■News & Review ヨーロッパ ストで立ち上がるEUの鉄道労働者 英・独に続き仏鉄道労働者もスト突入

月刊『国際労働運動』48頁(0466号02面02)(2015/07/01)


■News & Review ヨーロッパ
 ストで立ち上がるEUの鉄道労働者
 英・独に続き仏鉄道労働者もスト突入

(写真 ストに突入したフランスの国鉄労働者【2014年6月12日 パリ・リヨン駅】)

仏鉄道労働者も「改革法反対」でストに決起

 世界大恐慌の激化の中で、低成長と緊縮政策の重圧下にあるEUにおいてドイツに次ぐ位置を持つフランスで、昨年、『ストライキだ!』(セ・ラ・グレーブ)というタイトルで、全国ストライキ情報のサイトが立ち上げられた。ギリシャに続く「ヨーロッパ第2のスト多発国=フランス」の「今日のスト、明日からのスト、今までのストについての情報を提供する」という趣旨で開始され、「あらゆるストライキの予告と報告を集中してほしい」という訴えに、全国の闘う労働組合・活動家から情報が集中している。
 5月下旬の号をみると、原子力産業アレバの労働者が大量首切りに反対して6月2日からストに入るという予告に始まり、郵便労働者、ローカル・バスの運転士、清掃労働者、病院労働者、社会保障部門労働者、長距離トラックの運転士などのスト、そしてリヨンをはじめとする大学ストなどの報告があふれ、わずか1週間のあいだにこれだけのストが闘われていることが激しく伝わってくる。まさに「生きさせろ」の怒りの爆発である。
 こうしたストの波の中で、その中軸に座るのは、現にストライキ中のドイツやイギリスのように、やはり鉄道労働者=フランス国鉄(SNCF)労働者である。彼らはCGT(フランス労働総同盟)系、SUD―Rail(連帯・団結・民主的労組・鉄道支部)ほか、いくつもの組合に組織されているが、EUの統一方針を体現するオランド政権の鉄道民営化の激しい攻撃に対して、現場の怒りを爆発させ、闘いを継続させているのだ。
 3月10日、国鉄労働者は、昨年国民議会で可決され、今年の1月から施行された「鉄道改革法」に基づく解雇攻撃に反対してストライキに決起している。この鉄道改革法に対しては、国鉄労働者は、昨年6月の国民議会審議段階で、「2010年以来の最大のストライキ」を闘っているのだ。5月22日のパリ、2万5千人のデモを出発点に、6月10日から24日間にわたり、フランス全土で鉄道ストが継続され、高速列車、基幹路線、都市交通、ローカル線などの3分の2におよぶ運行がストップした。

大量解雇との闘い

 フランスの鉄道労働者の怒りは、今回の「鉄道改革法」制定以前から、国鉄職場を襲っている大量解雇の攻撃に対して向けられている。国鉄の赤字経営からの脱却のためとして、ローカル線の切り捨て、線路などインフラ投資の削減が行われ、設備の老朽化が進み、列車運行の危険が増大している中で、2003年から2013年のあいだに2万5千人が解雇された上で、現在15万人になっている国鉄職員のうち、「正規雇用フルタイム労働者1万人に該当する職」(実際には、数万の非正規職労働者を含む)を廃止しようというのが、今回の改革案である。
 フランス国鉄の民営化は、ヨーロッパ諸国に比べて若干スタートが遅かった。

