所信表明で「敵基地攻撃」叫ぶ岸田 大軍拡と労働組合破壊に突進

週刊『前進』04頁(3223号02面01)(2021/12/13)


所信表明で「敵基地攻撃」叫ぶ岸田
 大軍拡と労働組合破壊に突進


 12月6日、岸田首相は所信表明演説で「新しい資本主義」実現の「前提」として「敵基地攻撃能力を含め......防衛力を抜本的に強化」すると言い放った。56兆円の経済対策、過去最大36兆円に迫る補正予算案の全てが、中国侵略戦争に向けた大軍拡と資本救済、労働組合破壊、社会保障破壊の階級戦争攻撃だ。

中国への侵略戦争たくらみ経済安保法の制定うち出す

 岸田は所信表明で、沖縄辺野古新基地建設の意義を強調。経済安全保障や宇宙、サイバー、ミサイル、島嶼(とうしょ)防衛の課題を列挙して、新たな国家安全保障戦略(NSS)、防衛大綱、中期防衛力整備計画の策定を打ち出した。自衛隊の大演習と一体となった中国侵略戦争参戦の具体的準備そのものだ。
 今国会で通過を狙う第3次補正予算案のうち、防衛費は過去最大の7738億円。当初予算と合わせて初めて6兆円を突破した。GDP(国内総生産)の2%超=10兆円超への大軍拡が一気に進められようとしている。
 経済安全保障とは経済・技術分野での戦時体制に踏み出すということだ。岸田は新設した経済安全保障推進会議とそのもとで法制化を検討する有識者会議(図)で「戦略的物資の確保や重要技術の獲得」の議論を進め、来年の通常国会での経済安保推進法案の提出を目指すとした。

「新しい資本主義」を唱えて春闘も社会保障も全面破壊

 岸田は「成長と分配の好循環による新しい資本主義を実現する」と演説した。「新しい資本主義」とは、新自由主義の大破産と階級支配の崩壊、労働者反乱の危機の中で、それを逆手にとって改憲・戦争と雇用・労働・社会保障の破壊、「労組なき社会」化に絶望的に突進する階級戦争のことだ。

「土光臨調」手本にしたデジタル臨調

 岸田は新設のデジタル臨時行政調査会(デジタル臨調)で「デジタル原則」を定め、規制や制度、行政の見直しを一気に進めるプランをまとめると述べた。
 11月18日付日経新聞は社説で、1981年に発足し国鉄民営化などを答申した経団連・土光敏夫を会長とする第2次臨時行政調査会(土光臨調)になぞらえて「臨調の名に値する改革の実現」を求めた。16日初会合のデジタル臨調について「書面、対面、目視、常駐などを義務付けてきた時代遅れな規定(アナログ規定)の見直しが急務」だと報じた。デジタル化、マイナンバーカードを水路に個人情報や医療、福祉、自治体業務、さらに社会的インフラ維持のために絶対不可欠な規制を根こそぎ撤廃しようとしている。
 デジタル田園都市国家構想実現会議の民間議員は、パソナ会長・竹中平蔵やJR東日本会長・冨田哲郎、日本郵政社長・増田寛也らだ。国鉄分割・民営化以来の労働組合破壊が狙われ、社会の崩壊、安全崩壊は限界を超える。コロナ危機が暴いた利権まみれの新自由主義の大破綻の上に最後的な破滅に突進する攻撃だ。
 岸田は「民間企業の賃上げを支援する」「賃金を引き上げた企業の法人税額の控除率を大胆に引き上げる」と述べた。税額の控除率を大企業は最大30%、中小企業は最大40%に引き上げるという。しかし大企業をはじめ日本企業の6割は赤字を理由に法人税を払っていない。むしろ資本への援助という形をとって労働組合の闘い、春闘自体の解体が狙われている。
 11月19日に決定した経済対策では、非正規の仕事を失った人10万人を対象に派遣会社がパソコンなどの研修を実施。人手不足の業界で非正規社員として働いてもらう事業に500億円、数年間で数千億円の予算を組む。あくまで非正規職から非正規職への転職支援であり、これが岸田の言う「人への投資」の本質だ。

