〈解説〉 日米貿易は対立激化へ 8月交渉「大枠合意」の内情

週刊『三里塚』02頁(1024号02面05)(2019/09/23)


〈解説〉
 日米貿易は対立激化へ
 8月交渉「大枠合意」の内情

(写真 茂木経済再生担当大臣とライトハイザー代表 )

 8月25日、トランプ大統領と安倍首相が会談し、日米貿易交渉に関して大枠で合意した。1カ月後の9月末には協定書に署名する。TPPの約3カ月、日欧EPAの約1年と比べると異例の短さだ。

「TPP水準に」

 なぜ短期決着となったか。中国との貿易戦争での農産物輸出減少と来年の大統領再選でトランプが危機に立っているからだ。
 合意内容は、農産物に関しては直ちにTPP水準の関税にする、自動車の関税撤廃が見送られた一方で工業製品の8割以上の品目で関税が撤廃される、である。自動車で譲歩した日本は、米国から押し込まれただけである。交渉にあたった米通商代表部のライトハイザー代表は「70億㌦以上の市場開放」と評価した。加えて、飼料用トウモロコシを日本の民間会社が275万㌧緊急輸入することを合意した。
 安倍政権は「農産物のTPP水準を守った」と主張するが、この水準自身が日本農業に大問題なのだ。牛肉は38・5%の関税を、16年目に9%まで引き下げる。オレンジは16%〜32%(季節で変動)を3年間据え置くが、8年目に撤廃する。
 さらに、日本で認可されていない食品添加物やポストハーベスト農薬などの使用を容認、安全基準が緩和される。食の安全が脅かされることになる。

譲歩を迫る米帝

 日米貿易交渉はこれで終わりではない。トランプ政権が2国間協定にこだわり、政治力と軍事力を背景に米国の貿易ルールを押し付けてくる。そのポイントは、非関税障壁の撤廃と為替条項である。今回の交渉ではこの二つが議題にならなかった。今後の交渉課題になっていく。
 非関税障壁とは、農産物・食品などの安全基準や工業製品の安全基準・部品調達率など、「自分たちの基準」以外は非科学的と主張し、すべて撤廃や規制緩和を求める。為替条項はもっとやっかいだ。この間のNAFTA改定や米韓FTA改定で為替条項を新たに盛り込んでおり、日米交渉でも昨年からすでに要求していた。貿易では通貨高になれば、輸出産業にとって実質的に関税引き上げと同じ効果を生む。日本政府は円安を必死に誘導し、自動車などの輸出産業を保護してきた。
 製造業の競争力を失くしたアメリカ帝国主義は、こうした貿易戦争で他帝国主義を叩きつぶそうとしている。景気減速と再び恐慌がささやかれ始めた今日、貿易対立・通商対立はますます激化していく。労働者国際連帯の力で、対立と戦争へ突き進む日米帝国主義を打ち倒そう。
(全国農民会議 山口敏昭)
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