市東さんの農地は奪えない 耕作権裁判証人尋問 賃借権の時効取得成立を立証

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週刊『三里塚』02頁(1126号01面01)(2023/12/25)


市東さんの農地は奪えない
 耕作権裁判証人尋問
 賃借権の時効取得成立を立証

(写真 反対同盟を先頭に千葉地裁に迫るデモ行進【12月18日】)

(写真  南台農地の関係土地図)

(写真 裁判報告集会で闘う決意を語る市東孝雄さん)

(写真 南台農地の関係と地図)

 派閥「裏金」問題に明らかなように腐敗しきった自民党・岸田政権は、支持率が2割を切り全身火だるまだ。岸田は「信頼回復に火の玉となって取り組む」と言いつつ、実際は対中国侵略戦争のための準備を進めている。軍拡大増税を軸に生活破壊、社会保障解体を推し進め、あらゆる社会的紐帯(ちゅうたい)を断ち切ろうとする岸田政権への内乱的決起を巻き起こし、今こそ打倒しよう。イスラエルによる農地強奪と不屈に闘うパレスチナ人民との連帯を貫き、農地死守・実力闘争で日本帝国主義の戦争政策・軍事空港建設を阻止し続ける「反戦の砦(とりで)」=三里塚に勝利しよう。三里塚芝山連合空港反対同盟・市東孝雄さんの南台農地をめぐる耕作権裁判が12月18日、千葉地裁民事第2部(齊藤顕裁判長)で開かれた。吉田邦彦北海道大学大学院法学研究科教授による市東さんの賃借権の時効取得の立証が行われた。
 開廷に先立ち反対同盟が呼びかける決起集会が千葉市中央公園で開かれ、司会を太郎良陽一さんが務めた。
 最初に東峰の萩原富夫さんが発言に立ち、元公団職員の法理哲二証人の出廷拒否を成田空港会社(NAA)の差し金と弾劾した。さらにNAAが第3滑走路建設の準備工事に着手したことを、農業破壊、環境破壊として強い怒りを表し、この裁判に必ず勝利する決意を鮮明にした。
 動労千葉の中村仁副委員長などの連帯発言を受け、太郎良さんのリードで力強くシュプレヒコールを上げ、市内デモに出発。農地強奪と軍事空港建設への怒りを表し、千葉地裁に迫った。

堂々3時間証言

 この日は人証調べの2回目。開廷早々、北海道大学の吉田邦彦教授が証言台に立った。反対同盟顧問弁護団の主尋問に答えて民法学の見地から、市東さんの南台農地について賃借権の時効取得の成立を明らかにした。
 吉田さんは2022年1月の新やぐら裁判控訴審でも証言し、土地収用法の代わりに農地法を用いて農地を取り上げる手法は許されないと強調したが、それを無視して今年2・15強制執行に及んだことを「農民つぶし」として憤りを表した。
 その上で、不動産の賃借権に関する時効取得の判例を列挙し、父・東市さんから受け継いだ市東さんの農業を「長年の生業としての農業に生きがいを見出し、人格陶冶(とうや)の表裏の問題として、先住者の権利を守ろうとしている」と表した。そして、諫早湾生態系破壊の問題をも例示しながら、補償を金銭換算して事足れりとする昨今の最高裁などに顕著な思想を「国際的に見ても時代錯誤」と指摘し、農地は金銭に替えることのことのできない「人格的財産」(結婚指輪だって20年つけていれば人格が蓄積・反映される)だと強調した。時効にかんする学説を専門的に掘り下げた上で、「市東さんの長年の耕作を前提とする農地賃借権の取得時効の主張は、『誠実な紳士』(時効制度の趣旨を整理する概念。時効で保護されるべき対象は、悪意あるつけの踏み倒しなどは除くべきとするもの)の主張であり、積極的に支持されるべき」と位置づけ、「不法耕作」なる決めつけを打ち砕いた。
 そしてNAAが南台のA、C、D土地の明け渡しを求めるのに対し、
 A(元々の市東家の賃借地、石橋と一時交換した上88年以降耕作)
 C(71年に石橋家との間でAと交換し、石橋移転後も耕作)
 D(東市さんは旧地主・藤﨑の所有地と思い71年から耕作し続けたが、鈴木家の所有だった)
 という個別の事情を検討し、市東家は誠実に藤﨑に賃料を支払い、何ら問題が生じていなかったことを明らかにし、すべてにおいて賃借権の時効取得が成立していると明らかにした。特に藤﨑が88年に底地を市東家に無断・秘密裏に空港公団に売却した上、15年もたって登記されたこと、その間市東さんが農業を続けてきたことから、時効の成立は揺るがない。
 最後に吉田さんは、NAAの明け渡し要求は「法の支配」に反すると断じ、農民強制立ち退き訴訟に対抗して「賃借権時効取得」を主張する正当性を強調した。
 原告NAA代理人の上野至、森本哲也は反対尋問で、吉田証人に批判されたばかりの「金銭換算」を持ち出してケチをつけようとしたが一蹴され、市東さんからも「農家のことが何もわかっていない」と弾劾された。
 裁判長をも圧倒する3時間に及ぶ充実した証言を終えた吉田さんに、傍聴席から熱い拍手。
 次回期日は1月22日と確認し閉廷した。

