■News & Review 日本 日銀・黒田の金融緩和策が限界寸前 アベノミクスは破産し国債と株価の暴落は不可避

月刊『国際労働運動』48頁(0462号02面03)(2015/03/01)


■News & Review 日本
 日銀・黒田の金融緩和策が限界寸前
 アベノミクスは破産し国債と株価の暴落は不可避


 15年冒頭からの中東情勢の大激動、安倍政権の改憲・戦争への激しい突出の根底には、世界大恐慌と長期大不況の深刻化、その中での争闘戦の軍事化・戦争化の現実がある。新自由主義的帝国主義の体制破産が、その「最弱の環」としての日帝を締め上げているのだ。とりわけ、「アベノミクス」の柱である日銀(黒田総裁)による金融緩和策が行き詰まってしまい、安倍政権は絶望的危機にのた打ち回っている。

大恐慌の重圧で再びデフレ経済へ転落

 昨年10月31日の追加金融緩和策から3カ月。日銀は1月21日の金融政策決定会合で、追加緩和と同日発表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」の中間報告をまとめ、15年度の消費者物価上昇率の見通しを1・7%から1・0%に大幅に引き下げた。7月段階での見通し(1・9%)からの下落傾向をまったく止められず、「2年で2%上昇」の目標は完全に破産し、今やデフレ経済にはまり込んでいこうとしている。
 足元でも14年12月の消費者物価上昇率(消費増税分を除く)は前年同月比0・5%で、3カ月連続で1・0%を下回っている。先行指標とも言われる国内企業物価指数にいたっては、11月が0・2%下落、12月が0・9%下落とマイナスに転落してしまった。
 黒田は「原油価格下落による一時的なものだ」と言っているが、物価上昇の鈍化―下落は実際には、過剰資本・過剰生産力の解決不能性ゆえに大恐慌の重圧からまったく抜け出せない現実を示している。何よりも、労働者階級への大失業と非正規化・低賃金化の大攻撃が巨大な重圧となって横たわっている。
 黒田が緩和策でやっているのは物価上昇の自己目的化であり、物価上昇=経済成長などとはまったく逆に、円安による輸入品の値上げなのであり、労働者階級にとっては消費増税とあわせて、実質賃金の低下となって襲いかかっている。実質賃金指数は14年12月段階で18カ月連続の減少、14年全体では前年比2・5%もの大幅な減少で、リーマン・ショック後の09年(2・6%減)と同水準なのだ。
 ゆえに一部の富裕層(ブルジョアジー)による高額消費以外には個人消費は伸びず、本格的な設備投資など始まらず、資金需要は生まれず、どんなに緩和マネーを注ぎ込んでも銀行の国内融資は停滞しきったままである。
 全世界的に進む超低金利化も、実体経済に資金が回っていかない経済の停滞の現実であり、あふれたマネーは投機資金となり株式や金融に向かってバブルをつくりだしていく以外になくなっている。ここに新自由主義下の大恐慌の破綻しきった姿がある。しかし安倍・黒田にとって緩和策にはまり込んでいく以外になくなっている。

追加緩和は最後的破局への道を開いた

 その点で10月31日の追加金融緩和策の決定は、いよいよ後戻りのできない最後的破局への転換点となった。
 追加緩和策の柱は次のように長期国債買い取りの大幅増額である。
▼マネタリーベースの年間80兆円(10~20兆円追加)増加。
▼長期国債保有残高の年間80兆円(30兆円追加)増加ペースでの買い入れ。毎月の買い入れ額は8兆~12兆円程度。
▼買い入れの平均残存期間の7年~10年程度への延長(最大3年程度延長)。
 毎月の買い入れ額は、国債発行額10兆円を、ほぼ丸々吸収してしまうほどのすさまじい規模である。マネタリーベース(資金供給量)は15年末時点では355兆円となり、GDP(国内総生産)の7割以上になる。
 FRB(米連邦準備制度理事会)のQE(量的緩和)政策の終了時点での総資産がGDP比2割強、ECB(欧州中央銀行)が量的緩和を貫徹した後でもGDP比3割程度であるのと比べても、日銀の資産規模は突出している。さらに続ければ1~2年で国債発行額の50%を日銀が保有する規模まで膨れ上がる。
 こんな状態からもはや抜け出すことはできず、緩和策からの「出口」などおよそ問題にならないレベルに入ってしまっている。安倍・黒田を筆頭に、政府・日銀の連中は、「出口」のことなど関係ないとの態度に終始している。

