●特集 デモとストが激発する欧州 Ⅲ ユーロ危機で大揺れのEU 戦後世界体制崩壊の発火点 新自由主義と闘う労働者――「解雇自由」「賃下げ」にスト

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月刊『国際労働運動』48頁(0460号03面03)(2015/01/01)


●特集 デモとストが激発する欧州 Ⅲ
 ユーロ危機で大揺れのEU 戦後世界体制崩壊の発火点
 新自由主義と闘う労働者――「解雇自由」「賃下げ」にスト

(写真 ローマ市内デモ。「今やゼネストに立つ時だ!」というスローガンを掲げている)

(写真 イギリスの医療労働者のデモ。「戦争反対」「賃金カット反対」「トライデント【原潜】ではなく福祉を」などのプラカードを掲げている)


 「ユーロ危機」が深刻化するなかで、2014年後半期、ヨーロッパ各地でストライキ、デモが激発している。ドイツ鉄道労組の数次のスト、ルフトハンザ、エールフランスなどの航空労働者のスト、イギリス公共サービス労働者のゼネスト、そしてイタリア労働者の継続中のストライキ行動などが、それを戦闘的に代表する闘いである。
 こうした決起の底に共通しているのは、2007年の恐慌突入以来、7年にわたる新自由主義の自己破産的攻撃、賃金カット、非正規雇用の拡大、社会保障制度の切り崩し、労働協約制度の解体、組合破壊、そしてEU内外における争闘戦の戦争的激化などに対する怒りである。
 広範な労働者階級人民のやむにやまれる決起に直面し、これまで新自由主義政策の担い手の一翼となってきた体制内労働組合さえもが、一定の抵抗のポーズを示さなければ、最末期帝国主義の反労働者的支柱としてさえ生き残れないと判断し、各国でゼネストを呼びかけざるをえなくなっている。
 この現状を突破する道は、ただ一つ、ロシア革命の衝撃を直接に受け、第1次世界大戦の戦後世界、そして30年代の内戦・内乱時代に決起した歴史的経験を持つヨーロッパ労働者階級が、その手に階級的労働運動と労働者国際主義を復権して闘うことだ。その闘いの勝利は、職場に基礎を置き、労働運動・労働組合の闘いと一体となった革命党の建設にかかっている。

