革共同教育労働者委員会アピール コロナ利用した民営化反対 職場の怒りを教組の闘いへ

週刊『前進』04頁(3140号02面01)(2020/06/15)


革共同教育労働者委員会アピール
 コロナ利用した民営化反対
 職場の怒りを教組の闘いへ

(写真 アメリカの公設民営学校「ロケットシップ・エデュケーション」。「個別最適化された学習」のもとパソコンに向き合う子どもたち)


 安倍政権はコロナ危機を利用して公務労働の規制緩和・民営化、労組破壊を激化させている。「コロナ恐慌」で崩壊が迫る資本主義の生き残りをかけて民営化を徹底し、社会の隅々まで資本の金もうけの場にしようとしているのだ。その核心は総非正規職化であり、労働組合を一掃して改憲・戦争へと突き進む攻撃だ。昨年12月に閣議決定した「GIGA(Global and Innovation Gateway for All)スクール構想」の前倒しもコロナ危機を利用した公教育の全面民営化の宣言にほかならない。コロナ危機は新自由主義による社会の崩壊を白日の下にさらし、労働者階級の根底的な決起を呼び起こしている。世界は革命情勢だ。新自由主義を粉砕し、労働者階級が社会のすべてを奪い返す時が来た。全国の教育労働者は今こそ、自らと子どもたちの未来をかけて反撃に立ち、職場支配権を奪い返し、闘う教組をよみがえらせよう。

教職員と子どもたちの命守る新たな闘い

 コロナ休校から3カ月。全国で学校が再開された。
 安倍による突然の休校による大混乱の中で、教育労働者は非正規教職員の解雇攻撃と闘いながら、子どもたちの安否確認や学習プリントの配布など、職場の団結をよりどころに学校と子どもたちをつなげ続けてきた。
 そして今、教育労働者自らと子どもたちの命を守りながら学校教育を再開するという、誰も経験したことのない新たな闘いに突入している。
 だが新自由主義教育によって破壊されてきた学校現場----過労死に至る長時間・過重労働や非正規職化と評価制度による職場の分断など----では、命も教育も守ることはできない。
 安倍政権は第2次補正予算で学習指導員など約6万人を追加配置するというが、全国の公立小・中学校の数は約3万校、1校に2人程度、しかも非正規職だ。安倍も、教育委員会も何の責任もとらない。それどころか、この危機を利用して「オンライン化」による教育の全面的な民営化すら狙っている。
 こんな連中は一刻も早く倒さなければならない。職場には怒りが渦巻いている。これまでの教育の根本も問い直され始めている。命を守るために職場丸ごと組織し闘おう。

オンライン教育強制に現場から反撃開始

 安倍が突然のコロナ休校を宣言した翌日の2月28日、まるで示し合わせたかのように、経済産業省は新型コロナ感染症による学校休業対策として「#学びを止めない未来の教室」プロジェクトを始動させ、ウェブサイトでEdTech資本によるコンテンツ無償提供などのキャンペーンを開始した。また補正予算では、全国の小中学生に1人1台のタブレット配布と高速大容量回線を設置する「GIGAスクール構想」を前倒しし、2292億円を投じることが決定された。この金に、すでに国内外のIT、教育関連資本が群がり始めている。休校宣言は改憲のための緊急事態宣言への水路であったのと同時に、公教育を全面民営化するためのGIGAスクール構想をショック・ドクトリン的に全面展開するためのものであったのだ。
 5月27日に強行採決されたスーパーシティ法は、国や自治体が持つ膨大な個人情報を資本に提供し、住民・都市を丸ごと金もうけの対象にすると同時に、AIによる監視社会をつくろうとするものだが、その一角には教育分野も含まれている。それを推し進める戦略がGIGAスクール構想だ。
 3カ月に及んだ休校期間中、マスコミは「オンライン教育こそが子どもの学習権を保障する」かのようなキャンペーンをあふれんばかりに流し続けた。また、「双方向型のオンライン指導は全国でたった5%しかない」と、日本の学校のIT環境の「立ち遅れ」が危機感を込めて垂れ流された。こうやって意図的に作られた空気の中で、全国の学校現場では市長―地方教育委員会のトップダウンの指示のもと、なだれを打ったように動画作成・配信やオンライン授業が選択の余地がないもののように現場に強制されていった。
 しかし、このトップダウンによるオンライン教育の強制は、現場教育労働者の決起を生み出し、労働組合への団結のみがコロナ下での教育労働者と教育を守るすべであることが再認識され始めた。このことはこれから始まる闘いにとって決定的であった。

