COMMUNE 2001/10/01(No310 p48)

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 ●特集/激動するパレスチナ情勢


(銃で武装した戦士とともにデモ行進するパレスチナ人民)


 第3章 アメリカ帝国主義の新たな中東侵略戦争政策

 中東侵略狙う新軍事戦略

 ブッシュ政権は発足当時、中東「和平」策動からの撤退を思わせる発言を行い、実際にも5月段階に至るまで中東「和平」交渉の仲介を事実上停止する措置を取った。
 また軍事戦略に関しても、従来の南西アジア(中東)と北東アジアの2地域を米帝の死活的な国益がかかった地域として特定し、この2つの地域でほぼ同時に起こる大規模戦域戦争への対応を目的とする戦略からの転換を宣言した。米帝は明らかに対中国=対日帝政策を軸にした世界軍事戦略を打ち出し、アジア、とりわけ中国での大規模戦争を戦い、圧勝する態勢を確立しようとしている。
 だが、これらの事実は、米帝が中東を死活的な国益のかかった地域から外し、再び91年のイラク・中東侵略戦争のような戦争を中東地域で行うことを放棄したということを意味するであろうか。答はノーである。米帝にとって依然として中東は石油という死活的な国益のかかった地域であり、戦争的手段に訴えても支配を維持することを決意している地域である。
 実際、米帝の石油輸入依存率は近年高まっており、96年には52%に達している。増大する石油輸入量を確保するために米帝は最近カスピ海地域の石油開発に全力を投じているが、この地域が内陸にあるため、輸送問題という点で壁につきあたっている。
 したがって当面は世界の石油埋蔵量の65%が集中するペルシャ湾地域からの輸入を確保することは米帝にとって死活的国益のかかったものなのである。
 5月から7月にかけて発表された米帝の新軍事戦略は、これまでの2つのほぼ同時の大規模な地域的な戦域戦争という戦略が、対ソ連戦争の重圧を軽減されたいわゆる「冷戦後」の世界において米軍の存在意義を再確認し、予算を確保し戦力を維持するために打ち出された「過渡的」な戦略であり、今日的には大きな限界があることをまず確認している。
 すなわち、それは基本的に現有装備の量的拡充で足りる現在の戦争への対応(侵略戦争)と戦力の質的な圧倒的高度化が必要な将来の世界的な大戦争の準備とが並列的に位置づけられており、戦力の強化のための投資や、将来のリスクに対処するための投資が十分でなく、長期的脅威への準備が犠牲にされているとして批判されている。
 新戦略の「今後数十年間に米国が直面する新たな、異なった脅威への準備を今から始めねばならない」という認識(6月21日のラムズフェルド国防長官証言)は、米帝が、近い将来想定される対中国戦争や対日帝戦争などに備えた投資に圧倒的に重点を置く決断を行ったところから出てきている。
 したがって新戦略の重点は、@米国の防衛という課題を前面に押し出してミサイル防衛構想を全面的に実現することによって戦略的な抑止力を圧倒的に強化すること
Aまず1つの大規模戦争で圧勝することを目的として大軍拡を行い、指揮・統制・通信・情報能力、精密攻撃能力、急速展開能力、研究開発能力、インフラと兵站能力などの全分野において米軍戦力を一新すること
B「そしてまた限られた数の小規模有事を処理する能力を持ちつつ世界のどこにおいても米国の死活的利益を脅かす敵に決定的に勝利する能力を確保すること」(同右)にある。
 @、Aに関しては当面、対中国戦争を貫徹しうる能力の形成という観点から立案、実施する。Bに関しては欧州、中東、アジア諸国が対象として考えられている。従来の「2つのほぼ同時の大規模な戦域戦争」のひとつをなす南西アジアでの戦域戦争も、こうした米軍戦力の圧倒的強化態勢のもとで戦うということであって、この地域での大規模戦域戦争の可能性そのものを否定したわけではない。 
 そもそもブッシュ政権は独占資本と多国籍企業の利益を守るための政権であり、とりわけ石油産業と軍需産業との結びつきが強い。
 副大統領のチェイニーは湾岸戦争時の国防長官で、2000年まで在籍していたテキサスの石油関連企業ハリバートンから60億円の退職金を受け取ってから政権入りしている。チェイニー副大統領、エバンズ商務長官はかつて石油業界にいた経歴の持ち主だ。電力・エネルギー業界はブッシュ政権の重要な支持基盤で選挙資金の大口提供者である。
 これに加えて国務長官のパウエルは「湾岸戦争」時に統合参謀本部議長であり、チェイニーは国防長官であった。中東問題担当専門家のロバート・サトロフは親イスラエルのシンクタンク「ワシントン近東政策研究所」の所長を務めていた。
 以上の点から見ても、ブッシュ政権が石油政策と中東政策を重視した政権であることはあきらかだ。石油の確保という死活的国益のためにはブッシュ政権は戦争に訴えることさえも躊躇しないであろう。