仏・英・独の鉄道民営化の経過

 先陣を切ったのはイギリスで、1994年に英国有鉄道(ブリティッシュ・レール)を解体し、「上下分割」(運転・営業部門とインフラの所有・管理部門の分離)と「オープン・アクセス」(民間企業の参入)の原理に従って、25の鉄道旅客輸送会社、6の貨物鉄道会社、14の信号・保守会社などとその子会社を含む総数100の会社に分割し、民間会社の参入に道を開いた。この「上下分割」「オープン・アクセス」のもたらした鉄道輸送の安全の崩壊状況が爆発したのが、2000年ロンドンの北30㌔のハットフィールドで4人の死者と70人を超える負傷者を出した列車脱線・転覆の大事故だった。事故原因は老朽化した線路の破断であり、設備の点検・整備体制の破綻が突き出された。その結果、インフラ部門を担ったレール・トラックは責任を問われて解散、国家管理のネットワーク・レールに引き継がれた。だが、その後も2007年のグレイリッグでのポイント故障による脱線事故(『日刊・動労千葉』07年2月28日号)など、列車事故は絶えないまま現在にいたっている。
 ドイツは東西統一後に、旧西独の国鉄と旧東独の国営鉄道を合併して、新たにドイツ鉄道(DB)を政府所有の株式会社として1994年に設立し、やはり「上下分割」「オープン・アクセス」によって部門への分割と子会社への業務の委譲によって、民営化への道を開いた。
 これに対して、フランスは、1997年になって、国鉄SNCFからRFF(鉄道ネットワーク)を組織的に分離(「上下分離」)し、半国営企業とした。2000年には国鉄SNCFの地域化法案が成立し、「水平分割」による全国の路線の細分化・子会社への委託が行われるにいたった。ところがその結果、鉄道事業の有機的一体性が解体され、事故が多発していることから、全体の監督機関を設置しようというのが、今回の改革案のひとつの側面である。このような民営化へ向けた過程で、一貫して行われてきたのは、解雇攻撃と年金制度解体であった。

EUの新自由主義政策と「鉄道改革」

 こうした鉄道民営化の全過程を推進したのが、1987年7月11日に共通市場を発足させたEUであった。米帝によって開始された新自由主義の世界的展開に対抗する「ヨーロッパ内部市場」の形成、すなわち、「商品・労働力・サービス・資本の自由な動き」を促進するために〝自由化〟〝規制緩和〟〝競争力の強化〟をキャッチフレーズとし、その一環として1991年、「EU共通鉄道政策」が策定された。「上下分離」「オープン・アクセス」を柱とし、国家財政投入の削減・廃止を図り、「市場原理」を貫徹するとして、職員の削減、賃金切り下げ、労働条件の悪化が強行されることとなった。
 1990年東西ドイツ統一、1991年ソ連スターリン主義崩壊と東欧スターリン主義圏の解体を転機とするEUの「東方拡大」の波(2004年に中東欧諸国がEU加盟)、新自由主義のグローバリゼーション的展開による世界経済・政治・軍事の変貌の中で、EUは帝国主義・大国間の新たな争闘戦と国内労働者階級への攻撃(=階級戦争)の局面に入っていった。
 その重要な一環として、2000年リスボン・サミットで「運輸・郵便・電気事業の自由化」をEUの共通政策として決定、2003年EU議会で「公的鉄道事業の民営化」を決議、2004年、2005年に相次いで、それぞれ貨物輸送・乗客輸送の全ヨーロッパ規模での鉄道網(ネットワーク)の形成のEU指令を出し、2007年にはEU議会で承認された。こうして、「市場経済原理の導入」による国際競争力の強化が鉄道事業の至上命令となった。そのための方策が「上下分離」による鉄道業務の分割・分断・細分化と「オープン・アクセス」による民間企業の参入の奨励である。
 こうしてEUの鉄道事業は、各国においてテンポの差や方式の違いはあっても、新自由主義的競争原理によって解体・変貌させられ、安全の軽視・解体・崩壊、鉄道労働者と乗客(圧倒的多数が通勤労働者だ)の安全と生命の無視、破壊が、日常的な攻撃として襲いかかる領域となった。