「GIGAスクール」は公教育を解体する

 オンライン教育は、学ぶ権利を保障するツールであるかのようにキャンペーンされている。現場の教職員自身も戸惑いを覚えている。だが、その真の狙いは、最後に残された資本の金もうけの場である公教育の解体と全面民営化であり、教育労働者の解雇と総非正規職化、ICT(情報通信技術)教育によって得られる「学びの」ビッグデータによる子どもたちの完全な序列化・選別化だということだ。
 そのことは2019年6月に経産省が公開した 「『未来の教室』とEdTech研究会 第2次提言」を読み込めば明らかになってくる。提言冒頭には「日本の産業はかつての国際競争力を喪失した。平成初期には日本企業が上位を独占していた世界の企業時価総額ランキングにおいても、日本企業はその上位から姿を消した。行政、ビジネス、医療その他社会の諸分野の変革で世界をリードしようと、Society5.0の実現が謳われている。しかし、国内の社会システムの転換、社会の意識変革、そして新しい社会に対応した人材育成が追いついているとは言い難い」と、没落する日本帝国主義の敗北宣言から始まっている。そして、それを突破するための「学びのSTEAM化」を、「1990年代から2000年代初頭の米国において、産業競争力を支えるハイテク産業に従事できる人材の不足が不安視され、その対策として進められた教育改革のキーワード」として後追いすることを提言している。
 ここで「未来の教室」提言からGIGAスクール構想のもつ三つの反動性をはっきりさせたい。

「第3の国鉄分割・民営化」と同じ攻撃

 一つは、「知識はEdTechで学んで効率的に獲得し、探究・プロジェクト型学習(PBL)に没頭する時間を捻出」として、従来型の〝同じ教室で一斉に知識を教える学校のあり方〟を根本から転換し、〝知識は好きな時間に、好きな場所でオンラインで習得すればいい〟としていることである。初等中等教育においては、知識の習得は自分で考える土台づくりであり、教育活動の多くはそのためになされていると言っても過言ではない。だが提言は、もはや教員も、ともに学ぶ場としての教室も必要ないというのだ。
 また提言では、教員免許制度の大胆な規制緩和に言及し、教職課程を取得せず大学を卒業していなくとも教育委員会から書類選考で「特別免許状」を与えられたIT企業の従業員などに、教員を置き換えることを狙っている。現在、特別免許所有者の配属は職場の5割以内となっているが、この規制が「障壁」だというのだ。
 教育の民営化による「血の入れ替え」で、日教組を壊滅させることが狙われている。まさに、JRにおける運転士・車掌の職名廃止とまったく同様の「第3の国鉄分割・民営化攻撃」が学校現場にかけられようとしている。
 二つに、教育のICT化を「働き方改革」と絡めて、あたかも教育労働者を過労死労働から解放する手段であるかのように描き出していることである。しかし、休校中のオンライン教育強行と学校再開に伴うコロナ以前にも増した過重労働は、瞬く間にそのデタラメさを明らかにしている。
 三つに、スーパーシティ法がそうであるように、GIGAスクール構想では、日本中の小中高校生の学習ログ(記録)が日常的にビッグデータとして民間資本の手に渡ることになる。提言はその締めくくりで「そのデータの分析結果は教育イノベーションに貢献するかもしれない。また、その分析結果が教育政策上の判断の形成にも役立てられれば、一人ひとりの子ども達に対して、より個別最適化の精度が高い、きめ細かく適切な教育を提供できるようにもなるだろう。さらに、こうしたデータがオープンデータ化されれば、より幅広い企業による教育分野への参入も促され、更なる教育イノベーションにつながる可能性がある」と述べ、〝子どもを使った金もうけ〟であることを隠そうともしない。
 一見、「すべての子どもに最適な学び」が保障されるかのように言っているが、そんなことはあり得ない。資本の要求は、あくまで国際競争に役立つ一握りのエリートの早期育成が目的であり、学習履歴を元にAIが子どもたちを徹底的に選別するのだ。また「個別・最適化された学習」をうたうが、それが資本家階級の描くSociety5.0――解雇自由の自己責任・競争社会!----の構造を前提にして導入されることで、格差や貧困、分断などの矛盾は極限にまで拡大されていくだろう。

