十亀弘史さんの革命コラム-4-  袴田さんは負けなかった

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週刊『前進』04頁(3289号04面03)(2023/04/10)


十亀弘史さんの革命コラム-4- 
 袴田さんは負けなかった

 素晴らしい勝利です。袴田巌さんと秀子さんが、57年に及ぶ厳しい闘いに勝ち抜き、死刑台を打ち砕きました。3月20日、東京高裁の再審開始決定に対して検察官が特別抗告を断念。たしかに、最後の決着は、再審の法廷に持ち込まれます。しかし、強い弾劾を込めて言い切りますが、判決は完全無罪以外にあり得ません。
 事件に貫かれているのは卑劣極まる国家の暴力です。「5点の衣類」を味噌樽(だる)に埋め込んだのは警察組織です。4人が殺害され、ほぼ死刑判決だけが予想されていた事件で、警察官は袴田さんに罪を着せようとしました。それは、袴田さんを殺してもかまわないという捏造(ねつぞう)工作です。
 その組織的な故意の殺人行為の動機は、〈重大事件の最初の逮捕者を有罪にしなければ警察の威信が崩れる〉といったものです。すなわち国家支配の「秩序」の維持のためです。一人の労働者の命など平気で踏みにじるのです。
 その警察の暴力を支え続けたのが検察官と裁判官です。公訴提起や審理の過程で、彼らが、袴田さんの無実に気が付かない訳はありません。あらゆる証拠と袴田さんの一貫した訴えが、その無実を明示していました。奇怪な「自白調書」、傷跡に合わないくり小刀、不自然極まる5点の衣類、等々です。司法機関もまた、無実を知りつつ袴田さんを死に至らせようとした、と言うしかありません。
 その暴虐に対して、巌さんと秀子さんは、不屈に闘い抜きました。巌さんは「拘禁反応」を強いられましたが、決してリングに沈むことはありませんでした。秀子さんは、人生の全てをかけて、巌さんと共に粘り強く闘い、どんな危機に直面しても確信と明るさを失いませんでした。心から敬意を表します。
 金時鐘(キムシジョン)さんは「強者には一度の負けが決定的だが、弱者には負けることを止めたときが敗退なのだ」と書いています(『「在日」のはざまで』・平凡社ライブラリー)。袴田さん姉弟は、「負ける」ことを止めませんでした。何度も何度も強打を受けながら、絶対にあきらめませんでした。そして、国家権力という「強者」に、最後の決定的な「一度の負け」を強制したのです。
 権力は、〈支配秩序の維持〉のためとして、人の命を奪い続けます。外に向かっては戦争によって無数の人間の命を奪います。そのような権力を最後に一度に打ち負かすこと、それが革命です。
(そがめ・ひろふみ)

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