■News & Review ヨーロッパ 東西ヨーロッパに拡大するストとデモ 新自由主義と闘う欧州労働者との国際連帯へ

月刊『国際労働運動』48頁(0462号02面02)(2015/03/01)


■News & Review ヨーロッパ
 東西ヨーロッパに拡大するストとデモ
 新自由主義と闘う欧州労働者との国際連帯へ

(写真 ロンドンのバス運転手のストライキ【1月13日】)



欧州を揺さぶる年頭の三つの衝撃的出来事

 世界大恐慌の「恐慌の中の恐慌」への突入のただなかにおけるヨーロッパの階級情勢は年頭から、①1月7日のパリ・シャルリー・エブド襲撃、②1月22日の欧州中央銀行の量的緩和=国債買い上げ政策の決定、さらに、③ギリシャにおける左翼政権の誕生という三つの衝撃的出来事によって激動の2015年に入った。
 これらの事態は、米帝・日帝、そして中国、ロシアなどの絶望的な凶暴化、ウクライナ情勢、イラク・シリア情勢などで戦争的に進行している戦後世界体制の最終的崩壊過程のなかで、全世界の危機的焦点としてのヨーロッパ帝国主義が、その政治的・経済的な矛盾―構造的な矛盾を劇的に爆発させたものである。
 このようなヨーロッパ帝国主義を根底から揺さぶり、年頭の三つの事態を生み出した決定的な要因は、実は、大恐慌の数年にわたる激化、世界戦争への転化の過程のなかで、ついに開始されつつあるヨーロッパ労働者階級の大衆的決起である。
 「テロ反対の360万デモ」でパリをはじめ、全フランスが揺るがされたといわれているが、昨年末から今年にかけてヨーロッパでは、中東欧諸国を含めて、主要都市の街頭が、数十万、さらに百数十万規模の労働者の怒りのデモで繰り返し埋め尽くされてきた。さらに、年末・年初のヨーロッパの都市交通、空の交通は、ドイツ・フランス・イギリスを軸に、交通労働者、航空・空港労働者のストによって制圧され、労働者の階級的力をふたたびみたび全社会に示したのである。

独仏英鉄道労働者の民営化反対闘争

 大恐慌下のヨーロッパ階級闘争・労働運動で、鉄道・交通・運輸(陸上・航空・港湾)が、ますます焦点となってきている。それは、日本における国鉄闘争と同様、この領域が新自由主義攻撃における争闘戦と階級戦争の戦場という位置をもっているからだ。日帝・JR資本が、アジアをはじめ海外に「新幹線売り込み」を策しながら、国内で労働運動せん滅を狙っているように、ヨーロッパの鉄道・航空資本は大恐慌下での生き残りをかけて、EU域内はもちろん、全世界を対象に、民営化、外注化、分社化、非正規職化、企業の集中・合併などを強行している。それが、不可避的に労働者の職場と生活・権利をめぐる闘いを激化させているのだ。
 ドイツ鉄道労働者の闘い、とりわけベルリン都市交通を軸とするGDL(ドイツ機関士労組)の数年来の首都交通を揺るがすストライキ闘争は、民営化による鉄道労働者の分断と戦闘的労働組合解体攻撃との熾烈な格闘である。昨年9月のフランス国鉄(SNCF)労働者のストライキ闘争は、国鉄の分割〔SNCFは、すでに運輸業務部門と管理部門の2社に分割(いわゆる垂直分割)されている〕による外注化、賃金切り下げと労働条件悪化との闘いである。また、イギリスRMT(鉄道海運運輸労働組合)の戦闘的な2年越しの闘いのテーマは、無人駅化反対・鉄道業務の外注化反対である。以下に報告するロンドンのバス運転手のストライキは、まさに分社化による交通労働者の分断攻撃との激突である。

ロンドンでバス運転手が大規模ストライキ

 2015年1月13日、年が明けて早々のイギリスの首都ロンドンでは、バス運転手の24時間のストライキによって都市交通の動脈が制圧された。ロンドンのバス交通は、何と18社に分社化され、民間バス会社によって運行されている。その運転手のうち2万7千人が、ユナイト(Unite=サービス労組)に組織され、そのうち2万人の運転手が今回のストに入ったのだ。当日、午前4時に始まったストライキは全ロンドンに広がり、バス路線は停止し、ロンドン中の70のバス車庫にはピケットラインが張られた。
 18社に分割されたロンドンのバスで働く労働者の賃金は、80種に区分されており、同じ仕事(たとえば運転手)をしていても、同じ会社の内部でさえ異なった賃金で働くという極端な差別賃金構造で、労働者が分断されている。組合の広報によると、運転手の時間給は9・30㍀(約1660円)から12・34㍀(2203円)と最大3㍀(543円)の格差がある。今回のストは、「運賃は市内同一なのに、同じルートで同じ仕事をしている運転手の賃金はなぜ違っているのだ。これは、労働者をお互いに競わせるためだ」「地下鉄労働者〔RMT(鉄道海運運輸労働組合)のもとにある〕のように単一の賃金体系にせよ」と、差別賃金構造の撤廃を要求して行われているのだ。
 こうした交通・運輸労働者のストライキの激発に直面し、キャメロン保守党・自由民主党連立内閣は、公共部門(医療、運輸、消防、学校など)のストライキを制限するために、スト権投票の有効性が現在では投票数の過半数=単純過半数であるとしているのを、投票数ではなく、その組合の投票有資格者総数の40%の賛成に満たなければストは有効ではない、合法ストとは認めないという法制的改悪を狙っている。
 今回のロンドン市内バスのストライキは、2万7千人の組合員の賛成の下、2万人が参加し打ち抜かれており、このキャメロン内閣のもくろみを実質的に打ち砕いている。