新自由主義社会覆す教育労働者の決起を

 「『未来の教室』とEdTech研究会」の事務局を経産省とともに請け負っているのが、ボストンコンサルティンググループ(BCG)である。BCGは、ロサンゼルスをはじめアメリカで公立学校をつぶし、公教育の民営化を推進してきた会社だ。アメリカでは、すでに10年以上前から、公教育のICT化と民営化が国家の政策として推進されてきた。そのもとで、貧困層の子どもたちは学校からも排除され、やっとたどり着いた学校が、コンピュータの並んだブースに区切られた場所で、1人の非正規職のインストラクターが130人の子どもたちを監視する学校だった。
 ちなみに、ロサンゼルス統一教組(UTLA)は、オンライン授業の狙いが「子どもたちの個別化されたビッグデータが商品化されること、そのデータが教員評価に使われること」を指摘し、「何よりも、オンライン授業は絶対に物理的な学校の替わりにはならない」として、2014年、生徒へのiPad支給・授業の電子化に対する反対闘争を行った。今回のコロナ感染に対してUTLAは「先制的休校」を要求し実現させたが、休校期間中に限ってオンライン授業の導入を認めたに過ぎない。
 UTLAは、2010年代前半までは当局と一体になってチャータースクール(公設民営学校)を進める執行部のもとで、組合離れが進んでいた。しかし、民営化が教員と子どもたちの生きる権利、学ぶ権利を根本から奪い尽くし、社会を崩壊させてきた現実の前に、ランク&ファイル(現場組合員)勢力が新たな執行部をつくり出し、昨年、保護者、地域の労働組合を巻き込むストライキを復権させるに至った。昨年のウエストバージニアなどから始まった「教育スト」は、教職員組合が核となって新自由主義と闘う地域、社会の広範な連帯を生み出している。黒人労働者への警察権力の虐殺に対する広範な決起もこういった労組の団結、コミュニティーの力があるに違いない。

タブレットよりも生身の教員増やせ

 今始まっていることは、世界大恐慌であり、労働者階級の闘いがなければ行き着くところは世界戦争である。安倍と資本家階級は、そこまで追い詰められているからこそ、自らの延命をかけて教育の民営化を進め、教組破壊と、一握りのグローバルエリート育成のための教育に転換的に踏み切っている。しかし、そんなことを誰がやすやすと認めるだろうか。
 新自由主義下の格差社会の上にコロナ恐慌が襲いかかっている。今、目の前の子どもたちに必要なものは大容量ランでもタブレットでもない。子どもに寄り添い、あらゆる教育活動を通して仲間と団結して生きていく力を育むのは生身の私たち教育労働者だ。学校が再開され、現場の知恵と団結で感染対策を行いながら教育活動を担っているのは私たちだ。そして、分散登校を通して、初めて日本の学校の多くが20人以下の学級を体験している。教職員をAIやタブレットに置き換える金を正規職の教職員の大幅増員に使ったならばAIなどに頼らなくても血の通った人間の教育が可能だ。
 しかし、この当然すぎる要求は、命より金もうけ、教育さえも金もうけの手段と化する新自由主義社会とは相いれない。この要求は革命を意味する。
 コロナ情勢下で全世界の医療労働者が、団結によって自らと患者の命を守るために根底的な闘いに立ち上がっている。全国の教育労働者のみなさん、私たちも彼ら彼女らに続き、団結の力で職場支配権を取り戻し、子どもたちと私たち自身の命を守るために立ち上がろう。新自由主義社会を覆し教育を奪い返そう。そして闘いの中から教職員組合をよみがえらせ、あらゆる産別、職種の労働者と団結して、改憲・戦争にコロナ恐慌の出口を求める安倍政権を打倒しよう。これこそが、「教え子を再び戦場に送らない」闘いだ。

------------------------------------------------------------
■EdTech(エドテック)
 教育(Education)と技術(Tech-nology)を組み合わせた造語。2010年頃にアメリカで生まれた言葉である。デジタルテクノロジーを活用して教育分野に新たな市場価値を生み出すビジネス。17年に経済産業省が教育産業室を立ち上げ、EdTechの実証事業を推進している。
■Society5.0
 内閣府の第5期科学技術計画において日本が目指す未来社会として提唱されたもの。狩猟、農耕、工業、情報社会に続く第5の社会とされ、IoT(モノのインターネット)やAIなどを駆使して新しい価値を創出し、少子高齢化や地域格差や貧困を解決する「超スマート」社会だと宣伝。実際は、生産性向上の名による大合理化、解雇自由、非正規職だけの社会を想定。そのため教育は、先行き不安の将来の中で、いかに新たな価値=もうけを生み出せるようになれるかに重点がおかれている。
■STEAM(スティーム)
 科学(Science)、技術(Techno-logy)、工学(Engineering)、アート(Arts)、数学(Mathemati-cs)の頭文字を取った造語。教科横断的な学習で、グローバルエリートの育成を狙う。

このエントリーをはてなブックマークに追加