「放射線副読本」撤回へ 汚染水放出と「核戦争賛成」世代の育成狙う

週刊『前進』04頁(3239号02面04)(2022/04/11)


「放射線副読本」撤回へ
 汚染水放出と「核戦争賛成」世代の育成狙う


 文部科学省は昨年12月から「放射線副読本」2021年改訂版を全国の小中高校に送り、児童生徒に配布している。ウクライナで戦争が始まり世界戦争・核戦争に向かう中、副読本は子どもたちに「放射線は危険ではない」と教え、日帝の核武装・核戦争まで賛成させることが狙いだ。絶対に許せない。

「汚染水は安全」と強調

 放射線副読本は2011年10月に初版が出され、昨年で3度目の改訂となる。「トリチウムは安全」と教える復興庁チラシはこの副読本に添えて学校に送られた。
 ここでは21年版の小学生用(A4判22㌻)を批判する。なお中学高校生用は表現が難しくなっているだけで、内容はほぼ同じだ。
 今回の改訂版で最大の問題は、福島第一原発の放射能汚染水問題が追記されたことだ。「(汚染水は)ほとんどの放射性物質を取り除き、大幅に薄め、健康や環境への安全を確保するための基準を十分に満たした上で、海に放出される方針」と言い放っている。児童生徒、さらに教育労働者や保護者を「海洋放出は問題ない」と誘導し、賛成の世論を形成して来春海洋放出を強行しようというのだ。
 だが、ここに書かれている内容は真っ赤なうそだ。福島第一原発に設置されている「ALPS(アルプス)」(「放射性物質を除去」と称する設備)でも、汚染水に含まれる放射性物質をすべては取り除けない。有機物と結合して内部被曝を引き起こすトリチウムはまったく除去できず、ストロンチウム90、ヨウ素129など他の放射性物質も大量に残っている。

福島の健康被害を否定

 二つ目の問題点は、3・11福島第一原発事故についての記述がわずか5行で、「レベル7(深刻な事故)」という核の大惨事を隠ぺいしていることだ。逆に、除染や住民の帰還が進み、復興が着々と進んでいるように描いている。
 中でも、県民の健康被害を否定していることは断じて許せない。「放射性物質から受ける放射線の量を測定する検査の結果によれば、検査を受けた全員が健康に影響が及ぶ数値ではなかった」と繰り返し、小児甲状腺がんなどの発症は原発事故の影響ではないと言わんとしているのだ。
 だが、甲状腺の被曝について政府が行った調査は事故のおよそ2週間後で、調べた子どもは1080人のみだ。対象地域も原発から北西や南に30㌔メートル余り離れたエリアだけだ。また他の福島県の報告を見ても、まともな検査など行っていないことは明白だ。
 今年1月27日、原発事故による被曝で小児甲状腺がんを発症した17~27歳の6人の青年が、東京電力を相手に裁判に立ち上がった。副読本はこの青年たちの勇気ある決断と闘いに襲いかかり、さらには福島の労働者人民の怒りの噴出におびえ、卑劣にもその封殺をたくらんでいるのだ。

学校・地域から反撃を

 三つ目の問題点は放射線・放射能の危険性を徹底的に押し隠していることだ。「放射線は、病院での検査や治療をはじめ、私たちの暮らしの中の様々な場面で利用され……また、放射性物質は、原子力発電所などで使われ」と、放射線や放射性物質をきわめて肯定的に描いているのだ。
 放射線は細胞・遺伝子を破壊し、健康や命まで奪う。特に子どもは放射線に対する感受性が高く、少なくとも大人の数倍にもなる。検査や治療の場合でも無用な被曝は絶対に避けなければならない。特に子どもには格段の配慮が必要なのだ。こんな「教育」を受ければ、長い人生で無用な被曝を重ね、健康を害し、命まで失いかねない。副読本は教育でもなんでもない。平然とうそを教えるもので、殺人行為と言えるほどだ。
 日帝・岸田政権は米帝とともに中国侵略戦争・世界戦争(核戦争)に向かって動きを加速させている。昨年8月、防衛省は小学校高学年・中学生向けの「はじめての防衛白書」を公開した。日帝は明らかに教育を標的としている。「放射線副読本」や「はじめての防衛白書」などを使い、「反戦・反核」の闘いを貫いてきたこれまでの世代とはまったく違う、「戦争・核戦争賛成」世代の育成を策している。戦前の教育勅語・天皇制教育の再現を狙っているのだ。
 「教え子を被曝させるな」と「教え子を再び戦場に送るな」は一体の闘いだ。広島や長崎ではNAZENなどが教育委員会に「副読本の配布中止・回収」を求め、洞口朋子・杉並区議は議会や地域で復興庁チラシや副読本を徹底的に弾劾し行動している。中国侵略戦争阻止へ、この闘いに続こう。何よりも教育労働者に心から訴え現場から闘いをつくり出そう。
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