国債金利のマイナス化と乱高下で緩和策破産

 しかし、今や緩和策の続行自身が限界にぶち当たろうとしている。
 日銀による常軌を逸した買い取りは国債市場を破壊し、市場で取引される国債が急激に減少してしまった。そのために、国債総体のマイナス金利化が進行している。
 昨年夏頃から短期国債(国庫短期証券)の流通利回りがマイナス化し、それが常態化してきたが、日銀はそれでも買い取りを続けてきた。日銀は買い取った国債を満期まで保有するので、マイナス利回りなら購入額の方が償還額より高くなるが、損失を出しても買い取って無理やり緩和策を継続してきたのだ。
 しかしついに昨年10月には短期国債買い入れの入札に応札が届かない「札割れ」が生じ、買い入れ自身ができない事態まで発生してしまったのだ。追い詰められた日銀は追加緩和で短期国債の買い取り分を減らし、その分長期国債を増やす方針としたが、やはりマイナス金利化の流れは止められない。
 今や短期国債だけでなく2年物国債や5年物国債もマイナス金利化した。財務省による新規国債の落札利回りでさえマイナス金利になり始め、個人向け中心の新型窓口販売国債は金利が付けられず発行ができない事態も生じた。
 こうした中で、国債市場は完全に破壊され不安定化してしまい、流通する国債の不足の中で、今度は金利の乱高下が始まっている。この間、証券会社などは国債を高値(マイナス金利)で購入しても、すぐに日銀からの買い取りに応じ、より高値で売って、その利ざやで稼いできた。しかし、金利が不安定化すれば、この図式も成り立たなくなる。そうなれば日銀による買い取りも破産する。今は緩和策の強行でかろうじて抑えこんでいるが、早晩崩壊する。

国債直接引き受けに匹敵する財政救済

 緩和策はあらゆる意味で財政ファイナンス(日銀による財政赤字の穴埋め)の色彩を強めている。日銀の買い取りは、新規国債発行額と同規模になった。市場から買い取る形ではあるが、ほとんど日銀による国債の直接引き受け(=マネタイゼーション)のレベルに入っている。
 その上で政府は15年度に40年債と30年債の発行額を合わせて2兆円程度増やす方針である。将来の利払い費を抑えるために、低金利が続いている今のうちに超長期国債の割合を増やそうというのだ。
 また、15年度は前倒し債の発行枠を過去最大の32兆円に拡大する。前倒し債とは、過去の国債大量発行による借り換え集中の危機を回避するためのものだが、この制度も悪用し、国債発行を増やすのだ。
 文字通り、日銀の緩和マネーで直接的に国家財政を支えているのだ。マネタイゼーション以上の政策に入っていると言っても過言ではない。しかし、こんな状態が長続きするわけはない。すでに、格付け会社ムーディーズは日本国債を格下げした。国債を保有している大手銀行や生命保険会社なども格下げされた。1000兆円を超える政府債務の解決不能性は完全にあらわとなり、財政破綻の現実性が意識され始めているのだ。

