トランプ反革命と対決し世界革命へ 帝国主義の本性むき出しにさせ世界経済の分断・収縮を急加速

週刊『前進』04頁(3393号03面01)(2025/04/28)


トランプ反革命と対決し世界革命へ
 帝国主義の本性むき出しにさせ世界経済の分断・収縮を急加速
 島崎光晴


 アメリカ帝国主義・トランプによる高関税と中国侵略戦争は、むき出しの帝国主義にほかならない。第2次世界大戦後も帝国主義は延命してきたが、それは粉飾とごまかしに満ちていた。しかし、今や没落する基軸帝国主義である米帝が、高関税・領土略奪・国内反動、そして中国侵略戦争に突っ込んでいる。トランプ関税は、米帝の一層の没落、中国スターリン主義の危機、世界経済の分断と収縮、日帝の「国難」的瓦解(がかい)を引き起こし、今後さらに帝国主義の本性を露呈させていく。労働者が「反帝国主義」を魂にして決起する時代が到来したのである。

歴史上類例のない高関税で軍需産業基盤の再建を狙う

 2~4月にかけて米帝・トランプが行った関税引き上げは、以下のように整理できる。①カナダとメキシコからの輸入品に25%の追加関税、②すべての国からの鉄鋼・アルミニウム関連輸入品に25%の関税、③「相互関税」の第1弾としてすべての国の幅広い輸入品に一律10%の基本関税、第2弾として米国の貿易赤字が大きい約60カ国・地域に対する最大50%の税率上乗せ(日本は24%)、④米国外で製造されたすべての輸入車に対する25%の追加関税(乗用車は2・5%から27・5%へ)、⑤中国とは、報復合戦を経て米の対中関税は145%、中国の対米関税は125%になった。③については、中国を除く国・地域ごとの「相互関税」の上乗せ部分を90日間、一時停止する猶予措置がとられた。
 これほど関税が集中的に引き上げられるのは、資本主義史上でも例がない。しかも、今回の米国の「相互関税」率は世界平均で23・4%になり、1930年に制定された「スムート・ホーリー法」実施後の19・8%(33年)をすでに上回っている。
 トランプ政権はこの間、相互関税の対象からスマートフォンや半導体製造装置など電子関連製品を除外したが、半導体、医薬品、重要鉱物やレアアース(希土類)とそれを使った製品などを対象に、関税適用を視野に調査を始めており、高関税をさらに拡大していこうとしている。
 トランプは関税発動に伴う大統領令で「貿易赤字は......米国の製造業と防衛産業基盤の生産能力の萎縮に寄与している」と明言している。近年は人工知能(AI)の伸張によって軍事のソフト面での進化は著しい。しかし、「軍艦が造れない米国」などと米ニューヨーク・タイムズ紙にも書き立てられるほどの惨状である。しかも、「米国で造船業が衰退し始めたのは、自動車などと同様に1980年代からだ」(4月1日付日本経済新聞)。米帝の軍需生産は航空・宇宙分野では国際的優位を保っているが、それ以外の分野の新規生産は製造業の劣化によって衰退していると見るべきである。今回の高関税でこうした衰退が急回復できるはずもない。それでもトランプは、中国侵略戦争突入を間近に控えて、その態勢と準備を1ミリでも進めようとしている。米帝にとって中国侵略戦争こそが第一義なのだ。
 民需も高関税で復活できるわけではない。米国内で売られている自動車の実に半数近くが、海外からの輸入品だ。しかもほぼすべてのモデルの米自動車に何らかの輸入部品が使われているという。「アメリカを代表する車種」とされるフォードF150ですら数千点の部品が24カ国以上から調達されている。GMは世界販売台数の約4割を米国が占め、米国販売車の半分近くが国外からの輸入だ。関税により生じるコストの半分を車価格に転嫁した場合でも、2025年の営業利益を帳消しにし、赤字に転落する可能性がある。
 高関税で米経済はインフレと景気後退に陥ると指摘されているが、より重大なのは、トランプ関税で米帝が一段の没落ぶりをさらすに至っていることだ。高関税導入を機に米国の国債、株式、通貨ドルがいずれも売られる「トリプル安」となった。「相互関税」の第2弾をわずか13時間で停止したのは、米国債の急落が原因だった。直後にトランプ自身が「国債の市場はとても厄介だ」とぼやいたほどだ。米国債売りで米金利が上昇し、長期金利の指標である10年物米国債利回りの1週間の上げ幅は0・50%と、9・11反米ゲリラ戦が起きた後の01年11月12~16日(0・55%)以来23年ぶりの数字を記録した。
 米国債市場が構造的に不安定になっていることも浮き彫りになった。米国債の入札で銀行・証券会社などが購入する割合は08年リーマン・ショック後に急低下し、ヘッジファンドや投資信託の割合が7割に高まった。高速売買で値ざやを稼ぐ投資会社が、米国債売買の主役になってしまった。また、今年1月時点で海外が保有する米国債は、最大の保有国・日本で1兆790億㌦、2位の中国が7608億㌦である。中国は今回の関税発動に対し、欧州で保有している米国債を売りに出したとみられる。
 米国の対外純債務も、直近は約26兆㌦(約3900兆円)にまで増加した(図1)。対外債権から受ける利息や配当から対外債務に対して支払う利息や配当を差し引いた第1次所得収支は、赤字寸前にまで悪化した。さらに、ウクライナ支援や海外への無償贈与の勘定である第2次所得収支を合計すると、21年から傾向的に赤字になった。国外との関係で利息が利息を生む借金地獄が始まった。これがドル信認を崩す最大要因と化すのは必至だ。
 では、中国にとってはどうなのか。