イタリアで「解雇自由」反対の一大決起始まる

 以下、今回は、焦点をイタリアとイギリスに当てて述べていきたい。
 独仏につぐユーロ圏第3の「経済大国」であり、経済成長率マイナス0・2%、失業率13%(青年労働者は44・8%!)にあえぐイタリアで、11月14日、全国20都市にわたって、「社会的ストライキ」が数十万人の参加で闘われた。「社会的ストライキ」というのは、既成の労働組合に組織されている以外のさまざまな形態の非正規職労働者に向けて、主催者である戦闘的少数派労働組合によって呼びかけられたからである。
 首都ローマとミラノでは、何時間にもわたって、都市交通がストップし、ところどころではバスの車庫や高速道路がブロックされた。経済省やドイツ領事館(EUの緊縮政策の張本人とみなされている)に対して、卵や発煙弾が投げつけられた。パドゥアでは、大学の前で警官との衝突が起きた。ストライキ中の金属労組の労働者(主要に自動車産業の労働者)が、ミラノで機動隊と街頭戦を闘った。
 闘争のテーマは、もちろん賃金カットや社会保障制度の解体などへの抗議があるが、中心的な問題は、「雇用・労働法」(Jobs Act)の改悪反対である。今年1月に成立した民主党政権のマテオ・レンツィ首相は、就任早々、議会に「雇用・労働法」の改定を提案した。その核心は〈第18条〉である。それは、裁判所への提訴によって不当解雇を中止させることができるという現行の規定を廃止しようという攻撃である。
 この〈第18条〉を含む「雇用・労働法」は、イタリアにおける戦後革命敗北以後の階級闘争の最大の高揚期であった1970年に制定された、闘争の獲得物であり、この間、ベルルスコーニを含む歴代政権が、「労働力市場柔軟化」の〈岩盤〉とみなして、何回か削除を策動してきたものである。レンツィ政権は〈第18条〉の撤廃を、出身母体の民主党で一部の反対を押し切って合意を取り付け、すでに10月6日上院で承認され、下院では11月26日に承認されようとしている。
 これに対して、これまで、経営者団体と「労資協力協定」を結んでいる三つの体制内労組全国センターのうちCGIL(イタリア労働総同盟)は、10月25日に、全国的抗議行動を呼びかけ、ローマで数万人の集会とデモを行った。続いて11月8日、公共サービス労組がやはりローマで、賃上げ要求を掲げて1万人デモに決起した。
 だが、既成労組の側からは、〈第18条〉撤廃反対を掲げたストライキあるいはゼネストは、一切取り組まれてこなかった。そこで独立労組が、USB(現場労組同盟)のもとに結集して、今回の「社会的ストライキ」を呼びかけるにいたったのである。
 11月14日の闘いの全国的高揚に押されて、イタリア労働総同盟が、12月5日のゼネストを、他の二つの全国センターに提案している。
 レンツィは、「そもそも〈雇用・労働法〉は、1970年代の産物で時代遅れ」「中でも〈第18条〉はじゃまだ」「労働は権利ではなくて、労働者の義務だ」「雇用者側には、雇用する労働者を選択する自由、解雇する自由がある」などと公言している。そのために「イタリアのサッチャー」などと呼ばれ、民主党内部からさえ反発を受けている一方で、ドイツのメルケル首相からは激励されているという新自由主義そのものの政治家だ。
 今、イタリア労働者階級は、「解雇の自由」という工場法以来の賃労働と資本の非和解的対立をめぐるイタリア帝国主義の死活をかけた階級戦争に直面しているのだ。
 かつて、ロシア革命直後の1919年に工場占拠と農地占拠をもって、「赤色週間」を闘いとった伝統をもつイタリア労働者階級人民、ムッソリーニのファシズム体制との長期の闘いの末、第2次世界大戦におけるパルチザン戦争、そして戦後革命、さらに1970年代の「暑い秋」をたたかったイタリア労働者階級人民が、プロレタリア世界革命に立ち上がる時だ。