株式買い取り拡大し安倍相場を支える日銀

 いま一つ重大なことは、日銀による株式買い取りの拡大だ。追加緩和策では、日経平均株価などと連動するETF(株価連動上場投資信託)の買い取りを従来の3倍の3兆円に拡大した。
 株価の値動きを見れば一目で分かるが、午前に値下げした株価は午後には必ず上がる。日銀が買いに入っているからだ。そうやって株式バブルをつくり、株価を下支えし、安倍相場を守り抜くという一点で日銀がより一層ETF買い取りに踏み込んだのだ。
 株式相場が不安定だった今年1月には3443億円もの買い入れを行った。
 同時に、130兆円の資金をもつGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用資産割合の基準を変更し、国内債権の比率を減らす一方で、株式を大幅に高める方針に転換した。運用目標を「安全」から「リターン」に転換し、国内・海外の株式に積立金の50%(総額65兆円)をつぎ込むのである。これも安倍相場を支えるというただ一点だ。
 緩和マネーによって初めて株価が上昇するという構図が完全に固定し、日銀も株式購入から抜け出せなくなった。中央銀行による直接の株価下支えという異常事態がますます拡大しているのだ。

緩和策に次ぐ緩和策から抜け出せない

 黒田による10月の追加緩和は、GPIFの運用基準変更、そして政府の経済対策と同時に発表された。13年4月と同じようにまたぞろボードを準備し、サプライズ的な発表を演出して、インパクトを与えて市場を刺激する効果を狙ったのだ。こういう黒田のやり方は、行き詰まった経済を、麻薬をうち込んで極限的に膨らませ、ボロボロに破壊するようなものだ。
 もともと、黒田が叫ぶ〝インフレ「期待」(予測)に働きかける〟ということ自身が極めてデマゴギッシュで、「インフレにするためには何でもやる」と騒ぎ立てることに核心がある。それにしても今回の追加緩和は、理由としては「デフレマインドからの転換が遅延する」と根拠薄弱であったがゆえに、直後からさらなる追加緩和の要求がブルジョアジーから噴き出してきている。今年に入ってからは、追加緩和を決定しなかった失望で株価が急落し、国債金利が急騰する事態にもなっているのだ。
 これは、日銀も政府も金融機関も大企業も投資家もすべて、緩和に次ぐ緩和なしには成り立たない、文字通りのカンフル状態から抜け出せない絶望的な状態にはまり込んでしまったということだ。
 しかし、先にみたように国債の買い取りももう限界が迫っている。日銀が緩和策を緩めれば、買い手不足で流動性を失った国債市場が崩壊し、金利急騰=国債暴落が現実化する。そうなれば一挙に財政破綻情勢にも突入する。緩和策でかろうじて支えられバブル化している株式市場も暴落する。安倍を支える私的機関に成り果てた日銀の信用は最後的に崩れ落ち、国家としての総崩壊となるのだ。日帝を震源地とした「恐慌の中の恐慌」への転落は不可避だ。

大恐慌・戦争を革命へ安倍・黒田の打倒を

 安倍政権は徹底的に戦時経済化していく以外にない。米帝の「回復」論とは裏腹の歴史的没落、ECBのデフレ経済化と絶望的な量的緩和への突入、そして中東、ウクライナ、東アジアをめぐって激烈な争闘戦と現実の戦争が開始されており、安倍は危機の中で社会・経済のあり方すべてを戦争化させ、実際に中東侵略戦争に参戦している。
 15年度予算案は軍事費を増額し、さらに鉄道・原発を始めとしたインフラ輸出と武器輸出で暴力的な勢力圏争いに踏み出した。それと一体で、首切り自由・残業代ゼロ・総非正規化など労働規制の撤廃を軸にした「成長戦略」と称する大攻撃をかけている。
 しかし、青年をはじめとした労働者階級の怒りと闘いは爆発的に燃え上がろうとしている。動労千葉・動労水戸を先頭にした国鉄決戦、「動労総連合を全国に」の闘いを爆発させ、安倍政権を打倒しよう。大恐慌・戦争をプロレタリア革命に転化する、階級的労働運動と国際連帯の大発展をかちとろう!
(諸岡鉄司)