狙い撃ちにされ危機深める中国

 中国の輸出総額に占める米国の割合は、第1次トランプ政権が始まった17年18・98%から、24年には14・66%まで低下してきた。一方、東南アジア諸国連合(ASEAN)向けは同じく12・33%から16・39%まで上昇し米国向けを超えた。アフリカや中南米向けも同様に割合を伸ばしている。米帝から高関税を課せられる事態を想定して準備してきたのである。
 しかし、「中国はまさに『一国社会主義』の国であるため、帝国主義の超強烈な貿易制限は体制破壊的な攻撃となる」(『清水丈夫選集』第7巻序文)。スターリン主義としての危機は避けられない。実際、中国経済は内需の歴史的な行き詰まり、構造的な停滞を輸出の伸びでカバーしてきた。米帝による145%高関税はこの構図を崩壊させる。習近平国家主席はベトナムやマレーシアを訪問し、経済協力協定を結ぶなどの通商外交を展開している。ベトナムは相互関税で46%、マレーシアは日本と同じ24%の高税率を米政権から課された国々だ。米国向け輸出のダメージを帳消しにできるほどの位置は持たない。

関税の報復合戦が経済危機深刻化させ大恐慌の爆発へ

 トランプ関税によって帝国主義世界経済は分断と収縮に陥り、その収縮度合いによっては世界大恐慌に進展しかねない。
 第一に、トランプの相互関税の発表直後、日米欧の株安が連鎖し世界的な株価暴落となった。米国の代表的な株価指数、S&P500は20年6月以来の大幅な下落率となり、4月4日と5日の2日間だけで実に5兆4000億㌦(約790兆円)の時価総額が吹き飛んだ。相互関税が90日間猶予されたため、90日後に実際に発動される時に株価が再び暴落しかねない。
 第二に、関税引き上げの報復合戦が始まっている。欧州連合(EU)は、トランプ政権による鉄鋼・アルミニウム製品への追加関税への対抗策として、最大260億ユーロ相当の米国からの輸入品に報復関税を課す計画を発表している。
 さらに、第2弾として鉄鋼・アルミ製品などの工業製品、鶏肉、牛肉、野菜などの農産物を対象とする報復関税を予定している。報復合戦こそ、世界経済を分断し世界経済を収縮させる。
 第三に、第2次大戦後の関税貿易一般協定(GATT)体制を引き継いだ世界貿易機関(WTO)体制という多角的貿易に反する行動がまかり通っている。24年の米国から中国への輸出は1435億㌦(約20兆円)。輸出先として中国はカナダ、メキシコに次ぐ3番目に大きい市場だ。その米中間が報復しあいながら超高関税に突入したのだから、世界経済全体もこれに引きずられる。しかも、現在70カ国が米政府との交渉を申し出ており、各国が米政権と取引するために対米関税引き下げを競えば、貿易相手国を平等に扱う多角的貿易体制は一段と揺らぐ。供給網の分断、貿易の停滞は世界経済に想像を絶する縮小作用を及ぼすに違いない。