イギリスで賃上げを求めて10万人の決起

 以上述べたようなイタリアや、ドイツ・フランスに先んじて、アメリカのレーガン、日本の中曽根とともに、サッチャー政権のもとで、すでに1980年から新自由主義政策を強行してきたイギリス帝国主義は、その後の労働党政権が「新労働党」を名乗って、サッチャーの後継者として民営化を推進することによって、EU内部での延命を続けてきた。
 その「新労働党」と一体のTUC(イギリス労働組合会議)のもとで、労働者階級は、賃金カット、労働条件の悪化を強いられてきた。
 世界大恐慌の激化の過程でのキャメロン保守党政権の緊縮政策に抗議して、10月18日に10万人に上る労働者のデモが全国で闘われた。ロンドン、グラスゴー、ベルファストなどの都市で実施されたデモは、実質賃金が引き下げられている中で賃上げを求めて闘われた。首都ロンドンでは、TUC傘下の組合の労働者が、「イギリスは賃上げを求めている」というスローガンを掲げてデモ行進した。
 UNITE(ユナイト=地方自治体労働組合)、UNISON(ユニゾン=公共職員労働組合)、NUT(全国教員組合)、CWU(イギリス通信労働組合)、GMB(都市一般労働組合)などがデモを行った。このデモには、年金生活者と反核活動家も参加した。
 消防士労組は、「われわれは人々を助ける。銀行を助けない」と書かれたバルーンを掲げてデモを行った。
 フランシス・オグレイディTUC書記長は、「大規模なデモが、給料を上げるべきだという強いメッセージを政府に突きつけるものとなる。今までの歴史で、最も長期にわたる徹底した賃金カットが行なわれてきた中で、大多数の人々を経済成長の犠牲にすることをやめさせる時である。会社の役員たちは、普通の労働者の175倍もの所得を得ている」と語った。
 今回のデモは、これに先立つ連続的な大規模ストライキの総決算として行われたものである。
 10月13日に、約40万人の国民医療サービス(NHS)労働者が、32年間で最大のストライキを行った。助産師、看護師、救急救命士、救急医療隊員、病院の荷物運搬員、清掃員などがストライキに決起した。午前7時から午前11時までの4時間のストライキであった。組合の1%の賃上げ――実質ベースでは給与削減をぎりぎり保証するにすぎない要求――でさえ政府が拒否を決定するという暴挙に怒りが爆発したのである。こうしたなかで、イギリス助産師会の助産師労働者が133年の組合の歴史の中で初めてストライキを行った。
 10月15日には、政府の官庁、博物館、裁判所などではピケットラインが張りめぐらされた。PCS(公共民間従業員組合)などの組合に所属する公共部門を中心とする労働者がストライキに決起した。
 公共職業安定所職員、そして美術館、運転免許試験センター、港湾、空港などで20万人に上る労働者がピケット行動を行い、24時間のストライキを実施した。
 2010年に公共部門の賃金が凍結されたのち、2012年に賃金の年間上昇上限が1%に決められ、継続されている。
 過去数年間で、数万の公務員の職場の雇用が奪われてきたにもかかわらず、政府は、労働者の賃金の抑制は、より多くの公共部門労働者の雇用の継続に役立っている、などと主張している。
 ニューエコノミックス財団というブルジョアジーでさえ、「賃金カットの実際の効果は、イギリスの中で最も貧しい10%の人々に、この1年間で15%の収入の減少をもたらしたことである」と報告している。
 PCS書記長のマーク・サーワッカはこう語っている。
 「低所得の世帯の人々はすでに知っていることだが、賃金が年ごとに切り下げられているのに実際の生活費は急上昇しているということである」「億万長者が減税をかちとり、彼らの納税忌避によってわれわれの公共資金から毎年数百億㍀が盗まれ、公務員の生活水準が大幅に切り縮められている。われわれの今週のストライキは、こうした削減の終了を要求するものである」「2010年に保守党―自由民主党の連立政府ができて以来、人々の賃金が減少し続けているのはまったく受け入れがたい。これが今回の闘争の重要性である」「今回のストライキは強く支持されていると信じている。なぜなら、職場は閉鎖され、解雇され、民営化の脅しがかけられ、疾病手当金の締め付けが行われるという恐ろしいほどの賃金状況と公務員労働者に対する最悪の扱いが行われているからである」
 イギリス労働運動のなかで独自の戦闘的な位置を占めるRMT(鉄道港湾運輸労働組合)は、ボブ・クロー書記長の死去(今年3月)の後も、彼の階級的路線を引き継ぐと公約して新書記長に選出されたミック・キャッシュのもとで、民営化反対を掲げ、ロンドン地下鉄駅の無人化に反対するストライキを、繰り返し続行中である。
 今回は、触れることができなかったが、ドイツでは、〔戦闘的な〕少数派労組の労働協約交渉からの排除と事実上のストライキ禁止の攻撃に対する反撃が、機関士労組を先頭として闘われている。その闘いが、階級的に貫徹され、勝利するためには、体制内労組をはじめとする既成労組の改良主義的限界を突き破る階級的労働運動の復活と、それを実現し指導する労働者階級の革命党の建設を、歴史的伝統をもつドイツ労働者階級が、長年のスターリン主義的歪曲をのりこえて実現しなければならない。
 そして、それは、戦後45年間スターリン主義体制下にあり、スターリン主義の崩壊により西欧帝国主義の支配するEUとNATOに包摂されることをつうじて、新自由主義攻撃にさらされてきた中東欧諸国の労働者階級の階級的課題でもある。これら諸国の労働運動、労働者階級人民の闘いについては、機会を新たにして光を当てたい。