医療・介護・保育は負担増と病床削減

 「看護師・介護士・保育士の賃上げ」について、最初は国の交付金、補助金で行うが、来年10月以降は公的価格の引き上げに切り替えるという。全職員の一律賃上げではなく労働者の分断を狙うとともに、それ自体が医療費・介護費・保育費用負担のアップに直結する。月4千円〜9千円というごくわずかの賃上げのペテンで社会保障の解体をさらに進めようとしている。
 現に厚生労働省は12月3日、全国436の公立・公的病院の病床が17年から4年間で5700床削減されたと発表した。国はコロナ下でも病院の再編・統合を含む病床数見直しを迫り続けている。都立病院の独立行政法人化=民営化はその先端となる攻撃だ。医療の崩壊は一層進む。

改憲・戦争に絶対反対貫きストと実力闘争復権しよう

 中国侵略戦争が迫り、コロナ下の医療崩壊と解雇・貧困、「過労死」の蔓延(まんえん)、気候変動など、あらゆる問題が資本主義と資本家的所有の問題であることが突き出されている。労働者階級の怒りの爆発を前にして支配階級は震えあがっている。岸田の言う「分配」とは労働者に対する資本の搾取・支配のための欺瞞(ぎまん)と一層の新自由主義攻撃であり、階級的労働運動の力で必ず打ち倒すことができる。
 岸田が新設した「新しい資本主義実現会議」には、経団連会長・十倉雅和らと共に連合会長・芳野友子が名を連ねる。産業報国会への道を進む連合本部を倒し「労働組合の刷新」、戦争絶対反対の実力闘争の復権をかちとろう。
 その現実的展望は、国鉄・関生決戦の前進と11・7労働者集会が示した。医療や自治体の現場をはじめ「ゼネスト」を求める声が湧き上がりつつある。韓国ムンジェイン政権の弾圧をはね返して10・20ゼネストを実現した民主労総や世界の労働者のストライキ決起に続こう。

防衛費倍増に踏み込む補正予算

無制限の軍備増強を前倒し

 防衛省は今年度の補正予算案で過去最大の7738億円を計上した。当初予算と合わせて、21年度防衛予算は6兆円を突破した。1回の補正予算としては、これまで最大だった2019年度の4287億円から1・8倍強もの増額となり、岸田が文字通り「防衛費2倍化」の大軍拡に踏み出したことが示されている。新型迎撃ミサイルや哨戒機P1など新規装備品の購入額は1889億円となるが、これほど大量の武器を補正予算で購入すること自体が極めて異例だ。また辺野古の埋め立てに801億円を計上したことについて、防衛省は「辺野古移設を前に進めたいという意識の表れ」と説明した。
 そして重大なことは、今回の補正予算と22年度当初予算を併せて「防衛力強化加速パッケージ」などと名づけ、来年度に予定する事業を今年度に「前倒して実施」するとしていることだ。来年度予算は、まだ国会での承認どころか、国会への提出すらされていない。それを防衛省の概算要求通りに決まったものとみなし、前年度の補正予算に先取りして組み入れるというのだ。会計年度ごとの予算編成を定めた憲法86条(単年度主義の原則)を平然と踏み破り、国会など存在しないかのように度外視した無制限の大軍拡に踏み出したのである。これ自体がクーデター的暴挙であり改憲攻撃そのものだ。
 なお昨年12月、地対艦ミサイルの射程距離を現在の200㌔程度から900㌔まで伸ばすための研究・開発費用として335億円が21年度当初予算に盛り込まれた際、加藤勝信官房長官(当時)は記者会見で「防衛能力を強化するためのもので、敵基地攻撃を目的としたものではない」とわざわざ釈明していた。これに対し岸田政権は、今や平然と「敵基地攻撃」を公言してはばからない。来年度予算の概算要求でも「12式地対艦誘導弾(ミサイル)能力向上」という項目で379億円が計上されており、最新の防衛省の発表では射程を1000㌔超まで伸ばし、艦艇や戦闘機にも搭載可能なものをめざすという。日本の領土・領空・領海内から中国本土を直接攻撃できる「敵基地攻撃能力」に相当する。
 地対艦ミサイル部隊の配備が進む南西諸島は、単に接近する中国海軍への対艦攻撃のみならず、中国本土を直接攻撃するための出撃拠点としても位置づけられているのだ。中国侵略戦争に向けた大軍拡と改憲を推し進める岸田政権を絶対に打倒しなければならない。

