大恐慌とは大失業と戦争だ 29年超える世界経済の大崩壊 労働者の力でコロナ危機を革命へ

週刊『前進』04頁(3159号03面01)(2020/08/31)


大恐慌とは大失業と戦争だ
 29年超える世界経済の大崩壊
 労働者の力でコロナ危機を革命へ

(写真 6月、黒人男性ジョージ・フロイドさんの虐殺に抗議する怒りのデモ【米ミネソタ州】)


 新型コロナウイルスの感染者数は全世界で2千万人を超え(8月11日、米ジョンズ・ホプキンス大学の集計)、依然として拡大し続けている。これと一体で、1929年を上回る大恐慌が世界経済を激震させている。この〈コロナ×大恐慌〉情勢は、一方では米中対立の果てしない激化と新たな戦争(核戦争・世界戦争)の危機を急切迫させ、他方では全世界の労働者階級人民の生存と未来をかけた階級闘争の激化をもたらしている。本紙3154号夏季アピールで明らかにしたように、われわれの眼前で起きているのは、およそ40年にわたる新自由主義の歴史的・全面的な破産であり、革命的情勢の本格的な成熟にほかならない。

米欧日が空前のマイナス化

 〈コロナ×大恐慌〉情勢の歴史的巨大さ、それが資本主義世界経済に与えた壊滅的打撃の深刻さは、この7、8月過程で相次いで公表された米欧日のGDP(国内総生産)成長率のかつてない大幅なマイナス化によって示されている。
 まず、7月31日に欧州連合(EU)統計局が発表したユーロ圏19カ国の2020年第2四半期(4〜6月期)のGDPの速報値は、物価変動を除いた実質で前期比12・1%減、年率換算で実に40・3%減となった。第2四半期から21年にかけて回復に向かうとした欧州中央銀行(ECB)の予測をもろくも覆した。国別では、ドイツ10・1%、フランス13・8%、イタリア12・4%、スペイン18・5%と軒並み大幅なマイナスとなった。
 さらに、イギリスの国家統計局が8月12日に発表した4〜6月期の実質GDPは前期比20・4%減、年率換算で59・8%減となり、ユーロ圏諸国よりさらに大く落ち込んだ。
 何より、戦後世界の基軸国にして経済規模も世界最大、そして今回のパンデミックで感染者数が500万人を超えたアメリカは、7月30日に商務省が発表した4〜6月期の実質GDP(季節調整済み)速報値が前期比9・5%減、年率換算で32・9%減となり、1947年の統計開始以来最大の下げ幅を記録した。リーマン・ショック直後の2008年10〜12月期ですら年率換算で8・4%減だったのに比べると、コロナ危機の深刻さは明らかだ。
 そして日本は、8月17日に内閣府が発表した速報値で、同じく4〜6月期の実質GDPが前期比7・8%減、年率換算では27・8%減となり、やはり統計開始(1955年)以来最悪を記録した。日本経済の景気後退は消費増税の影響で2019年10〜12月期から始まっており、主要国の中では唯一、3四半期連続のマイナス成長となった。
 なお世界貿易機関(WTO)によると、この4〜6月の世界のモノの貿易量は前年同期比で18・6%減となり、この点でも歴史的な落ち込みを示した。
 これらの数値は、〈コロナ×大恐慌〉が1929年世界大恐慌をはるかに超える規模と内容を持つことを示している。29〜32年に世界各国の国内総生産は推定で15%程度減少したと言われるが、今回の事態は文字通り桁外れというほかない。これがもたらす大失業も空前のものとなる。

