葉山岳夫・弁護団事務局長に聞く 強制執行は許されない 千葉地裁・高瀬判決を徹底批判する 市東さんの有機農業を守ろう

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週刊『三里塚』02頁(1017号02面01)(2019/06/10)


葉山岳夫・弁護団事務局長に聞く
 強制執行は許されない
 千葉地裁・高瀬判決を徹底批判する
 市東さんの有機農業を守ろう

(写真 葉山岳夫弁護士)

(写真 強制代執行当日、小泉よねさんに大量の機動隊が襲いかかる【1971年9月20日】)



(写真 成田市ニュータウンをデモ【3月31日】)


 9月24日、請求異議裁判控訴審・第1回が東京高裁の大法廷で開かれる。千葉地裁・高瀬順久裁判長の反動判決について、改めて反対同盟顧問弁護団事務局長の葉山岳夫弁護士に伺った。

国は「強制手段放棄」を確約

 ----お粗末判決だと批判されていました。
 葉山 1点目は、空港公団(現NAA)と国側(運輸大臣)が成田シンポジウム・それに続く円卓会議で約束したことの持つ意味について無理解だということです。
 NAAは強制執行を請求する権利を放棄しています。1994年10月成田空港問題円卓会議で、隅谷三喜男調査団団長は最終所見で、「平行滑走路(現在のB´滑走路)の建設のための用地取得にあたっては、あらゆる意味で強制的手段が用いられてはならず、あくまで話し合いにより解決されなければならない。計画予定地住民との合意形成が肝要」と提言しました。運輸大臣と空港公団も完全に同意し、受け入れました。
 その背景には、当時、空港用地の取得に関して、空港建設絶対反対の闘いによって国側と空港公団がデッドロックに直面する中で、地元住民との話し合い、これまでの空港建設のあり方を考え直す必要があったということです。
 同時に、「強制的手段は放棄したのだから、成田空港反対闘争は終わった」と強調することによって反対運動を終息させようという意図がありました。
 しかし、高瀬判決では「今後の空港用地の取得に際して、土地収用法や公共用地特措法以外の方法によることを成田シンポジウム・円卓会議で表明したに過ぎない」と話し合いによる合意形成という肝心の点を脱落させ歪曲して要約しました。
 その認識は完全に間違っています。
 一つは、暴虐な国家権力の行使に対する追及と、それに対する謝罪がなければ話が進まないという強い世論の中でシンポ・円卓会議があったのです。1971年の第1次・第2次代執行で小泉よねさんの家と田んぼや駒井野団結小屋などを国家権力の凶暴な暴力行使で取り上げ、危篤の重傷者も出しました。強い批判が地元住民の中で湧き上がり強制執行を再度繰り返すことに非常な反発があったのです。

事業認定は失効

 もう一つは、1969年の12月から空港用地全体にかけられていた事業認定が1989年で20年を過ぎたことです。これにより、2期工事について、収用裁決権が時効消滅、土地収用特措法の緊急裁決の根拠も消滅と事業認定そのものが失効しました。それについて論議をするということがシンポ・円卓会議の大きな目的だったのです。
 それを短絡的に「今後の空港用地の取得に際して、それら以外の方法によることについてシンポジウム、円卓会議で表明したに過ぎない」と歪曲してとらえた。だから「あらゆる意味において強制的手段をとらない。あくまでも話し合いにより解決されなければならない」という合意を、あえて無視したのです。
 「話し合い」ということも、「一方的にそれぞれが言いたいことを言い合う」という理解にとどまっています。円卓会議での「話し合いによる解決」とは、「合意を形成して解決する」というものでなければなりません。国、公団が受諾、合意した隅谷所見では「計画予定地および騒音下住民との合意を形成しながら進めることが肝要である」と話し合いによる合意を強調しています。隅谷所見は平行滑走路の建設について「理解できるところである」と根本的に誤った見解を示しましたが、計画、建設手法についてはあくまでも話合い、合意を基本原則としたことは明白です。
 多見谷判決では、合意形成がないにも関わらず、「話し合いが頓挫した場合について、強制的手段を取らないということまでは言ったものではない」と事実をねじ曲げます。さらに高瀬判決では、NAAは「合理的な努力を尽くしたと認められる」ので合意に至らなくてもその後の強制的手段が取れると言ったことは根本的な誤りです。