「賃上げ」は労組解体と一体

 岸田は「新しい資本主義」を唱え、政府の主導で賃金を上げるかのように言う。だが、「政策による賃上げ」など徹頭徹尾まやかしだ。岸田は〝賃金は政策で決める。労働組合は必要ない〟として、労組破壊の攻撃を全面的に押し貫こうとしているのだ。
 岸田は所信表明演説で、介護士・保育士の賃金を年間11万円程度、看護師の賃金を年間14万円程度引き上げると述べた。コロナ下で人々の命を守り、子どもを育成するために必死に働く労働者への処遇として、この額自体、あまりに低い。
 しかも、賃上げが確実に行われる保証はない。看護師や介護士の場合、賃上げ相当分だけ診療報酬や介護報酬が増やされて、経営者に支払われる。保育士の場合は自治体が保育園などに支払う委託料が増額されて経営者に渡される。新自由主義による医療・介護・保育の崩壊は、コロナでさらに促進された。経営危機が深まれば、賃金相当分は経営者が勝手に使ってしまいかねない。賃上げには労組の力が絶対に必要だ。

安倍の手法を反復

 岸田が押し出す「賃上げ税制」は、「全従業員の給与を前年度より増やした企業は法人税を減税する」いうものだ。この制度は新しいものではなく、安倍政権下の2013年以来続いてきた。それで賃金が上がったためしはない。岸田が新たに行うのは、資本に対する減税額の拡大だけだ。
 税の操作で賃金が上がらないことは、安倍―菅政権下ですでに実証されている。国税庁の19年度の統計では、日本の企業の65・9%が赤字で法人税を払っていない。黒字企業も、複雑な優遇税制を駆使すれば課税を逃れることができる。課税されていない企業に減税の効果はなく、賃上げを誘導することにならない。
 岸田はまた、経団連に3%程度の賃上げを要請した。これも安倍政権下で行われた「官製春闘」の繰り返しだ。これによって現実に起きたのは、大幅な賃金の切り下げだった。
 OECD(経済協力開発機構)の統計では、97年から18年までの30年で、日本の時間当たり名目賃金は8・2%も減少した。他方、米英仏では60%以上、韓国では167%も賃金が上がった。そこには労働組合の力が反映している。新自由主義の攻撃は全世界で吹き荒れたが、労働者が団結して闘えば、それに反撃することはできるのだ。

関生弾圧うち砕け

 全日建運輸連帯労組関西地区生コン支部は、産業政策運動を展開し、生コン労働者の賃金を現に大きく引き上げてきた。労働組合の団結と闘いだけが、賃上げを真に実現できるのだ。その関生支部への弾圧を今も続ける岸田が「賃上げ」を口にすること自体、許すことのできない大ペテンだ。
 JRの「労組なき社会」化攻撃も激化している。中国侵略戦争と改憲に突進する岸田は、そのためにも労組破壊に乗り出している。
 他方、連合幹部は「平均賃上げ要求はしない」というトヨタ労組を先頭に春闘を自ら破壊し、改憲の手先になりつつある。労組つぶしと対決する22春闘は、岸田打倒の決戦でもある。

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