EU鉄道改革=民営化のもたらしたもの

 こうした鉄道民営化のもたらした現状を2007年段階で暴露している文章がある。「鉄道民営化の八つの致命的な結末①統一的な鉄道体制が分割された、②職場が減らされ、賃金が低下した、③列車の快適さやサービスが悪化した、④地域交通が消滅し、大都市間の高速列車にとって代わられた、⑤鉄道事業への公的補助金が増加した、⑥鉄道は、自動車産業、バス会社、航空会社などの営利団体などとの競争にさらされるようになった、⑦駅が、都市と交通のシンボル的な役割を失った、⑧鉄道事業の所有している不動産が投資対象になってしまった」(『誤った軌道を暴走するドイツと世界の鉄道民営化』(ウィンフリート・ウォルフ〔昨年ベルリンで発刊され、主に鉄道ストを報道している『ストライキ新聞』の編集長〕)
 職場からの声としては、「ドイツ鉄道の要員は、1994年から2006年のあいだに、38・5万人から18万人へと半減した。実質賃金は大きく低下した。労働条件は、激しく悪化した。一方、ドイツ鉄道(DB)の企業利益は、2005年と2007年のあいだに3倍化した」(GDL〔ドイツ機関士労組〕機関紙より)
 こうした現実に対して、2007~2008年、世界大恐慌爆発の時期に、「ストライキ共和国ドイツ」をつくりだした機関士労組(GDL)の大ストライキ闘争が闘われた。現在、機関士労組は、戦闘的な少数派労組を協約交渉から排除し、さらにストライキ権をも奪おうという政府の「単一協約法」と真っ向から対決し、ドイツ労働総同盟のなかに、分岐を生み出すにいたっている(『前進』2683号「ドイツ『スト禁止法』阻止へ闘い」を参照)。

イギリス鉄道労働者の闘い

 イギリスでは、RMT(鉄道港湾運輸労組)に結集する鉄道労働者が、イギリス鉄道のインフラ部門(ネットワーク・レール)で、6月9日からストライキに入る。検修・操車の作業を担っている1万6千の労働者が、賃上げと職場の確保を要求し、会社側の「今年は1%、来年は1・4%」「この期間中の強制解雇はない」という回答を拒否したのである。RMTミック・キャッシュ書記長は「これは、鉄道の安全に責任を担い、精神的緊張のもとで働いているわれわれに対してふさわしいものではない。これでは、われわれが最も恐れている労働者の状況、すなわち仕事で燃え尽き、その上、明日の生活はどうなるのか、これからの職は安全なのか、という不安のなかで生きている労働者の状況がますます悪くなるだけだ」と語っている。
 一方、ロンドン地下鉄当局が、今年9月からロンドン地下鉄の主要路線で毎週金曜・土曜の24時間運転を計画していることに反対して、ASLEF(機関士・機関助士協会)は、6月19日からのスト突入へ向けて、現在スト権投票を行っている。「ロンドン市民のために役立ち、世界で第一級の地下鉄深夜運転を」という攻撃に、運転士をはじめとする現場の怒りは高まっている。RMTも、この地下鉄の闘いに協力する構えである。

全世界で激発する交通運輸事故

 この間、日本全土にわたるJR事故をはじめとし、全世界的に鉄道事故、航空事故、船舶事故などが頻発している。アメリカのアムトラック・フィラデルフィア事故、オスプレイの墜落事故、スペイン軍隊の訓練飛行中の貨物輸送機(エアバス)墜落、中国の巨大客船転覆事故、那覇空港での自衛隊機の管制塔指示無視等々。すべてが、安全軽視・無視の新自由主義に根源があることは明らかだ。
 韓国民主労総のゼネスト、その起爆力のひとつとなった鉄道労組との新たな連帯を固めつつ、動労千葉・動労水戸を先頭とした「動労総連合を全国へ」の国鉄全国運動は、ヨーロッパをはじめとする鉄道労働者のストライキを焦点とする世界的な状況の中で、鍵を握るものである。新自由主義の最大の破綻点が、まさに鉄道民営化である。全世界に広がるゼネスト情勢を、プロレタリア世界革命の勝利へと導くためには、労働者階級人民の自己解放的力の根底的爆発に敵対する体制内労働組合指導部を打倒しなければならない。党と労働組合の一体的建設と国際連帯に支えられた階級的労働運動の職場的拠点の確立、これが不屈のギリシャ労働者階級を先頭に、ドイツ・フランス・イギリスをはじめとするEU帝国主義の中枢における労働者階級のストライキ闘争、そして中東欧労働者の闘いと連帯する道である。
(川武信夫)