「検査抑制」の責任に沈黙 コロナ専門家会議が新提言

週刊『三里塚』02頁(1041号02面03)(2020/06/08)


「検査抑制」の責任に沈黙
 コロナ専門家会議が新提言

(写真 西浦モデルの西浦博教授【中央】)

(写真 専門家への疑問を表す週刊誌)


 新型コロナウイルス対策を検討する政府の専門家会議は、5月29日、新たな「状況分析・提言」を発表した。「日本の対策は欧米の先進諸国と比較して一定の成果があった」「クラスター対策は効果的だった」などと自画自賛しつつ、つごうの悪いことには口を閉ざし、自分たちの以前の提言の検証もしていない。しかも、会議の議事録は残していないという!
 この無責任さは何を意味しているのだろうか。

クラスター追跡と42万人死亡説

 東京などに緊急事態宣言が出された直後の4月11日に放映された、NHKスペシャル「新型コロナウイルス/瀬戸際の攻防」は、社会的反響をもたらした。
 押谷仁・東北大学大学院教授を筆頭とする厚労省の「クラスター対策班」が国内感染の拡大を阻止する矢面に立ち、日本独自の手法として「クラスターつぶし」と感染経路の解明に不眠不休で奮闘するというドキュメントである。押谷氏は「日本ではPCR検査体制が直ちに整ってはいないから」とあっさりと述べ、「三つの密をさける」「クラスターを集中的に効率よくつぶす」という戦略を解説した。このやり方は、NHKによる手の込んだCG映像も手伝って、卓越した「名人芸」のような好印象を多くの人に与えた。
 また番組内では、西浦博・北海道大学大学院医学研究院教授による、数式を使った疫学予測モデルも紹介された。一人の感染者が新たな感染者を生み出す「再生産数」を1以下にすることで感染は収束するから、そのために「人と人の接触を8割減らせ」との結論を導いた。この「接触8割減」スローガンは小池都知事によって、脅迫的に繰り返し利用された。
 西浦氏は4月15日には記者会見で、「接触を減らす対策をまったくしないと国内で重篤患者85万人、死亡者42万人」との試算を示して人々に恐怖を与えた。
 こうした専門家たちの方針に基づき、PCR検査は「37・5度以上の発熱が4日間以上続くこと」などの高いハードルが設けられ、徹底的に抑制されたのだ。

ワクチン利権に集う「ムラ社会」

 発熱などの症状に苦しむ人々が検査を求めても「基準に達していない」ことを理由に繰り返し拒絶され放置されて「検査難民」と化し、重症化し死亡に至る人も相次いだ。保健所職員などは、クラスター感染者の追跡調査に忙殺され、目の前の患者の訴えに対応できなくなっていった。結局、「クラスター対策」は市中感染の広がりの中で追いきれず、破産したと言って過言ではない。
 この問題について「提言」は、「4月上旬、必要な検査が迅速に行えなかった」の一言で済ませている。「37・5度以上が4日間という目安は国民の誤解」と言い放った加藤勝信厚労相の暴言にも一切言及なし。
 西浦モデルの自己検証もされていない。人々の行動を抑止するため誇大な数字を挙げるなど、感染防止が狙いだとしても専門家として許されることではない。単に結果の当否ではなく、42万人死亡説の総括の義務が西浦氏にはある。
 また「提言」は、全国の新規感染のピークを緊急事態宣言に先立つ4月1日と推定しており、宣言発出時には流行が収まり始めていたと認めている。ならば「宣言は本当に必要だったのか」が問題になって当然だが、これも言及なし。
 昨年10月28日、政府の経済財政諮問会議は「各都道府県の地域医療構想」の名で、「全国病院の計13万床削減」方針を打ち出した。これこそ医療破壊だ。
 政府はその一方、感染症対策について、ワクチン開発・承認・製造の巨大な利権にあずかる厚労省や国立感染症研究所の「専門家」たち(パンデミックムラとも呼ばれる)に丸投げしていた、というのが実情だ。
 この腐った構造を暴き出すことは、健康と命を守る闘いの重要な一環である。
(中石浩輔)

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