職場からの通信 なぜ検査が増えないのか 自治体・保健所 関東

週刊『前進』04頁(3164号03面03)(2020/10/05)


職場からの通信
 なぜ検査が増えないのか
 自治体・保健所 関東


 保健所に勤める自治体労働者です。現場はコロナ対策に翻弄(ほんろう)され、昨年までは想定していなかった業務量に対しての人員増が早急に必要です。

いつ過労死が出てもおかしくない

 保健師を筆頭に管理職も含めて月100時間超(ある人は240時間⁉)という残業で、コロナが長期化する中、いつ過労死が出てもおかしくない状態だ。2〜3月が一番混乱していて、応援もなく大変だった。4月以降も複数の休職者が出たり、応援で10人程度が追加で配置されても、やることが増えてぎりぎりの感じは変わらない。
 私は当初、結核や難病関連の事務を担当しており、合間に帰国者・接触者相談の電話対応をしていた。しかし、最近はコロナ関係の支払いや予算の作成、医療機関との契約、コロナ対策に割かれた職員が担当していた事務作業が増え、残業もせざるを得ない。持病を悪化させて休む職員も出ている。6月にいったん落ち着いたものの、7月の第2波で保健師は週休もろくに取れていないと聞く。
 当初から思っているのは「とにかく公的部門が弱すぎる!」ということだ。

公務員をさんざん削減したせいだ!

 厚労省からはひどい時には午前2時、3時や明け方にメールが届き、指針がどんどん更新される。現場対応しながらではろくに読む時間もない。4月や5月は検査を希望する電話に対して、感染経路や症状を確認して、即検査が必要とまで言えなければ医療機関の受診を促すくらいしかできず、相手から怒られることもしばしばだった。
 一方、5月ごろから国は「検査を増やせ」「保健所業務の負担軽減のために委託しろ」「委託できる検査会社リストはこれ」「医師会と共同で検査センターを増やせ」などの通知をバンバン出してきた。国は、通知すれば現場がすぐにできるとでも思っているのだろうか。保健所が検査を絞っているかのような報道に胸を痛めながら、「確かにできない。人が足りない。そんな体制じゃない!」と言いながらの仕事だった。
 私は委託や外注化は反対だが、そもそも検査を増やすために委託の手続きをする人員すらいない。「検査が増えないのは、これまで公務員をさんざん削減したせいだろ!」と言いたい。現場には若手が多く、40代、50代のベテランがあまりに少ない。保健師は常に募集中だが集まらない。
 検査は「公費負担」というが、感染症法では自治体がいったん負担し、国に後で2分の1(入院は4分の3)を請求する。残りの自治体負担分は、5月に出された「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」で後で国から補塡(ほてん)されるようだが、当初はわからず、検査を抑制する要因にもなっていたと思う。とにかく、これまで少ない予算の中でなんとか業務を回してきた自治体職員としては、コロナ関係の国の大盤振る舞いについていけないし、いくら予算がついても人がいなければ何もできない。
 他にも、国はコロナに乗じてIT化やマイナンバーカードの普及、委託化推進に金をばらまいている。予算がないと言って地方交付税を削減し、公務員を削減してきたのはいったいなんだったのか。しかし肝心の公的部門への予算だけは圧倒的に弱い! 入院も当初受け入れができたのは公立病院だけだった。必要な人が必要な医療を受けられる医療体制のためには、病院を公的部門として設置しなくてはならないことがはっきりしたと思う。
 公的部門の民営化・委託化に、自治労こそが反対の声を上げなくてはならないのに本部は何もしない! 現場から運動を一からつくらなくてはならない。

感染者排除の社会はやはりおかしい

 検査結果が陽性の場合はホームページに掲載するなど公開されているが、現場には陰性のリストもある。それを見ていると「38℃の熱、咳(せき)、息苦しさ、肺に陰影あり、クリニックから依頼→陰性」という例もかなりある。逆に全く症状がなく陽性になることもある。
 保健所が検査を抑制するように見えているのは、一般に出回っている情報と保健師が経験的に持っている感覚が違うからというのもあるのではないか。正直、私も現場では「心配な人を検査していたらきりがない」という気分だった。
 ある自治体の話で、「コロナ陽性になった人が、居づらくなったようで引っ越した」と聞いた。最近では検査対象になっても検査を拒否する人がいる。陽性になったら職場や周囲に白い目で見られる、経済的にも影響する、それなら大して具合も悪くないので判明しないでいたいと思うのもわかる気がする。予防するのは必要だが、感染することに自己責任がまかりとおるのは違う。感染しても安心して医療が受けられて生活もできる保障が必要だ。
 資本主義のもとですべてが金もうけの手段になった結果、検査も治療も、感染症の研究も、薬も……結局何が人間にとって一番いいのかが総合的に判断できなくなっていると感じる。検査や病院が増えて、ワクチンを全員接種できて、元の経済に戻ればいいのか? 私は特効薬のような政策があるとは思えない。
 この破綻した現実を直視して、労働者がいま勇気を出してそれぞれの立場で声を上げることが本当に必要だと思う。全国の保健所で働くみなさん、医療労働者、自治体・厚労省で働くみなさん、団結して闘おう!
(自治労組合員・A)
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