独仏航空労働者のストライキ闘争

 鉄道交通とならんで、昨年後半期においてヨーロッパの空の交通は、ルフトハンザ(ドイツ)とエールフランスのパイロット・機上勤務員・地上勤務員のストライキ闘争によって数回、数カ月にわたって遮断され、ブルジョアジーは悲鳴をあげた。このストライキは、この間、航空会社間のあいだで激烈化している過当競争のなかで、いわゆるLCC(格安航空会社)が乱立し、ヨーロッパ中の航空会社で分社化・外注化攻撃が行われ、低賃金の強制、労働条件の悪化、安全の崩壊などが進行していることに対するぎりぎりの闘いとして展開されてきたのであった。
 こうした運輸・交通の領域にとどまらず、現在ヨーロッパ労働者階級に対してかけられてきている攻撃は、①低賃金の強制、②外注化攻撃、分社化攻撃による職場と安全の破壊、③「解雇自由」をもくろむ労働法規改悪を頂点とする解雇攻撃と失業の激増、非正規雇用の拡大、④社会保障制度・医療制度・教育制度などの新自由主義的破壊、⑤スト権の剥奪攻撃(さしあたり少数組合をターゲットとするという形をとっている)、スト権投票における有効票のハードルを上げることによるストライキつぶしの攻撃、⑥「反テロ」「反イスラム」などの煽りたて、排外主義・愛国主義の宣伝による帝国主義戦争への労働者階級人民の動員攻撃〔による階級闘争のせん滅攻撃〕――以上のように特徴付けられるであろう。

ポーランドとハンガリー労働者の決起

(写真 決起したポーランドの労働者【2014年】)

 こうした攻撃は、独仏英などのいわゆる西欧諸国だけでなく、1991年のソ連スターリン主義崩壊と東欧スターリン主義圏解体以後、EUに包摂されてきた旧中東欧諸国の労働者階級にとっても、同様に、いやもっと激しく襲いかかってきているのだ。〔これら諸国のEUそしてNATOというヨーロッパ経済・政治・軍事圏へのショックドクトリン的な包摂の強行過程については、本誌昨年6月号の特集「戦後世界体制最後的崩壊の扉を開いたウクライナ情勢」参照〕
 とりわけ、これら諸国のなかで最も早く、NATOとEU(およびIMF〔世界銀行〕)に接近し、スターリン主義体制から資本主義への「移行」を強行したポーランド・ハンガリー・チェコの三国で、大恐慌下の矛盾が大爆発している。
 ポーランドでは昨年末から、炭鉱労働者が南部シレジア地方の四つの炭鉱の閉山という政府の計画に反対して闘っている。この地方の炭鉱は、EU内で最大の産出能力を有している。ポーランド政府は、この国営炭鉱の赤字経営、エネルギー転換などを理由に、リストラ計画を進めてきており、この2年間ですでに1万人の労働者が解雇されている。今回の閉山計画は4万6千人の労働者の解雇を含むものである。これを当該労組が知ったのは、マスコミ報道を通じてであり、事前に何の通告も協議もなかったということが、炭鉱労働者の怒りを爆発させた。昨年11月3日、このリストラ計画発表後ただちに、200人の炭鉱労働者が会社本部を占拠した。続いて今年に入って1月8日、2000人の労働者とその家族、地域住民が、会社に対する抗議行動を行った。こうしたなかで、今年1月17日、会社側と労組のあいだで、計画の先送りという暫定合意が成立したが、この妥協に反対した2万5千人の炭鉱労働者が、1月28日、無期限ストに入った。労働者は閉山反対とともに、政府の緊縮財政政策による賃金カット、一時金の減額に反対し、同時に、この間「職場規律違反」という理由で解雇された9人の仲間たちへの処分反対と、横暴な炭鉱会社経営陣の更迭要求を掲げている。
 中東欧のもうひとつの柱・ハンガリーでは、この10年間、議会での過半数議席をもって、緊縮政策の強行や汚職政治の拡大、言論の自由の圧殺などの暴政を敷いてきたオルバン保守党政権の退陣を要求するデモが、昨年12月14日、17日、今年に入って1月3日、2月1日と数千人規模で繰り返されている。ハンガリーは、他の中東欧に先んじて、ソ連スターリン主義崩壊以前から、IMF(世界銀行)をはじめ、欧米資本の導入を開始し、新自由主義政策を強行してきたという独自の経緯を持つ。それが今や、世界大恐慌の世界戦争への転化情勢のなかで、積年の労働者階級人民の怒りに揺さぶられているのだ。
 以上のようなヨーロッパ労働者階級人民が直面している課題は、われわれが、日韓米の三国連帯の国際連帯闘争をつうじて確認してきたのとまったく共通する階級的内容を持つものであり、正規・非正規の壁、国境・宗教・民族などの壁をのりこえた階級的国際連帯を貫く階級的労働運動の強化、職場における闘う拠点の建設・拡大こそが回答である。
 「中東・欧州・全世界人民に訴える」と題して、全世界の労働者階級人民に対して発せられた革共同声明は、まさにそのための呼びかけである。
(城山 豊)