3・4控訴審闘争のために(下) 西村正治弁護士に聞く 賃借権解約 小作人の同意が絶対不可欠

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週刊『三里塚』02頁(0914号02面02)(2015/02/23)


3・4控訴審闘争のために(下)
 西村正治弁護士に聞く
 賃借権解約 小作人の同意が絶対不可欠

(写真 2月16日の新やぐら裁判報告会であいさつする西村正治弁護士【千葉県弁護士会館】)


 西村正治弁護士へのインタビュー2回目です。小作権が極めて強い権利であるという観点から、その権利の解約には小作者の同意が絶対に必要だという原則を解説してもらいました。

 ――前回、農地転用のための売買に知事の許可が必要とされる農地法5条の規定と、賃借権の解約申し入れに知事の許可を必要とする20条の規定()を「一体で進めなければならない」と言われました。その主張の根拠を教えてください。
 西村 それは物事の性質上当然のことです。5条というのは転用目的の売買の規定ですが、農地を保護する農地法のあり方から言って、農地を農地以外のものにするのだったら、ただちに施行しなければならない性質のものであり、中途半端に放置するというのは本来許されない、ということです。買った以上直ちに転用しなければならないので、5条と20条が一体になるわけです。
 ――農地法20条の知事の賃貸借契約解約申し入れ許可処分でも「小作人の同意が必要」ということを解説していただきたいと思います。
 西村 観点を変えて言うと、小作権というのは、現在の経済関係の中では強い権利として認められています。これは、建物所有のための土地賃借権よりも強い権利です。借地・借家法で借地人は保護されていますが、小作権はそれよりも強い権利です。耕している限り、その土地の利用が認められ、土地の所有者が誰になろうと権利を主張できます。それが農地法18条の農地賃貸借の対抗力です。だから勝手にそれを消滅させることはできません。したがって、消滅させるためには当然、賃借人の同意が必要になるのです。賃借人がそれを解消することがない限り存続し続けるわけです。
 ――農地法の20条で、知事の認可があれば「所有者は賃借者に解約を申し入れることができる」となっています。これだけ見ると、転用の場合、耕作者の意思より知事の判断が優先されるようにも見えますが。
 西村 本件の場合、千葉県知事は「転用相当とする場合」で解約を許可しました。しかし、転用相当とする場合無条件で許可できるのか、というのがここでの問題です。ここで、先に言った小作権の対抗力が問題になってきます。普通考えられる転用相当の判断の場合、例えば旧地主の藤﨑氏が転用申請を出した場合には、賃借人の同意書が添付されていないから許可は出ません。だから、本件の場合にも小作権者の同意は不可欠だ、ということです。

「反論」を論破する

 ――「小作人の同意」は、農地法の核心ですね。これに対して多見谷判決や千葉県は、農地法5条の目的を農地と農地以外の土地との調整をすることとして切り縮めています。
 西村 農地法は、農地の保護というのが大前提にあります。これにかぶさって、農地法の立法趣旨があります。それを前提に5条の転用のための売買の規定があります。これは農地以外にするための農地の売買の必要が、一般的にはあることから設けられました。
 だけど、そこでも「農地を保護する」という基本的な趣旨と、どう調整付けるかが5条の意味です。単に、同じような農地と農地以外の土地を対等な立場で比べるというのが、5条の趣旨ではないのです。
 ――裁判の中で千葉県は、農地法5条の賃借人の同意書の添付義務を「(小作権の)保護を目的とするものではない」と言いきっています。これは、どうなのでしょうか。
 西村 それは曲解です。農地法である限りそれは言えません。
――1952年農地法制定時に、政府は「小作人の地位を擁護するためには、賃借権の解除、解約について、許可の手続を愼重にしておく」と言っています。県の主張は、この制定目的に反していますね。
 西村 そうです。根本において違っていると言えます。

物権に近い権利

 ――小作権の物権化の主張をされると聞いたのですが。
 西村 賃借権は債権とされています。債権は人が人に対して影響を及ぼす権利です。だから人との関係次第でなくなってしまう。これに対して、物権と言うのは、直接その物に対して権利を及ぼす、物に対する支配権です。物がある限り消滅することがない。小作耕作権は、農地を耕作する権利ですから、債権というより物権にきわめて近いはずです。
 とりわけ、市東さんのケースを考えた場合に、鮮明です。大正年間から耕作を続け、本来なら農地解放の過程で自作農になる土地だったのに、所有権として認められる土地がたまたま手続き上の問題で小作地として残ってしまった残存小作地です。これはほとんど所有権です。これが単なる債権としての賃借権としての扱いでよいのか、ということです。
 ――これまで主張してこなかったのですか。
 西村 更新手続の意見で簡単な主張は述べています。賃借権だから、解約という事が簡単に持ち出されてくるわけです。物権に等しいものだと、それをもっている者が放棄しない限りなくならないはずだから、小作人の同意のない限り知事の許可でなくなるはずはないということになるのです。今後、強く主張していきたいと思います。
 ――次回弁論の攻防は 西村 何よりも、審理打ち切りとのギリギリの闘いです。東京高等裁判所・第19民事部の小林昭彦裁判長は、結審を狙っています。全国の大結集の力が重要です。次回は、県・NAAから出された反論を徹底的に批判します。新たな証人調べをかちとる第一歩になると思うので、大変重要です。弁護団は全力で取り組んでいますが、両方の力でやりきりたいのでよろしくお願いします。
(終わり)

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農地法5条 農地を農地以外のものに転用するために売買する場合の規制条項。どういう場合にこの転用が許可されるかを決めている。
農地法20条 農地を賃貸借している農民に対して、農地の所有者が賃貸借契約の解約を申し入れる時、どういう要件を満たせば解約の申し入れができるかを定めた条項。

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