 ブッシュの新中東政策

 ブッシュ政権の中東政策は、クリントン政権時代における米帝の中東政策の軸であったパレスチナ・中東「和平」策動とイラク・イラン二重封じ込め政策の破産をどのように突破していくかという観点から立てられている。
 前者については、第1章、第2章で見たように、93年以来の中東「和平」交渉の仲介をいったん中断し、イスラエルにフリーハンドを与え、闘うパレスチナ人民を徹底的にせん滅するというものであった。それは徹底した戦争政策によってパレスチナ解放運動を解体し、そのうえでイスラエルに圧倒的に有利な新たな「和平」策動の枠組みをつくるというものであった。
 ブッシュはこうしたむき出しの戦争政策以外に、中東「和平」策動の破産を乗り切ることはできないと判断したのである。
 だが、そうした政策は、パレスチナ人民の不屈の闘いと、それに触発されたアラブ諸国人民の闘いの爆発によって反撃されることは必至である。帝国主義の侵略戦争政策とパレスチナ人民を先頭とするアラブ諸国の民族解放の闘いが真正面から激突し、その中に米帝が再び深々と引き込まれていくのは不可避である。
 後者についても、ブッシュは新たな戦争的重圧の強化によって二重封じ込め政策の破産的危機を乗り切ろうとしている。
 クリントン時代の二重封じ込め政策とは、
@イランとイラクを、核兵器やミサイル、生物化学兵器を開発して近隣諸国に対して侵略態勢を整え、米欧帝国主義の石油権益を脅かしかねない「ならず者国家」と規定する
Aそうした両国に対し恒常的に軍事的重圧を加え、石油輸出の禁止もしくは制限、国際貿易の制限などの経済制裁を加える体制を維持する
Bそのために絶対必要だとして、米軍のペルシャ湾岸諸国への駐留体制を確保し、対イラク、対イラン戦争体制を維持する
Cイラン・イラクの「侵略」や「テロ活動」に対抗して湾岸諸国の体制を護持するという口実で米帝の最新鋭兵器を大量に購入させ、武器輸出の米帝による独占体制を強化する
Dこれらを通じて他の帝国主義諸国を排除して米帝による中東の新植民地主義体制諸国の独占的支配を強化するというものであった。
 だが、このような内容を持つ米帝の二重封じ込め政策は、今日完全に破産した。