ローン担保証券がデフォルトに

 リーマン・ショック以降長期にわたって続いた金融緩和のもと、ハイイールド債(「ジャンク債」と呼ばれる低格付け・高利回りの債権)だけでなく、レバレッジドローンと呼ばれる信用力の低い企業への融資、さらにそれを原資とした高リスクの金融商品であるローン担保証券(CLO)が大量に売りさばかれてきた。レバレッジドローンは、リーマン・ショックの引き金となったサブプライムローン(低所得者向け住宅融資)の企業向けローン版ともいえるが、その市場は07年の5540億㌦から19年末には1・2兆㌦にまで拡大し、昨年の時点で連邦準備制度理事会(FRB)などがたびたび「金融安定性への脅威」として警告を発していた。
 米大手格付け会社フィッチによると、今年5月までの1年間でレバレッジドローンのデフォルト(債務不履行)が急増しており、さらに年末までに小売業などに貸し付けられた大量のローンがデフォルトに陥るとみられている。銀行や保険会社などがCLOを大量に購入しており、巨額の損失が出るとみられている。
 結局のところ、過剰資本の重圧とそのもとでの利潤率の低下にあえぐ米金融資本は、リーマン・ショックから何一つ「学ぶ」ことができず、同じことを繰り返し、新たな金融危機と一層激烈な大恐慌の爆発を準備するしかないのである。

米中激突下で核戦争が切迫

 今回の〈コロナ×大恐慌〉がリーマン・ショック時と異なるのは、コロナ危機で「グローバル経済」が破綻、米中激突という歴史的な危機を激化させていることだ。米中激突は7月23日の米国務長官ポンペオの演説(要旨別掲)をもって新たな段階を迎えた。
 そもそもトランプ政権の対中政策は、16年大統領選でトランプが掲げた「貿易不均衡の是正」や、政権1年目の17年秋にトランプが訪中した際の「ディール(取引)」といった次元をはるかに超え、アメリカ帝国主義の国家的存亡をかけて中国の現体制(残存スターリン主義)の転覆をめざすものへとエスカレートした。その国家意思を公然化させ、1972年のニクソン大統領(当時)訪中以来かつてない「中国敵視」をあらわにしたのが、2018年10月の副大統領ペンスの演説だった。以後、貿易戦争の激化や中国通信機器大手ファーウェイ(華為技術)への制裁強化と並行して、国防総省を中心に米帝国家権力中枢の意思統一が急ピッチで進んだ。
 その対中国戦略の集大成といえるものが、今年5月の連邦政府報告書「米国の中国に対する戦略的アプローチ」であり、7月のポンペオ演説である。一昨年のペンス演説に比べて際立っているのは、同盟国を総動員した「中国包囲網」の構築を公然と打ち出したことだ。すなわちポンペオは、「欧州、アフリカ、南米、とくにインド太平洋地域の民主主義国家の尽力が必要だ」「経済、外交、軍事力を適切に組み合わせなければ、(中国の)脅威に対処できない」などと主張し、「新たな民主主義同盟」と称する反中国の有志連合まで呼び掛けたのである。
 ポンペオ演説の背景にあるのは、実際には世界経済からの「中国排除」が思うように進まず、「米国の旗色は良いとはいえない」(日経新聞8月15日付)という状況への焦りといらだちにほかならない。

中距離ミサイル日本に大量配備

 すでにトランプ政権は制裁措置を通じて、ファーウェイやZTE(中興通訊)といった中国の通信大手との取引を停止するよう世界中に圧力をかけているが、中国へのデカップリング(切り離し)と包囲は経済面だけでなく軍事面でも進んでいる。具体的には、アジア・太平洋地域の同盟国への中距離ミサイル大量配備構想があり、「ファイブ・アイズ」と呼ばれる国際的な情報共有関係の強化・再編がある。
 8月14日、米国務省のビリングスリー大統領特使が日本経済新聞のインタビューに答え、新型中距離ミサイルの日本への配備を考えていることを公式に認めた。さらに、日本が「敵基地攻撃能力」を保有することについても「価値あるものだ」と支持した。沖縄をはじめとする日本全土を核ミサイルの貯蔵庫に、そして核による先制攻撃の出撃拠点にするということであり、日本全土が米中軍事衝突の最前線に位置づけられるということだ。
 他方で、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国でつくるファイブ・アイズに新たに日本を加えて「シックス・アイズ」とし、中国に対抗する諜報・機密情報の共有を図る構想がにわかに動き出している。すでにイギリスを通じて打診があったことを、防衛相・河野太郎が日本経済新聞のインタビューで明らかにした(8月15日付)。ファイブ・アイズは、もともと米英が第2次世界大戦中にナチス・ドイツの暗号解読を目的に結んだ軍事情報共有の枠組みに、戦後になって同じく連合国陣営だった3カ国を加えたもので、枢軸国側だった日本を加えることなどかつては考えられなかった。
 日本がこの枠組みに入ることは、人々の言論や研究活動を徹底的に監視し、「機密漏洩(ろうえい)」に対して厳罰を科す特定秘密保護法の適用範囲の拡大、さらには「情報収集体制の拡充も必要になる」(日経新聞8月13日付)。すなわち公安警察、公安調査庁や内閣情報調査室などを大幅増強し、今まで以上に全人民を日常的に監視・弾圧するということだ。中国との戦争に備えた戦前並みの、いやそれ以上の弾圧国家への転換である。

