医療・介護負担の増額と結合して、高齢者を労働に駆り出し死ぬまで搾り取ることを狙う。
 有償ボランティアの典型といえる自治体のシルバー人材センターの実態はどういうものか。東京のA区では、入会説明会でまず自分たちが「労働者」ではなく「会員」(年会費千円)であることの承認を求められる。入会を認められるとセンターの紹介する業務を行って「報酬」をもらう関係となる(同時に委託した企業からセンターに業務料金の7%、時給換算で700円以上の手数料が入る)。
 業務のほとんどが委託契約だ。「報酬」は最低賃金ぎりぎりか下回ることもある。最高齢者は公園の清掃をしている90代の男性。年金だけでは生活できないのだ。複数の業務をかけ持ちする高齢者も多い。仕事は以前は公務員が行っていた公園や学校施設、駐輪場などの管理・清掃、介護・保育補助などに加え、マンション・ビルの清掃、チラシ配りやスーパーでの作業など多方面にわたる。高齢者も社会を支えている。
 けがをしても労災保険が適用されず、見舞金程度が支給されるだけだ。だから「くれぐれも事故を起こさないでほしい」と念を押される。しかし当然のことだが高齢者の事故は多い。事故や入院は家族を含めた命と生活の危機に直結してしまう。
 政府と資本は「働き方改革」と称して、ここまで高齢者を労働に駆り出そうとしているのだ。

公務員の定年延長が先行

 政府は3月13日、公務員の定年を2022年度から30年度までに65歳に引き上げる法案を閣議決定した。今国会での成立をめざし、公務員を先行させて民間への波及を図るという。
 自治労や日教組などの公務員連絡会は「公務員の定年引き上げに関する法律案が国会に提出された。速やかな法律案の成立をめざす」と公言し、安倍と手を携えて推進しようとしている。

評価制度を徹底40代で賃金抑制

 しかし65歳への定年延長法案は許しがたい代物だ。60歳を超えた職員の賃金は直前の7割に抑え、付則で40〜50代を中心に賃金カーブを抑えると明記。能力・実績に基づく評価制度を徹底し賃金に反映させるという。全世代の賃下げを進め労働者の分断、団結破壊を狙う大攻撃だ。
 現場からは「60歳で退職金を得ることで再任用後も6割の賃金でなんとかやっていける。60歳でもうゆっくりしたいというのが本音だ」「退職金が出ないまま、これまで以上に減らされた賃金の7割で65歳まで働かせるなんてとんでもない」という声が上がる。さらにその後は会計年度任用職員制度による無権利・低賃金、評価による1年ごとの解雇の重圧が加わる。
 今年の人事院・人事委員会勧告との闘いは大激突となる。現場から絶対反対の闘いを巻き起こそう。

「みんなで押しかけよう」

 3月下旬、シルバー人材センターの仲間との会合で80歳の方から安倍の「一斉休校」で学校の放課後開放の仕事がなくなり、賃金がもらえなくなっていることが話された。夫婦2人で国民年金は月10万円。今も共働きで自分も公園の清掃をやっているが収入が足りずダブルジョブをしないと生計が立たない、どうしようという相談だ。近くの都立学校で給食調理が打ち切られて困っている人がいることも話題になった。最後は「みんなで押しかけよう。賃金の補償を求めよう」という結論になった。
 高齢者も労働者だ。食えるだけの賃金をよこせ。新型コロナ感染拡大と恐慌の進行が全労働者を直撃している。事業縮小・倒産による大量解雇・リストラ、賃金未払いが始まっている。命をかけた闘いの時だ。あらゆる怒りを結集し、団結をよみがえらせて闘おう。

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企業の就業機会確保の選択肢
■現行法(65歳までの雇用義務)
①定年廃止 ②65歳以上への定年延長
③65歳まで契約社員など ④子会社で雇用
■改定法(70歳までの努力義務)
①定年廃止 ②70歳以上への定年延長
③70歳まで契約社員など
④子会社・他企業で雇用
〈新たに追加、雇用関係なし〉
❺個人請負契約
❻起業する者への業務委託契約
❼社会貢献活動(NPO)参加支援

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