離農を前提にした「補償額」

 2点目は、NAAが提示している1億8000万円の補償に関する問題です。そもそも、周辺で同じような面積の農地を取得するためには約5億円以上の資金がなければ確保できません。1億8000万円では取得できません。しかも農地を有機農業の農地にするのには20年以上かかります。それを全く無視し、1億8000万円の補償を提示(支払ってはいない)しているから権利濫用ではないとしました。
 問題なのは、明け渡し対象となっている農地で完全無農薬・有機農業と産直運動をあくまでも継続しようという強い決意を持っている農民に対して、離農を前提とした全く違う補償の方式で補償額を算出し、それで十分だとして、強制執行を合理化したことです。
 これは完全に憲法29条(財産権)に違反しています。「完全な補償」を無視し、強制執行の濫用性を否定した許しがたい粗雑な判決だということです。農業をやめて、生き甲斐もなくブラブラと余生を暮らせということです。
 さらに、有機農業と産直運動による営農の重要性について具体的詳細に展開した石原健二博士の補佐人陳述・意見書を全く無視し、「過酷な執行は憲法違反だ」という内藤光博教授の補佐人陳述と意見書も一顧だにしていません。
 さらに、「適法な強制執行は平穏に実施されるべきものだから、過酷な執行にはあたらない」と言っています。これまで、あらゆる強制執行・行政代執行が膨大な機動隊が周辺を包囲する中で暴力的に行われてきた事実を全く無視し、単なる建前論にもとづいて強制執行の過酷性を否定した上っ面の判決です。

話し合い頓挫で強制執行!?

 ----判決では、強制執行をしないという約束は口頭弁論終結前だから請求異議訴訟の理由にならないとも言っています。
 葉山 隅谷最終所見とそれにもとづいて完全に合意した空港公団と運輸大臣の「あくまで強制的手段を取らない」という合意・確約が口頭弁論終結前になされたことは間違いない事実ですが、これが実際に問題となるのは、あくまで確定判決を利用して強制執行が行われる段階でのことです。これが口頭弁論終結後の事情である明白な事実を一切無視したことは途方もない事実誤認です。空港会社が独自に収奪するのではなく、裁判所判決を利用して裁判所をして収奪せしめるという悪質な手口です。
 そもそも、多見谷判決では、「NAAが訴えを提起すること自体は強制力の行使ではない」と言っていますが、強制執行をすることが強制力の行使かどうかまでは言及していません。
 それを高瀬判決は、「訴訟に至るまでの期間等にかんがみれば、NAAは話し合いによる解決のために合理的な努力を尽くしたと認められる」から強制的な手段はやむをえないと歪曲します。しかし、あくまで強制執行を行おうという強硬な意思そのものが口頭弁論終結後に出てきたということは明々白々な事実なので、そこの論点を完全にずらしたのです。
 「訴えて、明け渡しを求める権利がある」ことの確認を取ることまでが農地法裁判における確定判決です。その確認を取った上で、強制力を用いて強制執行で実現するというのは次の次元の問題です。それを全く無視して、多見谷判決は「訴えの提起は、話し合いが頓挫した後は許される」ということを言い、高瀬判決はそれを援用して強制執行を是認しました。多見谷判決の上をいく非常に粗雑かつ誤った判断だと言えます。
 NAA側の代理人は、「判決が確定すれば強制執行は当たり前」と後出しで言っていますが、そのことに関しては請求異議訴訟が民事執行法で決められています。請求異議訴訟そのものの意義に関してまったく無理解な考え方です。
 ----なぜ訴訟までの期間がある程度あれば、合理的な努力を尽くしたと言えるのでしょうか。
 葉山 それは高瀬判決の一方的な見解です。2003年12月にNAAは登記をしたということを発表し、市東孝雄さんはじめみんなが驚きます。NAAが裁判に訴えたのは2006年です。そもそも用地取得に関して、話し合いの期限を設けるということはありません。あくまで話し合いを継続して、合意まで至らなければ、それはその部分の用地取得についてはあきらめるというのが当たり前です。それで強制的手続きに及ぶということは絶対にあってはならないことが、隅谷所見等で確約した事実です。

裁判の傍聴に駆けつけよう

 ----隅谷所見でも、時間を区切って話し合えとは言っていません。
 葉山 半世紀以上の空港建設の経緯で、空港建設絶対反対闘争が闘われる中で、一方的に合意形成を図ることなく進めてきたことが行きづまり、シンポ・円卓会議があり、ここにまで至ったということなのです。空港建設の当初の過程では、地元住民は運輸省に、果ては宮内庁にまで出向いていって、何回ともなく陳情して、話し合いを求めたわけですが、国側は一切応じませんでした。そういう中で空港建設を強行し、その後の段階での話なのです。「一切の話し合い拒否」という反対同盟の原則はそれまでの経緯を含めれば当然のことであって話し合いで合意しなかったので強制的に行うというのは勝手な言い草です。
 2005年に私は市東さんの代理人として、勝手に用地を取得することは許せない、話し合いを継続したいのであれば、まずはB´滑走路の供用を停止しろと文書で申し入れました。平行滑走路建設は、地元住民の合意形成によって行うことを合意したのですから当然の提案です。これを黒野匡彦NAA社長(当時)は拒否しました。
 ----拒否したのはNAAの側なのですね。
 葉山 そうです。こちらは、用地取得について合意なく強制的な手段に訴えることは絶対に違法と思っていましたから。
 ----傍聴参加者へのアピールをお願いします。
 葉山 法廷で弁護団は論理と気合を武器に全力で闘いますが、弁護団だけでは勝てません。法廷は現地闘争と一体です。法廷を弁護団と傍聴者の闘う気迫であふれさせることが勝利の道です。

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