書評 『私たちは正しい!』 労働者の誇りと魂ここに 勝利の道を示すトールゲート闘争

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週刊『前進』04頁(3220号02面04)(2021/11/22)


書評
 『私たちは正しい!』
 労働者の誇りと魂ここに
 勝利の道を示すトールゲート闘争

(写真 2019年、動労千葉訪韓団が籠城【ろうじょう】現場を訪問)


 韓国は1997年のアジア通貨危機の直撃で国家不渡りの窮状に直面し、支配階級は労働者階級を徹底的に犠牲にしました。その結果、膨大な数の労働者が明日をも知れぬ非正規雇用に追いやられました。本書の主人公であるトールゲート(高速道路の料金所)の労働者も、正規から非正規への転換を拒否し、実力闘争を軸にしながら不屈に闘い続けたのです。
●怒り取り戻し闘い挑む
 私が一番感動したのは、労働組合経験のない50歳超の女性労働者が大半を占める中で組合を結成し、上部組織の違いをこえた現場共闘で、前に会社の防衛隊=救社隊、後ろに警官隊という暴力装置を相手に渡り合い、途中で何度も落胆したり絶望のふちに立たされたりしながらも7カ月にわたって獅子奮迅(ししふんじん)の闘いを展開したところです。労働者の誇りと魂ここにあり!です。
 彼女たちは通行料金の収受以外に、ハイパス(自動料金収受システム)の未納チェック、未納者への督促、映像判読、過料徴取・変更、ハイパスの相談、通行料の先払い式カード販売、過積載チェック、苦情対応、それにトイレ清掃、車道の雑草取り、除雪、はたまた社長の菜園の手入れなどのすさまじい業務をこなす日常です。組合員は語ります。「骨折しても欠勤できず、1時間余計に勤務しろと言われても何も言えない無知な人間でした。事務長のパワハラにも横暴にも何も言えず必死に働いてきました。非正規職である私たちは、指示に逆らえば不利益を被るのではないかと思い、不平一つ言えませんでした」
 職場は毎年数百人ずつ削減され、管理職が「指一本動かせば」首。庶務が労働者に「首にする人間の名前を書け」と恫喝もする。障害のある女性労働者に対して「こいつはいくらかと等級をつける」職場です。しかし労働者たちは「労働者としての尊厳を傷つけられてきたことへの怒り、労働現場を担っているのは自分だという誇り、職場と労組を超えた同僚への思い、自分で闘いを切り開いていったという自負、『過去の私は死んだ』という自覚」から、巨大な資本、政府、政党に闘いを挑んでいったのです。
●団結崩されず闘いぬく
 この闘いの出撃点をなすソウル営業所のキャノピー(ひさし状の構造物)籠城(ろうじょう)は98日。労働者は雨、風、台風に襲われ、体を壊しながら「夜空を掛け布団にして」誇り高く闘い抜きました。青瓦台(大統領府)や共に民主党の議員事務所なども駆け巡りますが、最も激しい闘いとなったのが金泉の道路公社本社への突入、占拠、籠城です。
 20階にある社長室めがけて、阻止線を張る警官隊を突破。本社で待ち構える救社隊。その多くが軍隊経験者で屈強な男たちですが、ひるむことなく彼女たちは進みます。「組合員は我が身一つでぶつかった。ドアを押し、警察を押し、救社隊を押した。殴られ、傷つき、倒されながらも本社内に押し入った」。7人が20階の社長室前まで行き、全員連行された。2階を組合が占拠しますが、1階には正規職労組が陣取り2階に向かって「出ていけ」と怒号。占拠2日目、警察と救社隊が押してくる。「『ここで引っ張られたら最後だ』と思った瞬間、(誰かが)服を脱げと叫びました」。厳しい籠城で持病は悪化し、激突時に負った傷もあります。
 金泉本社籠城闘争は300人で開始され、144日にわたりました。動労千葉訪韓団も2019年11月に現場を訪れ、組合員たちと交流しています。
 こうした闘いは旭非正規職支会をはじめ他労組や市民団体、文化人、宗教者、法曹、学術団体、学生団体など多様な支援者に支えられました。当該も文化祭、律動、歌などで鋭気を養い長期戦を持ちこたえました。
 そして、敵の攻撃の主要な方法は闘いの分断にありました。裁判所も調停委員会も共に民主党議員の動きも、全て闘う労働者の分断に的を絞っています。何より強く表れているのは、ろうそく革命で誕生したにもかかわらず労働者を裏切ったムンジェイン政権の正体です。闘う労働者には第二革命が必要です。
 1500人の直接雇用を掲げたトールゲート労働者の闘いは7カ月の歳月を数えながら未完に終わりました。ここから学びつくし、受け継いでいくことが求められています。闘いは、裁判所や労働機関、政治家などを利用しつつも、そこにげたを預けたり委ねたりするのではなく、個別企業の枠を超えた労働者階級の闘いの前進で資本・経営者との力関係を転換する中に勝利の道があることを教えています。(東京北部 櫛渕秀人)
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広沢こう志訳 労働者学習センター発行 頒価1000円

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