書評 『リニア中央新幹線をめぐって』 山本義隆著 みすず書房 1800円 国策の大暴走に根底から一撃

週刊『三里塚』02頁(1067号02面04)(2021/07/12)


書評
 『リニア中央新幹線をめぐって』
 山本義隆著 みすず書房 1800円
 国策の大暴走に根底から一撃

(写真 北品川非常口に搬入される巨大なシールドマシン。左は東海道新幹線)

 このコロナ状況のもとで、「東京―名古屋間を40分で結ぶ」JR東海のリニア中央新幹線の工事が各地で猛烈な勢いで進められている。東京で言えば、JR品川駅の南に「北品川非常口」と称する直径36㍍、深さ90㍍の巨大な穴が開けられ、そこに直径14㍍の高性能シールドマシンが搬入され、大深度地下にトンネルを掘り進めている。
 同様の「非常口」が沿線各地に約5㌔おきに掘られ、地表の人々の暮らしを脅かして掘削が進められ、地下水脈を切断し、大量の残土を掻き出している。
 大井川の水枯れ懸念で静岡県がリニアに強硬に反対していることはよく知られているが、それだけでなく多くの沿線住民が切実な反対の声を上げいる。それらをことごとく踏みにじって、自然環境・住環境を破壊しながら建設が強行されている。これはJR東海の絶対的権力者・葛西敬之と安倍前政権の結託によって進められ、菅政権に引き継がれた「国策」に他ならない。
 本書は優れた誠実な物理学者であり科学史家である著者による、リニア新幹線への全面的で根底的な批判である。
 周知のようにリニア新幹線は、通常のモーターの回転運動を直進運動に置き換え、超電導(液体ヘリウムを用いて絶対0度近い極低温で電気抵抗をゼロにする)によって、時速500㌔の超高速を実現するものと説明されている。しかしそんな過重で複雑なシステムを全車両に搭載した「最先端科学の結晶」が、莫大なエネルギーを浪費し、大事故の危険を呼び寄せ、実は技術としても破綻しており、人間の生存基盤を破壊する凶器として現れることを著者はていねいに解き明かす。
 そして、日本社会が3・11福島原発事故を経験し、現にコロナ危機のもとでこれまでのあり方に深刻な反省が迫られているにもかかわらず、相変わらず「リニアで新たな巨大首都圏が生まれる」と吹聴する推進派の成長神話の虚妄にも徹底的にメスを入れる。
 とはいえ、著者の語り口はあくまで平易で説得的である。
 「コロナ危機はこれまで散発的に語られてきたリニアの諸問題を仮想の問題としてではなく現実の問題として否応なくあぶりだしたのです」(130㌻)
 本書は「持続不可能」な暴走を続ける最末期資本主義の科学文明の本質を暴き、これとの決別を促す痛烈な警告の書である。その内容はリニアだけでなく、成田空港機能強化=第3滑走路建設に血道を上げるNAAに対しても巨大な一撃となる。
 理不尽な国策と対決する論理を一層充実させるために、必読の一冊だ。
(田宮龍一)
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