教員に年単位の変形労働時間制 9月条例制定を阻もう 組合と地域から反撃へ

週刊『前進』04頁(3152号02面01)(2020/07/27)


教員に年単位の変形労働時間制
 9月条例制定を阻もう
 組合と地域から反撃へ


 文部科学省は7月17日、公立学校への「1年単位の変形労働時間制」導入に向けた省令を告示し、9月の都道府県、政令市での条例化―2021年度実施への道筋を示した。文科省は、教員の休暇を夏休みにまとめ取りできるようにするという。だが、コロナ情勢下で教育労働者は夏休みさえとれずに必死に働いている。まさにこの時に、「休みのまとめ取り」⁉ 現場をまったく無視した許しがたい攻撃だ。条例化を阻止しよう。

必要なのは正規増員と20人学級

 今、学校現場は、教室の消毒、休校中に失われた授業時数を取り戻すための土曜授業の実施や夏休みの短縮など、コロナ以前よりも過重労働が強いられている。感染対策に気を配りながら、休校によるストレスだけでなく保護者の失業・解雇で経済的な不安を抱えた子どもたちへの対応に追われている。教育労働者の緊張の糸は今にも切れそうだ。
 今、何よりも必要なのは、正規雇用の教職員の倍増と20人学級である。このことは、コロナ情勢下で多くの教職員が心底実感するところだ。
 こうした抜本的な改善が必要であるにもかかわらず、安倍や文科省がやっていることは非正規職化の推進である。文科省は4月に「学校・子供応援サポーター人材バンク」を設置し、非正規職の教員約3千人と、退職教員や教員免許を必要としない学習指導員やスクール・サポート・スタッフら約8万人を募集した。公立小中高約3万6千校に配置するというものだが、1校あたりわずか2〜3人にすぎない。しかしそれすら破産している。応募者は現在、約1万9千人しかいない。しかも自治体が財政の3分の2を負担するため、実際に応募があっても採用できない自治体もある。教育格差はさらに拡大する。
 さらに正規職も増やさずやっていることは、タブレットを児童・生徒に1人1台配るというGIGAスクール構想だ。ICT(情報通信技術)産業が教育で金もうけして、教育の民営化を推し進めている。これを「新たな日常」として全面化することを狙っているのだ。今にわかに政府の骨太方針や安倍の諮問機関である教育再生実行会議でも少人数学級が検討され始めているが、それはわれわれが望む少人数学級ではなく、オンライン授業やAIを使ったドリルで教室も教員も必要ない、だから少人数学級でいいという、およそ本来の教育とかけ離れたことを想定しているのだ。
 このコロナ情勢下で教育労働者と子どもたちの命や生活を守るには、非正規職化やICT化、ましてや変形労働時間制導入でないことは明白である。

8時間労働制解体に絶対反対を

 あらためて教員への年単位の変形労働時間制とは何かをはっきりさせ、絶対反対で闘うことを訴えたい。
 これは昨年12月、給特法(教育職員給与特別措置法)の改悪によって教員にも導入することが可能になった制度である。
 教員の所定労働時間は現在、7時間45分。繁忙期にこれを10時間に延長し、閑散期とされる夏休みなどに延長した分をまとめて休暇にするというものである。
 文科省はこれを、学校が長時間・過重労働の温床であることが知れ渡り教員採用試験の倍率が危機的状況にまで低下してしまったことに対する「魅力向上」の打開策として打ち出している。だが自ら明言しているように、「日々の教師の業務や勤務時間を縮減するものではない」のだ。変形制導入は、過労死や精神疾患に至るほどの長時間・過重労働を解決するどころか、その実態を追認し、定時を延ばすことでさらに過労死を促進させかねない。8時間労働制を根本から解体する歴史的暴挙である。とりわけ、全労働者にかけられた「新たな日常」と称した雇用・賃金破壊をめぐる重大な攻防と一体だ。
 そしてもう一つ重要なのが、この制度を導入する前提としてセットで行われた、残業を月45時間、年360時間(省令では月42時間、年320時間)までとする「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」の指針化(以下「指針」)だ。これはすでに今年度から施行されている。
 教員には給特法の規定により4%の手当しか出さないかわりに、「超勤4項目(修学旅行や職員会議など)」以外の残業をさせてはならないことになっている。部活動など日常的に超過勤務をしていても、それは自発的勤務とみなされ、残業代も出ない。「指針」では、それを「在校等時間」とみなして校長が勤務時間として管理することをうたっている。つまり超勤4項目以外の残業を日常的業務かつ校長の管理監督下の勤務として認めたということだ。ならば残業は当然にも労働時間とみなされなければならない。しかし「指針」はそれでもなお、残業は「自発的勤務」と強弁し、「労働基準法上の『労働時間』には含まれない」と、道理をねじ曲げているのである。労働基準法違反そのものだ。
 こうして労働者の基本的な権利を踏みにじった上に、「短時間で成果を上げた教師に高い評価を」とする成果主義、統合型公務支援システムとGIGAスクール構想によるデジタル化で教職員を管理・統制していこうとしている。
 しかし「在校等時間」の定義にこそ矛盾がある。この弱点を突いて、労働基準法を守らせ、8時間労働制を今こそ職場の団結した力でかちとっていこう。すべては職場の力関係次第だ。

学校崩壊の現実を変えるのは今

 省令が発令されたことによって、変形労働時間制の都道府県、政令市の9月議会での条例化↓市区町村教育委員会での管理規則の制定↓各学校への導入、というプロセスが動き出した。
 しかし、変形制にしろ、残業上限規制にしろ、あまりに現場の実態とかけ離れており、矛盾は拡大するばかりである。これは、安倍や文科省が推し進めてきた国家と資本のための教育、新自由主義「教育改革」が全面破産した姿そのものだ。彼ら自身、「長時間労働のままでは学校は持続不可能」と語るが、安倍や文科省は反省するどころか、何一つ責任をとらない。9月条例化阻止を、闘う教職員組合をよみがえらせることを軸にすえ、地域住民と共に学校崩壊の現実を根本的に変革していく出発点にしよう。そして医療労働者の闘いに続き、新自由主義への反撃を開始しよう。
 北海道や秋田県、高知県などの市町村議会では導入反対の意見書が決議され、県に提出されている。各市区町村議会で反対決議を挙げるよう働きかけよう。
 何より重要なのが、地方公共団体の当局は教職員組合との交渉に応じなければならない点だ。主導権は職場にある。闘いはこれからだ。職場から議論をまきおこし、今こそ教職員組合をよみがえらせよう!
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