大地の響き 投稿コーナー

週刊『三里塚』02頁(1071号02面07)(2021/09/13)


大地の響き 投稿コーナー



(写真 この映像はプロパガンダだ 〈上〉への字誘導路 〈下〉芝山町役場に向けデモ【DVDより】)

さらに観せる工夫を
 関西・会社経営 太田垣俊映

 私は、成田空港を利用したことがない。故に、誘導路があのように曲がりくねったものであるとは、全く知らなかった。その原因が、農地を守る一農民およびその支援者たちの闘争の結果だとは、これを観るまで知ることがなかった。
 このDVDは、2020年末の東京高裁による「請求異議控訴審判決」から21年の反対同盟の年初の活動方針表明までを記録したものである。
 最初観たとき、私は作品の内容を全く理解できなかった。映し出されていることが、私にとって余りにも唐突感のある出来事であったし、「え、成田空港反対運動ってまだ続いていたのか」が、恥ずかしながら偽らざる私の思いであった。
 20年末の控訴審判決に臨む日比谷公園の集会場面から始まり、それが不当判決という結果を踏まえて、市東さんおよびその支援者たちの活動が映し出されていく。
 緩やかに流れていく農作業は都会を離れた地方のように見えるが、その後ろをジェット機の巨体がそろりと動く様は見たことのない風景である。天神峰や東峰を迂回して飛行機が滑走路を動く様子をコックピットの中から撮った映像には、正直驚いた。空港の略図と重ね合わせて、飛行機が駐機場へ向かう様子はハイライトの一つだ。
 そこからテレビのニュース映像を重ねて、三里塚闘争の55年に渉る歴史を垣間見せる。上手く編集されていて、当時の運動の激しさが伝わってくる。続けて、当時農地の持ち主であった市東東市さんの略歴が挿入されて、やがて東市さんの葬儀の場で市東孝雄さんの闘争引継ぎ宣言が映される。そこから、孝雄さんが表だった反対闘争が始まり、第3滑走路との闘争があることを理解できる。それは同時に自分の親たちが苦労を重ねて開拓した農地を守り、自分の生活を守るための闘いとして映し出される。それに続いて反対闘争を続けてきた人々の21年に向けての様々な表明が映されてこの作品は終わる。
 私は、このDVDを高校時代からの友人であるY君から送られ、ドキュメントとしての評価をしてほしいと依頼された。私は映画が好きでよく観ていることは間違いないが、見も知らぬ人が手弁当で創った作品を評論すような立場にはない。
 でも以下に感想を述べて、Y君への責任を果たしたいと思う。
 このDVDを観てまず思ったことは、これはプロパガンダ映画だということだ。三里塚闘争の歴史や、そこに住む人たちがどのように闘い、現在どのように生活しているのかを理解してもらい、集会に参加するための事前知識とその意義理解を促す作品である。つまり「ドキュメンタリー映画」と呼ぶのは少し違うのではないか。当然、市東さんや反対闘争に共感するとしてもそう思う。
 過去に仲間だった人物が今では町長になり、集会場所を借りられないようにしたので、その町長のいる町役場までデモ行進するシーンがラストにあるが、本当はこの人物にもインタビューできていれば作品としてはもっと面白くなり、作品は厚みを増したのではないか。当然相手にしないだろうが、それでもそれを映すことで「ドキュメンタリー映画」として、成立したのではないか。多くの観客に観てもらおうとするならば、見せる工夫は必要である。その工夫こそ「ドキュメンタリー映画作家」の最も気を遣うことだろう。
 06年から21年まで集会場やテレビ番組などで語られる市東さんの言葉は主に決意表明として記録され、日常生活における喜怒哀楽はほとんど映されない。それは闘う農民として力強くはあるが、些細な日常を交えることで、この異常な環境の中で生活することの大変さもうかがい知ることができ、観る方の共感も違う形で得られるのではないかと思う。
 コロナ騒動の中、政治不信はつとに増している。本当に国民が動かせる政治ができればと夢見るが、こうした映画上映がそのきっかけになる日が来ることを願う。

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