「デジタル化」その正体(2) JRがAIで大リストラ 人員減らしコストカット 安全は根本から崩壊

週刊『前進』04頁(3165号02面02)(2020/10/12)


「デジタル化」その正体(2)
 JRがAIで大リストラ
 人員減らしコストカット
 安全は根本から崩壊


 コロナが促進した大恐慌下で、JR東日本は今年度の連結営業赤字が5千億円になるという業績予測を発表した。そして、グループ会社を含めて年間1500億円のコストカットを強行する方針を打ち出した。JRはそのうち300億円分を、賃金切り下げなどの人件費削減によって達成するとしている。
 そのための方策のひとつがデジタル化・AI化・IT化による人減らしだ。
 昨年6月、横浜シーサイドラインの新杉田駅で、自動運転の車両が逆走して車止めに激突し、14人の乗客が負傷する事故が起きた。

シーサイドライン事故を教訓にせず

 事故の直接の原因は、モーターに「前進」を指令するケーブルの断線だった。シーサイドラインの場合、ケーブルが断線すればモーターが作動しなくなるのではなく、直前の状態を維持する仕様になっていた。そのため自動運転車両は、終着駅の新杉田駅で、直前に走行していたのと同じ方向、つまり逆方向に向かって走り出した。
 自動運転のプログラムでは、ケーブルの断線も、それにより逆走が起きることも想定されていなかった。AI・ITは、あらかじめプログラムされていない事態には全く対処できない。もし運転士が乗っていれば、車両が逆走し始めた途端に急ブレーキをかけ、事故を防いでいたはずだ。
 JR東日本は、この事故を教訓化することなく、山手線への自動運転導入をたくらんでいる。JR九州も香椎(かしい)線を自動運転化する計画を打ち出した。地上区間があり踏切がある山手線や香椎線を自動運転にするなど、無謀極まる。山手線の場合、コロナで乗客が減ったとはいえ、毎日、数百万人が乗降する。その膨大な人々を、自動運転で安全に運ぶことなどできない。
 しかしJRは、養成に多額の費用がかかる運転士を、自動運転化で極力減らそうとしている。安全を根本から破壊する暴挙だ。

運転士一人だけで安全確認は不可能

 運転士削減の前段階として、JRはワンマン化で車掌をなくそうとしている。
 今年3月のダイヤ改定で、JR東日本は東北本線の黒磯―新白川間で5両編成の列車をワンマン運転化した。ワンマン運転は2両編成が限度という従来の制限を取り払ったのだ。
 列車が駅を出発する際には、列車後部にいる車掌が身を乗り出してホームの安全を確認する。ワンマン化されればそれはできない。そのためJRは、ワンマン運転用車両にホームの様子を撮影するカメラを設置し、運転台上部のモニターにその映像を映し出すことにした。モニターの画像は5両編成の各車両に対応して五つもある。
 それを見て、運転士はホームの安全を確認しろというのだ。だが、列車を発車させた運転士には、前方を注視する義務がある。ホームの様子を写した画像と前方とを、同時に注視することは不可能だ。しかも、モニターに映し出された画像は、列車が10㌔以上のスピードになると消える。これは、まだ列車がホームを抜けてはいない状態だ。
 これでは安全は保てない。にもかからず、もし事故が起きたら責任をとらされるのは運転士だ。
 IT化は労働を軽減するものでは断じてない。IT機器を導入してのワンマン化で、運転士の肉体的・精神的負荷は格段に重くなった。資本がAI化・IT化を進めるのはコストを削減して利潤を増大させるためだ。労働がきつくなるのはその必然的な結果だ。

設備の状態を判断できないIT機器

 これまで鉄道会社は、車両や設備を定期的に点検し、故障しそうな個所を把握して修繕・更新し、事故を未然に防いできた。
 しかしJRは、これを放棄し、CBM(状態基準検査)と言われる方式を導入した。乗客を乗せた営業列車に、線路や架線、車両自身の状態を監視するIT機器を搭載し、そこから得られたデータで、設備や機器の更新時期を判断するやり方だ。現場を巡回して自分の目で線路や架線の状態を把握する作業や、手にしたハンマーで機器の具合を確認する作業は、もう必要ないというのだ。だが、IT機器は設備や部品の状態を正確には判断できない。
 JR東日本は2018年7月、ローカル線で線路の状態を監視する徒歩巡回の頻度を減らした。そして、営業列車に積み込んだ装置で線路の状態を監視する新たなシステムの運用を始めた。線路のゆがみの測定値や線路の映像が装置のメモリーに蓄積され、メモリーは列車が検修庫に入った後に取り出される。そのデータをAIで解析するのは、JR東日本の子会社の日本線路技術(NSG)だ。
 NSGは解析したデータをもとに線路を修繕する必要があるかないかをJRに伝える。だが、その精度は低く、修繕の必要がないのにNSGが「必要あり」と判断することも多い。そのためJRの保線技術センターは、受け取ったデータを再修正して修繕の要否を判断し直している。逆に、修繕が必要なのに、それがデータに現れないことも、しばしば起きる。必要な修繕がなされない危険が、大いにあるのだ。
 こうした形でJRが強行する大リストラに対し、動労千葉はいつでもストに立てる態勢を確立し、反撃を開始した。11・1労働者集会は、この攻防の最初の激突点になったのだ。
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