 イラン・イラクめぐる争闘戦の激化

 まず第1に、米帝が経済制裁を最も厳重に実施している間に、他の帝国主義諸国やロシア、中国などによるイラン・イラクの石油資源と市場の再分割戦が全面的に開始されたことである。
 イランに対しては、西欧諸国との関係改善を否定しないハタミ政権が97年に誕生して以来、フランス・イタリア・イギリスなどの欧州の石油大手と日本の石油大手はイランの石油・ガス開発への大型投資を連発した。(図参照)
 石油資源に関してはとりわけ仏帝と日帝の突出が著しい。フランスの石油企業トタルフィナ・エルフは、今日イランでは最大の投資企業となり、世界第2の天然ガス埋蔵量を有するイランの南パルス・ガス田の開発も行っている。
 日本も昨年11月に推定埋蔵量約300億バーレルでイラン最大の油田であるアザデガン油田開発の優先交渉権を獲得して以降、大手石油開発会社のインドネシア石油(2001年9月から「国際石油開発」、略称「インペックス」と社名変更)やトーメン、石油公団などの官民連合が、英蘭系国際石油資本ロイヤル・ダッチ・シェルと共同で開発する契約交渉を開始し、年末には妥結すると言われている。投資総額は5000億円の巨額にのぼり、うち3分の2を日本が出資する。
 またイランの世界有数規模の南パルス・ガス田開発計画やアフワズ・バンゲスタン油田開発計画(総額41億3000万j)に日本企業が参加を表明したのに対し、イラン側は全面的な支援の提供を約束している。
 前者については7月にインドネシア石油やプラント大手の日揮、石油公団など日本の官民連合は、イラン最大の天然ガス田開発と同ガス田で産出するガスを低公害型のガソリンなどに転換する事業に参加することを決めた。総事業費は30億j以上となっている。
 日本企業とトタルフィナ・エルフはカスピ海の原油や天然ガスを運搬するパイプラインの建設でもロシアや米帝がそれぞれ推進する計画と対抗して、イランを経由してペルシャ湾に抜けるルートを構想している。これは米帝がロシアやイランの影響力を排除するという観点からトルコ経由のパイプラン計画を打ち出していることに真っ向から対立するものだ。
 この他ドイツはイランへの輸出では第1位である。イタリアも2月末にアマート首相がイランを公式訪問し、イラン企業への投資や合弁事業などを通じた「イランとの協力関係のいっそうの発展」を宣言し、6月末には、政府系の石油・ガス企業ENI(炭化水素公社)がイラン政府との間でイラン南西部のダルホビン油田開発契約を結んだ。投資総額は10億jになるといわれている。
 3月にはスエーデンの企業も、カスピ海沿岸5カ国間での領有権問題の決着をまたずに本格的なカスピ海油田開発を開始したイランとの間で2億2600万jの油田探査契約を結んでいる。
 中国も昨年6月に天然ガス・石油開発の協力協定を結び、天然ガス輸入計画とイランでの石油開発計画を推進している。
 これら契約はいずれもイランへの大規模投資を制裁対象とした米国の意に反して行われているのであり、対イラン経済制裁の空洞化を示すものだ。米政府はイラン・リビア制裁法の5年間延長をこの8月に決定したが、欧日企業がこれまでに決めた両国への投資には目をつぶらざるを得なくなっており、米帝自身も制裁措置の空洞化を自認している有様だ。
 イラクに関しても同様の事態が進行している。日・欧の石油企業は石油輸出の全面解禁が近いと判断してイラク政府との交渉を進めている。現在、イラクはロシア、フランス、中国とは石油開発の面でも様々なかたちで交渉を開始している。
 ロシア、フランスなどは民間航空機のバグダッド乗り入れにすでに踏み込み、特にロシアは3月には武器輸出強化でイラクと合意している。
 周辺国との定期交通路も再開されつつあり、トルコとも鉄道の運行を19年ぶりに再開することで合意している。
 エジプト、ヨルダン、シリアなどは対イラク制裁解除に向けた機運を醸成しようとしている。トルコ、ヨルダン、シリアなどはイラクの安い石油なしにはやっていけないため、すでにイラクからの石油密輸出を認めてもいる。イラクとこれらの国との国境での検問は事実上ないに等しい。エジプト、シリアの場合はイラクと貿易を開始している。
 またアラブ諸国の間では、長期間にわたる米帝の対イラク経済制裁によって毎月4500人もが栄養失調や病気で死亡し、生活水準も急速に低下していることに対する強い怒りもある。イラクに対する制裁の厳しさに比べ、イスラエルのパレスチナ人民に対する残虐行為に対しては何の制裁もしないという米帝の「ダブルスタンダード」(二重基準)に対する不信の念も強い。湾岸諸国に米軍が恒常的に駐留していることに対する怒りも強い。
 したがってアラブ諸国は米帝のイラク制裁に対して強い支持の態度をとれないのである。このようにイラクに対する制裁もその効果はうすく、実質的に空洞化している。

 イラクへの軍事的重圧の強化

 二重封じ込め政策の破産を前にして、今日、米帝ブッシュ政権はその手直しを2つの方向で行おうとしている。1つはイラクへの軍事的重圧の強化であり、もう1つは、対イラン制裁政策の見直しである。
 イラクに対しては、ブッシュが大統領に就任した直後の2月16日にイラクの飛行禁止空域外にある首都近郊の軍施設に対して空爆を行ったことに象徴されるように、あくまで軍事的重圧を強める方針だ。
 米帝はイラク上空の恒常的監視飛行や空爆、イラクの反フセイン勢力にたいする軍事援助の強化などを通じて、イラクへの制裁解除を追求している諸帝国主義やアラブ諸国を牽制し、制裁解除の動きに制動をかけているのである。
 また制裁については、民生品の輸入に関する規制を緩和する一方で、軍用品と軍事転用可能な製品を厳密に規定して制裁を長期間継続する新制裁案を国連安保理事会決議として打ち出そうとした。これはアラブ諸国のイラク制裁継続への反発の強まりに対して民生品の規制をゆるめることによって対応するとともに、軍用品に対する規制をこれまで以上に強化しようとするものであった。
 だがこの制裁の強化と長期化策動は、7月の国連安保理でのロシアやフランスの反対にあって挫折した。結局、7月3日の安保理では現在の制裁を5カ月間延長するにとどめるという決議が採択された。
 イラク制裁強化策をめぐる国連安保理での敗北は、米帝の新たな対イラク政策が他の帝国主義やロシアの反対によって阻止されたことを意味する。したがって米帝は、イラクに対する軍事的圧力の強化と戦争政策のエスカレーションによってイラクを追いつめるとともに、他の帝国主義の独自の対イラク政策の展開に歯止めをかけようとしているのである。
 米帝は、超高々度を飛ぶ無人のスパイ機が撃墜されそうになった7月24日の事件を契機に「イラクが防空網を急速に拡充している」というキャンペーンを強化し、8月10日、米英機50機による今年2月以来最大のイラク空爆を行い、新たな侵略戦争策動を強めている。ブッシュは米帝の圧倒的軍事力のデモンストレーションによってイラクを屈服させ、他の帝国主義の争闘戦的進出を阻止し、イラクの石油権益を独占するための戦争態勢構築にむけて再び動きはじめているのである。