 第四に、米帝・トランプが世界各国に〝米側につくのか中国につくのか〟と迫り、世界を分断しブロック化を自ら促進している。アップル、インテル、ナイキなど米国主要企業は、ASEANに生産拠点を置いている。今や、ベトナムやタイなどが属するASEANは「世界の工場」と呼ばれるほどになったが、トランプ関税で大きな打撃を受ける。これらの国は米国への依存を減らして中国との協力を強化せざるをえない。
 こうした世界貿易の分断とブロック化は、必ず世界経済を収縮させていき、大恐慌に転じる可能性を高める。1930年代には、世界75カ国の総輸入額は29年の29億9800万㌦から33年1月の9億9200万㌦に縮小(図2)。それが29年からの大恐慌をより深く、より長いものにした。
 すでにWTOは、2025年の世界のモノの貿易見通しを3・0%増から1・5%減に引き下げた。

未曽有の「国難」にのたうつ日帝

 トランプ関税と世界経済の激変は、日帝にとって、石破が言うように「国難」そのものである。
 日本の24年の輸出額は107兆9千億円で、米国向けは21兆3千億円を占めた。輸出額は全世界、米国向けともに増加傾向にあり、24年はどちらも過去最高だった。日本の輸出品で最も多いのは自動車だ。24年は世界に17兆9千億円の車を売った。うち米国向けは約34%の6兆2千億円、一方で米国から日本への自動車輸出は1500億円ほどにとどまる。24年の日本からの輸入品に対する米国の平均関税率は1・5%であり、25%の追加関税が課されれば関税率は約26%に急上昇する。日本車の値上がりと販売落ち込みは避けられない。日本の対米輸出品では、自動車以外にも建設機械や半導体製造装置などが高いシェアを持つ。
 トランプ米政権による追加関税は、トヨタ自動車の日本国内の生産体制を揺るがす。米国販売の約2割に当たる53万台を日本から輸出しており、コスト増や販売台数の減少へつながる。部品メーカーなど約6万社とされる国内供給網への影響は避けられず、トヨタの掲げる「国内300万台の生産体制」は岐路に立つ。もし日本の自動車の輸出が減ると、メーカーだけでなく部品製造など業界に勤める約560万人、家族なども合わせて1120万人以上が直接、影響を受ける。
 トランプは日本のトヨタとコメを名指しして批判している。赤沢亮正経済再生担当相との会談では、「米国の対日貿易赤字をゼロにしたい」と明言した。ドル安誘導など日帝の経済的譲歩を引き出すために、防衛費拡大や米軍駐留経費の日本側負担の増額などを求めている。日帝・石破はこれを、中国侵略戦争への一層の踏み込みのてこにしようとしている。