全世界で人民の反乱が拡大

 だが、こうした米トランプ政権や日本帝国主義・安倍政権の動向を最も根底で規定しているのは、〈コロナ×大恐慌〉情勢のもとで全世界の労働者階級人民の階級闘争が革命的大高揚を迎えていることである。香港の青年・学生を先頭とする決起が中国本土に波及することを恐れ、国家安全維持法弾圧を振りかざしている習近平政権も、同じ危機に追い詰められている。
 とりわけコロナ感染症に対するトランプの対応に対して、米国内だけでなく世界中で怒りの声が爆発している。トランプは感染爆発の渦中にもかかわらず、多くの感染者を含め「不法移民」とみなした人々を収容施設にぶちこみ、検査もろくにせず中南米諸国に強制送還している。非衛生的な収容施設は「ウイルス培養器」と化し、大量の感染者が出ている。4月には、米国からグアテマラに送還された76人中44人が感染していることがわかり、激しい抗議デモが起こった。あまりの事態に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「感染拡大中の強制送還はやめる」ことを各国に求めたが、大統領選を前に南部諸州などの保守層に排外主義政策をアピールしたいトランプは、勧告を無視し続けている。
 中南米では、感染者100万人を突破したブラジルをはじめ、メキシコ、ペルー、チリなどでも感染が急拡大しており、貧困や衛生環境の悪さが事態に拍車をかけている。中南米諸国のコロナ感染症の死者数は10万人を突破したが、トランプ政権の国策によって虐殺されたも同然だ。ポンペオなどが頻繁に中南米諸国を訪問して中国との関係を断つよう要求しても、各国首脳がほとんど応じようとしないのは、単にこれらの国々が農産物輸出などで中国と関係が深いという理由だけでは説明できない。圧倒的多数の人民の怒りが「米国の裏庭」を反米のるつぼへと変えているからだ。
 さらに今月23日には、米ウィスコンシン州ケノーシャで、警察官が黒人男性ジェイコブ・ブレイクさんを背後から7回も銃撃する事件が起き、抗議デモが爆発。5月の米ミネソタ州ミネアポリスで起きたジョージ・フロイドさん虐殺に続く警察権力の暴挙に全米で抗議デモが広がっている。
 差別と国家暴力によって成り立つ帝国主義、その最末期の絶望的延命形態である新自由主義に、もはや未来はない。人類の活路はプロレタリア世界革命しかないことが、ますます明らかになりつつある。重要なことは、この〈コロナ×大恐慌〉情勢の真っただ中で、最も過酷な条件のもとに置かれてきた医療現場から、「階級的労働運動をよみがえらせることは可能だ!」と証明する闘いが始まったことだ。11・1労働者集会に向け、渦巻く労働者の怒り、戦争・改憲絶対反対の声を集め、今こそ新自由主義を打倒する階級的労働運動を力強く登場させよう。

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ポンペオ演説の要旨
・中国にやみくもに関与していく従来の方法を続けてはならない
・習近平総書記は破綻した全体主義思想の真の信奉者だ
・中国をほかの国と同じように普通に扱うことはできない
・中国と対決するには、欧州、アフリカ、南米、とくにインド太平洋地域の民主主義国家の尽力が必要だ
・国連、NATO、G7、G20などが経済、外交、軍事力を適切に組み合わせれば(中国の)脅威に対処することは可能だ
・同じ考えを持つ国々が新たに結集し、新たな民主主義同盟を組織すべき時かもしれない

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