NTTは菅の合理化の最先兵 職場から闘う労働組合の再生を 革共同電気通信労働者委員会

週刊『前進』04頁(3174号02面02)(2020/12/14)


NTTは菅の合理化の最先兵
 職場から闘う労働組合の再生を
 革共同電気通信労働者委員会


 「縦割り行政の打破」と「規制緩和」を掲げる菅政権は、その具体化として、①デジタル庁の設置と全省庁、地方自治体のデジタル化、②中小企業と地方銀行の再編・淘汰(とうた)、③携帯電話料金の引き下げを打ち出した。今、携帯電話会社は高速移動通信方式「5G」を売り出し、自動車メーカーは5Gを使った自動運転を「夢の技術」のように宣伝している。トヨタ自動車も今年1月、NTTと提携して静岡県裾野市の工場跡地に「スマートシティ」の実験都市を建設すると発表した。NTTを先兵に「デジタル化」を急ぐ菅政権のもとで、コロナ下での日本帝国主義の生き残りをかけた産業再編と大合理化攻撃が始まっている。

携帯値下げの狙いは何か

 菅は安倍前政権の官房長官だった頃から「携帯料金値下げ」を掲げ、総務省と大手3社(NTTドコモ、ソフトバンク、au)との「悪しきなれ合い」を排して第4、第5の事業者を参入させ、顧客獲得競争を促すことで値下げを実現すると主張してきた。
 ところが、菅が首相になってから進んだ事態は、新規参入を促すどころか、逆に業界最大手のNTTドコモによる寡占支配が一層強められている。
 9月29日、NTTはドコモの完全子会社化を発表、11月17日にはTOB(株式公開買い付け)が成立。ドコモは年内に上場廃止しNTTの完全子会社となることが確実となった。
 他の携帯電話事業者は「公正な競争が阻害される」と猛反発、28社連名で総務省に対策を求める意見書を出した。というのも、NTT東日本・西日本は携帯電話の基地局や通信センターをつなぐ光回線の75%のシェアを握り、他の事業者もこのインフラに依存しているが、NTT東西とドコモの経営が一体化すれば光回線の工費・納期・卸料金などでドコモが優遇されるのは明白だからだ。
 巨大国策資本=NTTとの再統合で財政基盤でも優位に立ったドコモが12月3日に異例の大幅料金値下げを発表すると、菅は「非常にありがたい」と歓迎。対して、安さを売りに「第4のキャリア」として参入したばかりの楽天モバイルは窮地に陥り、MVNO(仮想移動体通信事業者)各社の大量淘汰の懸念も指摘される中で、政府は「食うか食われるかの競争社会だ。各社は経営努力をしていただきたい」(総務相・武田良太)と突き放した。
 結局のところ菅政権は、最大手のNTTを徹底的に優遇し強化することで、世界から遅れた日本の情報通信産業の絶望的な敗勢を巻き返そうと必死なのだ。この政府の戦略を背景に、NTTはグループ企業を再結集して「5Gやその次の6Gへの投資を加速し、海外勢に対抗できる技術やサービスの開発を進める」(11月18日付朝日新聞)と宣言。「ネットワークから端末まで情報処理に光技術を使うIOWN(アイオン)構想」なるものを発表し、この新技術で「世界の主導権を奪回する」(澤田純社長)とぶちあげた。

情報通信で絶望的な敗勢

 だが、NTTが今さら「世界に挑む」などと息巻いても、現実にはおよそ問題にならない。すでに通信インフラの世界シェアはファーウェイ(華為技術)など中国企業とノキア、エリクソンなど欧州勢が9割超を占め、日本企業は1・5%程度。仮に「IOWN構想」が実用化しても日本国内でしか通用しない「巨大なガラパゴス」になるのが関の山だ。1989年には世界の株式時価総額上位50社に日本企業は32社が入り、そのトップがNTTだったが、30年後の2019年にはトヨタ自動車(43位)1社しか残らず、NTTは見る影もない。日帝の没落と民営化の無残な破綻はあまりにも明白だ。
 1991年のソ連崩壊を契機に、アメリカ帝国主義は国防総省が開発してきたITを民生部門に開放し、情報通信産業をめぐる対日・対欧争闘戦を本格的に激化させた。米国内では、過剰資本状態を背景に製造業で労働者階級へのすさまじい階級戦争——人員削減、企業吸収・合併、生産の外部委託(アウトソーシング)などを進め、他方で金融やIT産業を積極的に育成し、この分野での世界的優位を確立した。これに先立つ80年代には「日米半導体摩擦」が米側から激しく仕掛けられ、日本企業は90年代を待たずにハイテク産業の核をなす半導体部門の競争力を徹底的にそぎ落とされた。
 他方で、米欧日などが安価な労働力を求めて大量の資本を投下した中国は急成長を遂げ、米帝にとって最大の敵となった。特に軍事転用も可能なAI(人工知能)などの先端技術の開発・製造および世界標準化をめぐる覇権競争は、この米中激突の最大の焦点になっている。

基地局工事で労災が頻発

 こうした状況からの巻き返しをかけ、菅政権は5G導入と「デジタル化」を急ぐが、民営化・外注化による労働現場の崩壊と技術者・熟練労働者の枯渇、技術継承の断絶はあまりにも深刻だ。菅の戦略はすでに足元から崩壊している。
 現在、NTTは通信設備関係の構築工事、保守、メンテナンス、故障修理を子会社のNTT―MEなどに外注して5Gインフラ整備を進めているが、現場では熟練労働者が圧倒的に不足し「事故と隣り合わせの突貫工事」が強行されている。残業や休日出勤が多く緊急出動もあり、納期短縮やコストダウンも迫られ、過酷な労働環境が常態化している。特に携帯電話関係の基地局工事では青年労働者の落下事故が頻発している。怒りの爆発は不可避であり、闘う労働組合が切実に求められている。
 5Gは生産現場へのAI導入や交通機関の自動運転化を強行する手段となり、全職場で労働者への合理化圧力を強め、外注化・非正規職化を促進するてことなる。JRと並ぶ国策資本のNTTが5G化を強行し、コロナに便乗した合理化攻撃の先兵となっているのだ。これに対し、電気通信産業労働者の闘いはますます重要になる。
 電通労働者委員会は11・1労働者集会の成功を引き継ぎ、現場の労働者と共に階級的労働運動の再生へ闘う決意だ。
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