「デジタル化」その正体(8) 基地局整備遅れ実用化のめど立たず 5G導入の破産的実態

週刊『前進』04頁(3173号02面02)(2020/12/07)


「デジタル化」その正体(8)
 基地局整備遅れ実用化のめど立たず
 5G導入の破産的実態


 2019年に世界的に「商用化元年」を迎えたといわれる5G(第5世代移動通信方式)は、「超高速・低遅延・多数同時接続」を実現する画期的な通信方式だと宣伝されている。従来の4Gと比較して、通信速度は最大で下り毎秒約20㌐ビットと約100倍、情報のやりとりの遅延時間は1000分の1秒、同時接続という点では1平方㌔メートル圏内に100万台の端末を接続できるとされる。
 大量の情報のやりとり、工場でのロボットの遠隔操作や在庫管理、自動運転などが5Gで可能となるとして、総務省は「2時間の映画を3秒でダウンロード」「自宅部屋内の約100個の端末・センサーがネットに接続」(同省HPより)などとしきりに宣伝している。携帯電話事業者も「5Gが社会を変える」と広告を打ち、官民一体で「5G化」を推進している。
 このようにバラ色の未来を描く総務省などの宣伝とは裏腹に、各国政府や資本が5Gにかける本当の狙いは、AI(人工知能)導入をてことした労働現場に対する大合理化=人員削減であり、人々の生活を隅々まで監視しデータベース化する究極の監視社会化にある。

現状は絵に描いたモチ

 だが、こうした官民挙げての大宣伝にもかかわらず、一般消費者の5Gへの期待や関心は高まらず、10万円以上もする5G対応のハイエンド機種にスマートフォンを買い換えても、特に恩恵や利便性は実感できないという声がほとんどだ。
 そもそも「超高速・低遅延・多数同時接続」なるものは、5G通信基地局の整備が十分に完了しない限り絵に描いたモチでしかない。鳴り物入りで宣伝される「毎秒20㌐ビット」「2時間の映画を3秒で」などという通信速度も、実際には「ミリ波」と呼ばれる24㌐ヘルツ以上の高周波数の電波を街の隅々までいき渡らせなくては実現しない。だが、電波は周波数が高いほど遠くに届きづらく、建物などの障害物を回り込むことも難しくなり、雨が降るだけで通信が阻害されるようになる。これを避けるにはとてつもない数の基地局を街中に敷設しなくてはならず、途方もないコストと労力がかかる。
 このため、中国などはミリ波より周波数の低い「サブ6」(6㌐ヘルツ以下という意味。実際に用いられるのは3~4㌐ヘルツ台)で5G通信網の整備を進めているが、これに対しアメリカは、同じ周波数帯域を米軍が使っているため民間に開放できない。19年4月に米国防総省が公表した報告書「5Gエコシステム/国防総省のリスクとチャンス」はこの点に触れ、「アメリカおよびその同盟国である日本・韓国は、ミリ波を使用することを余儀なくされている。世界の主流が(中国の主導のもとで)サブ6になってしまうと、日米韓だけがガラパゴス化することになる」と危機感をあらわにした。
 また報告書は「アメリカは最新技術の開発と5G世界標準の確立で中国に遅れている」「アメリカが(世界の)5Gを制する国になる見込みは薄い」と公然と認めた。これを受け、トランプ政権はその翌月、通信基地局シェア世界一で5G関連技術の開発・実用化でもトップを走る中国のファーウェイ(華為技術)を禁輸措置対象リストに加え、なりふり構わぬファーウェイつぶしに乗り出したのだ。日本が低コストで5Gインフラの整備を進めるならファーウェイと契約するのが一番手っ取り早いが、言うまでもなく、そんなことはアメリカとの関係で不可能だ。イギリスも2Gから4Gまでファーウェイと契約してきたが、今年に入ってファーウェイ排除を決定した。

日本企業の絶望的敗勢

 日本では当面、サブ6でのネットワーク整備が進められているが、通信速度は4Gより少し速い程度。東京都内でミリ波通信を利用できるのは、最大手のNTTドコモでも11カ所のスポットしかなく(11月末時点)、「超高速・低遅延・多数同時接続」を社会全体で実現するには程遠い状態だ。政府・資本は、5G時代にはあらゆる現場で労働者が不要となるかのように吹聴し、それをてこに各職場で人員削減を強行しようとしているが、結局のところ5Gによる「社会と産業の丸ごとAI化」など空虚な夢物語でしかない。
 しかも、5Gの技術開発競争で日本企業は絶望的なまでに立ち遅れている。携帯電話基地局の売上高世界シェアでは、エリクソンやノキアなど欧州勢が約50%、ファーウェイなど中国勢が約40%、韓国のサムスン電子が約5%ほどを占める中、日本企業は1%程度しかない。さらに5G関連の標準必須特許の保有件数では、左上の円グラフの通り、中国のファーウェイが世界トップに立ち、韓国や米欧の企業が続く中、日本企業は蚊帳(かや)の外に置かれている。今後、日本企業が5Gインフラの整備や工場などでの実用化を進めようとすれば、特許を保有する外国企業に支払うライセンス料の負担や、特許を侵害した場合の訴訟リスクなどに悩まされることになる。
 このように、5Gの本格的導入・実用化には巨額の費用をつぎ込まざるを得ず、膨大な労力や時間を必要とするが、そもそも人間労働のすべてをAIに置き換えることなど不可能だ。だが、菅政権とJRなどをはじめとした巨大資本は、どんなに現実的展望がなかろうと、デジタル化・AI化の推進と労働者への大合理化攻撃によって、コロナ禍のもとでの延命の道を見出そうと必死になっている。
 今、5G導入に向けた通信設備の敷設工事や保守・点検作業の多くはNTTの子会社に外注されているが、現場では過酷な労働環境のもとで事故も多発している。11月労働者集会の成功を引き継ぎ、資本の大合理化攻撃を打ち破る労働組合の団結をよみがえらせよう。

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5G化の困難と政府・資本の狙い
・高周波電波は広範囲をカバーできない
・実用化のインフラ整備に巨額のコスト
・展望なきAI化強行し大合理化を狙う

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