「デジタル化」その正体(7) AIを使った個人情報管理で監視国家化 資本の利権と治安弾圧

週刊『前進』04頁(3172号02面06)(2020/11/30)


「デジタル化」その正体(7)
 AIを使った個人情報管理で監視国家化
 資本の利権と治安弾圧


 菅政権は安倍を引き継いでデジタル庁(省という説もある)創設に力を入れている。日本のデジタル分野での敗北=「失われた20年」を挽回しようと躍起になっているわけだが、デジタル化を進めてきた欧米や中国などは「失われていない」のか。そうではない。資本主義自体が戦後の「相対的安定期」を経て1970年代に行きづまったからこそ、労働者を犠牲にする新自由主義政策を進めると共に、資本のスクラップ・アンド・ビルドをも含んだ「デジタル化」に突き進まざるを得なかったのだ。そこには何の展望もない。米中激突を先頭とした争闘戦の激化と、何より世界の労働者階級の決起がそれを示している。

個人情報を食い物に

 読売新聞は11月18日付夕刊のトップで、政府がマイナンバーの情報漏えい対策強化のため、AI監視システムを導入する方針を固めたと報じた。本紙でも暴露してきた通り、AIこそ何度も事故や安全崩壊をもたらしてきたものである。泥棒に警備をやらせるに等しい。三菱電機、ホンダ、カプコンなど大企業でもこの間、サイバー被害で個人情報流出を引き起こしている。マイナンバーには住民票、戸籍謄本だけでなく銀行口座や診察券などの機能も将来的にはつけるという。要は全個人情報であり、流出など断じてあってはならないものだ。AIにまかせるなどあり得るはずがない。
 さらに重要なのは、このマイナンバーカードの情報処理事業を巨大テック企業アマゾンに一任しようとしていることだ。アマゾンは、趣味・政治思想などの個人情報をビッグデータに集積してその人にあった広告を出すという「監視資本主義」の典型的な企業である。自らの利権のためにマイナンバー情報すら食い物にするのは間違いない。

ビッグデータ警察活動

 こうした国家による個人情報管理は何をもたらすか。労働者を資本の食い物にするだけではない。監視国家化と治安弾圧強化にも使われる。
 アメリカなどではすでに「ビッグデータ警察活動」が始まっている。その実態についてアンドリュー・ガスリー・ファーガソン著『監視大国アメリカ』から見ていきたい。
 イリノイ州シカゴではビッグデータによって「戦略的対象リスト」(別名「ヒートリスト」)が作成されている。シカゴの若い男性で、友人や仲間、あるいは自分自身が以前暴力にかかわったことがあれば、銃撃事件の被害者あるいは加害者になる可能性があると予告され、リストに載った人の家を警察が訪問し「息子さんは死ぬかもしれません。アルゴリズムが襲われる可能性の高い人物をはじきだしました」と告げるという。その対象は1400人にのぼる。
 このデータベースとAIを使った「人物予測対象化」というやり方はアメリカ全土に拡大しており、少人数の検察による驚異的な数の起訴を可能にしたという。
 またニューヨーク市では、データ集めのために警察の上役が逮捕件数の増加(生産性の証明)と犯罪件数の減少(安全な地域社会の証明)を望み、犯罪件数自体は減少しているのに逮捕は増えるという事態が進行した。データは故意に操作できるということだ。
 そもそも警察自身が犯罪の温床だ。今年のBLM運動爆発のきっかけとなったジョージ・フロイドさん虐殺がそのことを示している。警察こそ最も監視すべき対象である。

くたばれアルゴリズム

 本書はこうも指摘している。「もしすべての人種、すべての地区の人間が同じ比率で大麻を使用したとしても、警察が大麻で逮捕するのがおもに......有色人種の人々であれば、アルゴリズムは大麻と有色人種の使用を関連づける」「ビッグデータは歴史的に不利な立場にいる人々があたかも不利な扱いを受けて当然であるかのように示して、すでにある不平等を悪化させる」
 ある調査では、アフリカ系アメリカ人の名前が検索されると、犯罪歴チェックを勧める広告が表示された。白人社会を連想させる名前を検索してもそのような広告は表示されなかった。またグーグルの検索は女性よりも男性に対して社会的地位の高い求人広告を多く表示しているとのことだ。「もとになったデータが社会に存在する......偏見を反映している」と指摘されている。
 欧州などで「くたばれアルゴリズム」というスローガンの闘いが巻き起こっている。資本・国家のアルゴリズムによる管理・弾圧を吹き飛ばし、労働組合のもとで団結して闘おう。

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マイナンバーで狙われていること
・監視をAIにやらせる
・事業をアマゾンに一任
・銀行口座なども紐づけ

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