明日も耕す 農業問題の今 「ネオニコ系農薬」の正体 生態系破壊の強毒殺虫剤

週刊『三里塚』02頁(1093号02面04)(2022/08/08)


明日も耕す 農業問題の今
 「ネオニコ系農薬」の正体
 生態系破壊の強毒殺虫剤


 7月1日、「みどりの食料システム法」が施行された。具体的な施策も出始めたが、お題目のように掲げる「生物多様性の保全」は具体策も乏しい。だが今、生物多様性を破壊する農薬をめぐり農業は岐路にある。

 昨年11月、TBSの報道特集で「ネオニコ系農薬/人への影響は」という番組が放送された。
 ネオニコチノイド系農薬(ネオニコ)が注目されたのは10年ほど前。ミツバチの失踪や大量死の原因として注目された。実はそれにとどまらず、人への影響もあるという内容だ。
 人への影響については次号にまわすことにして、番組冒頭で紹介された鳥取県宍道湖の話にまず注目したい。
 宍道湖では周辺の水田でネオニコの使用が始まった1993年以降、ワカサギとウナギが激減してほとんど漁獲できない状態になった。
 ネオニコは魚には影響を与えないとされてきたが、東京大学の山室真澄教授は、93年から動物性プランクトンが大きく減ったことを突き止めた。プランクトンだけでなく、ネオニコが水の中に住むエビ・カニなどの節足動物にも影響し、節足動物を餌とする魚を減らしてしまったのだ(山室真澄著『魚はなぜ減った? 見えない真犯人を追う』)。

生物多様性損う

 ネオニコは有機リンに代わる新しい農薬として90年代に登場した。ニコチンに似た殺虫剤で、虫の神経伝達を阻害する作用がある。
 「昆虫以外の動物には影響しにくく、水溶性で植物に浸透し、効果が持続する」ことが長所とされ、主要な殺虫剤として世界中で使われている。日本では7つの化学物質がネオニコ系殺虫剤として登録されている。
 だが、当然にもターゲットの虫だけが殺されるわけではない。植物の受粉に不可欠だったり鳥やカエルなど餌になるなどのさまざまな虫が殺され生態系が破壊される。
 水田にネオニコがまかれれば、水溶性のネオニコは川や湖に流れ、そこでも生物多様性は大きく損なわれる。宍道湖の話はほんの一例だ。

新農薬開発へ?

 みどりの食料システム戦略(みどり戦略)では2040年までに「ネオニコチノイド系を含む従来の農薬を使用しなくてすむような」新規殺虫剤を開発し、50年までに化学農薬の使用量を50%削減すると掲げている。
 そして取り沙汰されるのがRNA農薬やゲノム編集だ。ネオニコ登場の時のように「安全だ」「人体への影響はない」と言って……。
 「害虫被害には農薬」は、それで儲ける企業の論理だ。いらないものだけを排除したつもりでも、決して影響はそこにとどまらない。生態系に棲む多くの生きものと共生する農業でなければ生物多様性など守れない。
 慣行農業の中に広がるネオニコを無くすことは簡単ではない。だが、気候変動と同様、地球規模の待ったなしの問題だ。
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