「反帝国主義」を全労働者に訴え戦争阻む内乱的闘いを

 トランプによる国内産業防衛のための高関税は、むき出しの帝国主義にほかならない。発展途上の国内産業を保護するのは「育成関税」と呼ばれるが、帝国主義時代には「産業保護関税がカルテルの最も有効な促進手段の一つ」(ヒルファディング『金融資本論』)となる。
 レーニンは『帝国主義論』の第9章「帝国主義の批判」で、「周知のように、カルテルは、新しい独創的な型の保護関税をもたらした」と指摘している。米国も1901年の平均関税率は28・8%と高かった。ただし第2次大戦後は、1947年に創設されたGATT体制のもと、国際競争で優位に立ったことで、米国の平均関税率は約8%から最低1%台まで低下した。そうした経緯を踏まえると、今日のトランプ関税はすでに競争力を低下させた国内独占体を保護しようとするもので、米帝の没落期、帝国主義の衰退期の関税と言える。
 一方、トランプは就任以来、デンマーク自治領グリーンランドの取得やパナマ運河の返還を求める発言を繰り返している。しかも、そのための軍事力行使を否定していない。ウクライナについても、プーチンと「領土分割」が議論されていると述べ、ロシアによる領土併合を容認する可能性すら示唆している。要するに軍事力による領土の強奪、再分割だ。レーニンは『帝国主義論』第6章の「列強のあいだでの世界の分割」で「経済的領土の、いな領土一般さえもの拡張にたいする金融資本の熱望が不可避的に生じる」と規定しているが、まさにそれである。
 さらにトランプは、教育省、中小企業庁、世界食糧計画(WFP)、米疾病対策センター(CDC)、国立衛生研究所(NIH)、海洋大気局(NOAA)などで、部門の廃止、資金提供の打ち切り、人員の大削減・解雇、閉鎖などを強行している。『帝国主義論』第9章では、「帝国主義の政治的属性(特質)」として「自由への熱望ではなく、支配への熱望」「あらゆる政治制度のもとでのあらゆる方面の反動、この領域における諸矛盾の極端な尖鋭(せんえい)化」と書いている。まさにそうした帝国主義の政治的特質が現実化しているのである。
 そして何よりも米帝は、中国侵略戦争・世界戦争に突入しようとしている。それは労働者人民に対しては、プロレタリア革命以外にいかなる出口もないことを突きつけるものだ。
 今や、一方的な高関税、領土の強奪と再分割、支配と政治的反動、戦争と革命という帝国主義の本性がむき出しになっている。第2次大戦後、帝国主義は米帝を世界で唯一・絶対の基軸国として延命してきた。しかしそれも1970年代から崩れ始めた。21世紀への突入を挟んで、没落する米帝が巻き返そうとあがきにあがく過程が何十年も続いてきた。米帝が侵略戦争を繰り返すほど、米帝の没落は激しく進んだ。そして今、トランプの「米国第一主義」のもとで「国際協調」と「階級融和」は死語となり、国家間の争闘戦と階級戦争が取って代わる中で、中国侵略戦争が切迫しているのだ。
 私たちが目にしているのは第1次大戦と第2次大戦を引き起こしたのと同じ帝国主義なのだ。ロシア革命は第1次大戦のまっただ中で勝利したが、今日の戦争は核戦争にならざるを得ないのであり、戦争が始まる前に止めなければならない。反帝国主義・反スターリン主義世界革命の旗のもと、反帝国主義の魂を全労働者に伝えよう。職場でも大学でも、街頭でも学習会でも、反帝国主義の一大旋風を起こそう。

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▼カルテル 特定の資本同士で協定を結び、自由競争を回避して価格や生産量の取り決めを行うこと。資本主義の帝国主義段階への転化を特徴づける資本独占体の一形態。関税とカルテルの関係について言えば、国内の幼弱な産業を保護するのではなく、すでに発展し国際競争力を備えた産業を関税で保護することにより、資本がさらに高利潤を求めてカルテルを結成し、国内では生産物を独占価格で売りつけ、国外に向かっては低価格でダンピング輸出を行うようになる。19世紀末~20世紀初頭のドイツで、このような保護関税がカルテル結成を促進する現象が典型的に見られた。

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