命を踏みにじる政府予算案 「経済回復」優先で感染広げる菅

週刊『前進』04頁(3178号02面04)(2021/01/18)


命を踏みにじる政府予算案
 「経済回復」優先で感染広げる菅


 菅政権は1月7日、首都圏1都3県を対象に緊急事態宣言を出した。「経済回復」を叫んでまともなコロナ対策もしない菅は、感染が爆発的に拡大する中で、やむなくここに追い込まれた。同時に菅は、それを逆手にとって人民統制を強化し、改憲・戦争に向かうことを狙っている。
 菅は首相就任以前から、大手旅行代理店や運輸業、宿泊業を救済するための「Go Toキャンペーン」を最先頭で進めてきた。コロナを蔓延(まんえん)させた張本人は菅だ。
 資本の延命のために人民の命をないがしろにする菅政権の本質は、昨年末に策定された2020年度第3次補正予算案と21年度予算案に顕著に現れている。

GoToは続け五輪の強行もたくらむ

 20年度第3次補正予算案には、このことが特にあらわに示されている。
 補正によって財政支出は15兆4271億円増えるが、そのうちコロナ対策に充てられるのは4兆3581億円に過ぎない。
 他方、コロナ対策費の約2・7倍の11兆6766億円が「ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現」のための支出とされている。そのうち1兆311億円が「Go Toキャンペーン」に使われる。これより前に計上された額と合わせれば、「Go To」には2兆6900億円もの予算がつぎ込まれることになる。
 菅はまた、東京五輪をあくまで強行する構えでいる。開催延期に伴う追加負担は、国と東京都の支出を合わせ1900億円にもなる。感染力の強い新型コロナウイルスの変異種も現れる中で、五輪を強行すればコロナ感染がもはや手の施しようのないものになることは明らかだ。
 にもかかわらず菅は、五輪を「経済回復」の切り札にするという願望にすがり、人民を地獄へ引き込もうとしているのだ。
 コロナによって促進された大恐慌は今年に入ってさらに深まっている。これまでかろうじて持ちこたえていた中小零細企業が、倒産や廃業へと次々に追い込まれ始めた。労働者を大失業が襲い、住居を失う人が続出する深刻な事態だ。

「自助」を叫び最後の命綱も断ち切る

 しかし菅政権は、労働者人民の生命・生活を守るための支出はしない。
 2021年度予算案は、社会保障費を徹底的に抑制した。高齢化などで社会保障費は20年度と比べ4800億円ほど増えるはずだが(いわゆる「自然増」)、これは1300億円分、削り込まれた。
 年金は21年度中に「マクロ経済スライド」の適用で支給額が0・1%引き下げられる。75歳以上の高齢者で一定以上の所得がある人は、医療費の窓口負担が従来の1割から2割に引き上げられる。
 さらに、予算案には「病床削減や病院の統合に取り組む際の財政支援」として195億円が盛り込まれた。コロナ感染が爆発的に拡大しているこの時に、440公立病院の統廃合をあくまで進めるというのだ。
 生活保護などのための社会福祉費は20年度と比べ107億円も減らされる。
 大学生に対する給付型奨学金の予算も、20年度と比べ78億円の削減となった。
 緊急事態宣言で営業を縮小した店舗に払われる協力金は、最大で1日6万円。これで生業・生活を維持できるはずがない。
 菅は首相就任直後に「自助」と言った。それは、最後の命綱まで断ち切るということだったのだ。
 政府は、労働者の雇用を維持する企業に給付する雇用調整助成金について、緊急事態宣言の発令地域では大企業への助成率も中小企業と同様、最大100%に引き上げると発表した。21年度予算案は、雇用調整助成金の拡充などで労働保険特別会計の支出を20年度より8483億円増やすとするが、菅の狙いは雇用を安定させることにはない。
 これらの支出の中には、労働者を出向させた場合、出向先と出向元企業の双方に給付する助成金や、コロナによる離職者を試験雇用する企業への助成金などが含まれている。徹底した雇用の流動化を財政面から促進しようとしているのだ。

デジタル庁設置で資本に膨大な利権

 他方で、資本を救済する費用は膨らんだ。9月をめどにデジタル庁を設置するとして、3000億円の予算が組まれた。その大半は情報システムの調達に充てられる。電機、通信、IT大手に巨額の利権を与えるとともに、この情報システムで人民の生活を隅々まで監視するということだ。
 デジタル化は地方自治体にも強制される。国が自治体に配分する地方交付税交付金のうち、2000億円が自治体のデジタル化に充てられると政府は想定している。教育でも、デジタル教科書やオンライン学習システムの費用は大幅に増額されて計29億円になった。
 国家の資金を企業に貸し出す財政投融資計画では、26兆6466億円の巨費が企業の資金繰り支援に充てられる。新自由主義は民営化を呼号して展開されたが、資本はもはや国家に頼らなければ1日たりとも延命できなくなったのだ。

敵基地攻撃能力の保有狙う防衛予算

 こうした危機は資本と国家を戦争衝動に駆り立てる。毎年上がり続けた防衛費は21年度予算案で5兆3422億円に達した。さらに予算に計上されない後年度負担が21年度分だけで2兆5951億円もある。
 この膨大な費用でまかなわれるのは、実質的には空母の「いずも」型護衛艦の改修など、敵基地攻撃能力の保有を狙うものだ。

国債と円が大暴落する破局は迫った

 20年度の政府予算は当初は102兆7千億円規模だったが、3度の補正で総額は175兆7千億円に膨らみ、新規国債発行額も112兆6千億円に達した。国債発行残高は今年3月末で985兆円に上り、政府の債務残高の対GDP(国内総生産)比はOECD(経済協力開発機構)諸国の中では最悪の266・2%になる。(表)
 21年度も当初予算は106兆6千億円規模だが、今後も補正予算が繰り返し組まれて財政が悪化することは避けられない。
 国債発行残高の47%超を日本銀行が所有している。この異常な状態が安定的に続くことなどありえない。ひとたび国債が暴落すれば、日銀の信用は損なわれ、円という通貨も暴落する。それによる深刻な危機は、資本主義の下ではすべて労働者人民に押し付けられる。コロナによるとてつもない苦難が、さらに数倍化されてのしかかるのだ。
 だから今、菅政権が押し通そうとしている政府予算案を粉砕しなければならない。闘って労働者人民の生存と生活を確保しよう。

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コロナ下で国家財政はさらに悪化
20年度当初予算の規模 102兆6580億円
第3次補正後の予算規模 175兆6878億円
20年度の国債発行額 112兆6000億円
20年度末の国債発行残高 985兆円
20年度末の政府債務の対GDP比 266.2%
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