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農地は金銭換算できない社会正義的な価値の復権を
 吉田邦彦教授の証言より

(写真 南台農地で市東孝雄さんと吉田邦彦さん)

 判例は(Ⅰ)土地の継続的用益という外形的事実、(Ⅱ)賃借の意思に基づくことが客観的に表現されていることを要件とし、賃借権の時効取得を認めている。
 現地を訪れると、市東さんは、有機農法に生きがいを見いだし、多様な野菜類を丹精込めて育てている。すべてを「金銭問題」に還元する成田空港側に対して、高額の「離作料」よりも、「長年の生業としての農業に生きがいを見いだし」、人格陶冶の表裏の問題として、先住者の権利を守ろうとしている。これを便宜主義的な無限の空港拡大論で対処するのではなく、慎重な利益考量が求められる。特にわが国では、すべて金目の問題として市場主義的に見る見解が強いので、この点には留意すべきである。
 賃借権限(小作権限)に基づく市東さんの長年の耕作を前提とする農地賃借権の取得時効の主張は、「誠実な紳士」の主張であり、何ら責められるべきではなく、積極的に支持されるべきものである。
 市東さんの主張の大前提は、市東家は先々代の戦前の1921年頃から南台41番のA・B土地を地主藤﨑氏より賃借しているという事実である。
 すなわち、A土地については、そもそも契約上の賃借権が存在しているというのが第一義的な考えであるが、予備的には10年の賃借権の時効取得が98年4月末に成立している。またC土地とD土地については、いずれも20年の賃借権の時効取得が92年12月末に成立している。故に、市東さんとしては、地主の藤﨑氏より農地賃貸借をしたものと考えており、しかも農地賃貸借の時効取得において重要なのは、平穏公然に過去50年もの間、南台のこの地で耕作を継続してきたことであり、対象地に仮にずれがあっても、先例によると、それは治癒されて賃借権(小作権)の取得時効ができることになろう。
 本件市東さんの賃借権の安定度は、各土地によりグラデーションはあるものの、いずれにおいても、認めることができ、その客観的表現としての長期的・一体的耕作の継続により、肯定できると考えられる。
 ブラジルでは司法が取得時効を積極的に運用し、小規模農家に農地が解放されている。
 無限拡大を図る成田空港により、先住農民が「あってはならない農地法の適用」により、蹴散らされるように、立ち退き請求の憂き目に遭っている。本来の姿の紳士保護に適合的な市東さんの取得時効の主張に前向きに動くことにより、民法の社会正義的な価値の復権を図る意義に今こそ気づくべきであろう。

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