陸上イージス配備を粉砕 住民の闘いで計画撤回に 日米安保体制の危機を露呈

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週刊『前進』02頁(3143号02面01)(2020/06/25)


陸上イージス配備を粉砕
 住民の闘いで計画撤回に
 日米安保体制の危機を露呈


(写真 ルーマニアの米軍基地内に設置されたイージス・アショア)


 6月15日、防衛相・河野太郎は記者会見で、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の秋田県と山口県への配備計画を「停止」すると発表した。配備候補地の地元住民からは、計画の頓挫を喜ぶ声とともに、最初から住民を無視してずさんな計画を進めた安倍政権への怒りが噴出。「停止ではなくただちに白紙撤回しろ」との声に押され、政府は19日に配備計画の撤回を声明せざるを得なくなった。米日政府が合意した安保政策が地元住民の強固な反対の声に阻まれ、撤回に追い込まれたことは重大だ。

落下物・電磁波で命脅かす

 河野は記者会見で、配備計画を停止する理由として、迎撃ミサイル発射の際に使う「ブースター」と呼ばれる推進補助装置を自衛隊の演習場内に落下させるためには、ソフトウェアの改修だけでは不十分だと分かったからだと「説明」した。重さ200㌔グラムのブースターが市民の頭上に落下しないようにするためには、本体の改修も含め何年、何億円かかるか見当がつかないという。こんなことを今頃ぬけぬけと言っているだけでも安倍内閣は即刻総辞職に値する。
 イージス・アショア配備計画は、陸上自衛隊の新屋(あらや)演習場(秋田市)とむつみ演習場(山口県萩市)を候補地として進められてきた。昨年6月には候補地選定の根拠とされた防衛省報告書のデータに「誤り」(事実上の改ざん)が見つかったほか、秋田市の住民説明会では防衛省職員が居眠りをしたり、抗議する住民からマイクを奪い取ったりしたことも発覚。最初から決定ありきで計画を強行しようとする政府・防衛省に住民の憤激が高まり、町を挙げて反対する事態へと発展していた。
 河野が記者会見で認めた、ミサイルの部品などが演習場外に落下する危険性についても、地元住民は計画が持ち上がった当初から再三指摘してきた。ところが防衛省は「遠隔操作で確実に演習場に落下させる」などとうその説明を繰り返した。その根拠薄弱さを指摘されると、防衛省戦略企画課長・五味賢至は「絶対に陸上に落ちないとは言えないが、(北朝鮮の)弾道ミサイルがわが国領域に直撃することと比較すると被害は比べものにならない」(18年10月、萩市議会)と居直った。これには抗議の声が殺到し、演習場に隣接する阿武町の花田憲彦町長も「町民に犠牲になれと言うのか」と声を荒らげた。
 何より問題視されてきたのはレーダーの電磁波の影響だ。イージス・システムに用いられる強力な電磁波は、人間が長時間浴び続けるとがんや白血病を発症するなど深刻な影響を受けることが分かっており、イージス護衛艦はレーダーの使用を沿岸から50カイリ(92・6㌔メートル)以遠に限定、使用中は乗員が甲板に出ることも禁じている。それを住宅街に隣接する地上の基地に配備しようとしたのが今回の計画なのだ。
 新屋演習場の東側には1万3千人が暮らす住宅地が広がり、むつみ演習場は日本海まで約10㌔メートルの間に阿武町(人口約3300人)が位置する。いずれも学校、病院、農地など住民の生活圏と隣接する。「国民の生命を守る」などと言いながら、人間の命も健康も最初から無視した計画を平然と推し進めてきた安倍政権を、絶対に許すことはできない。

核戦争同盟粉砕へ闘おう

 今回の計画撤回は、安倍政権が巨額をつぎ込んで進めてきた軍事大国化政策の根本的破産を突き出すとともに、日米安保体制の危機と本質的な脆弱(ぜいじゃく)さを露呈させている。
 イージス・アショアの導入は、トランプ政権が発足した直後の2017年3月に「バイ・アメリカン(米国製を買え)」の一環として米国側から持ち掛けられ、同年12月に安倍政権が閣議決定。防衛省は当時「一般的な見積もり」として1基あたり800億円と説明したが、19年7月には本体の購入費・維持費だけで2基4664億円、これにミサイル購入費や電力・燃料費などを含めて6千億〜8千億円へと膨張した。
 これほど巨額だが、肝心の弾道ミサイルに対する迎撃能力は多くの専門家が疑問視する代物でしかない。むしろ実際の用途として考えられるのは、朝鮮半島や中国の主要都市を含む半径1500㌔メートルを探知する高性能レーダーにより、北朝鮮・中国への先制攻撃体制を構築することにある。米トランプ政権がロシアとのINF(中距離核戦力)全廃条約を一方的に破棄し、核ミサイルによる先制攻撃も辞さないことを公然と宣言するなかで、日米安保体制は文字通り「核戦争遂行同盟」へと変貌(へんぼう)しつつある。
 だが、核戦争のための安保再編は、住民無視のずさんな計画や軍事予算の膨張を不可避とする。これに対する広範な怒りの声を組織し、絶対反対を貫いて徹底的に闘えば必ず粉砕することができる。沖縄・辺野古新基地建設の破綻もそれを示している。改憲・戦争阻止の闘いを全国に拡大し、米日帝国主義が狙う核戦争を絶対に阻止しよう。

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