 米帝のイラン制裁政策見直し

 イランに対しては、米帝は軍事的圧力と制裁態勢を維持してハタミ政権を屈服させようとするとともに、他方でこの数年明らかに制裁解除の方向を追求してきた。原油で世界第5位、天然ガスで世界第2位の埋蔵量をもつイランで老朽化した油田にかわって新たに発見された油田開発をめぐる争闘戦から排除されることは米帝の中東石油支配の根幹を揺るがす事態だからだ。
 こうした中でブッシュ政権はイラン石油をめぐる帝国主義間争闘戦勝利の観点から対イラン制裁解除の機会を狙いつつ、当面、米石油企業の先行的進出活動を許容する姿勢を見せ始めている。そうした観点から米帝は、日本の石油大手が主導することに決まったイラン南西部のアザデガン油田の開発に、米石油大手2社(コノコとエクソン・モービル)を数年後に参加させる策動を行っている。
 イラン側も最近になってイラン石油省のアルダビリ次官が日本に優先的交渉権を与えたのは米企業の参加を配慮したものであることを示唆する発言を行っている。イランが石油開発の面で、圧倒的に優れた技術と資本力をもつ米メジャーの開発計画への参加を密かに期待していることを見越して、米帝は当面、日帝のイランでの石油開発計画に目立たない形で参加することによってイランでの石油分割戦に参加する方向性を打ち出したのだ。
 他方、米帝は民間企業の対イラン投資を2000万j以下に制限したイラン・リビア制裁強化法(96年8月成立)の8月1日期限切れを前にして、ハタミ大統領が保守派の抵抗を排して米帝資本の導入を行うことを促すために、制裁期限の延長を2年にとどめる意向であったが、イラン保守派の強い抵抗と米議会内のイスラエル・ロビーなどの強い反対により、結局5年間延長せざるを得なくなった。
 米国内の石油企業、輸出産業と軍拡のために緊張激化を望む軍事産業やイスラエル・ロビーなどの複雑な利権の絡み合いのなかで当面、イラン制裁をこれまで通り5年間継続することになったが、制裁解除を追求する動きは今後ますます激しくなるであろう。

 イラン・中国関係の強化

 米帝がイラン制裁解除を急ぐもう一つの理由は、イランが中国、ロシアと急接近しているという点である。帝国主義による封じ込め政策の展開のなかで、今日イランは石油の輸出と武器の獲得を中国、ロシアに依存するようになっている。
 イランは89年以降97年までに、中国から20機のF−7戦闘機を購入したといわれる。また89年に中国から購入した200基のCSS−8ミサイルは地対空から地対地に改良され、湾岸諸国はその射程内に入った。さらにイランは中国から技術移転と部品供与を受け、スカッドCミサイル、中国製のM−9、M−11ミサイルの製造を行ってもいる。
 96年8月には、イラン国防相が中国を訪問し、軍事協力について協議を行い、軍艦、ミサイル、戦闘機など合計45億jにのぼる兵器購入契約に調印している。
 とりわけイランは米帝が最も懸念しているペルシャ湾での海軍力増強で中国の協力を確約させた。その後イラン海軍は中国からシルクワーム・ミサイルや機雷、対艦ミサイルを購入している。
 核開発をめぐるイランと中国の協力体制も進んでいる。たとえば、イランはイラク国境に近い西部の都市アフワーズの郊外に中国の技術協力で原発を建設中である。
 経済面でも中国との関係を緊密化し、合金鉄生産工場、鉱物圧縮工場建設などで中国が協力をしている。両国間の貿易取引も95年度には5億400万jであったものが96年には倍増している。
 96年5月、イラン東部のマシュハドとトルクメニスタンのテジェンを結ぶ鉄道が開通し、イランを経由して北京からイスタンブールまでが一本の鉄道で結ばれたことによって、両国間の経済・軍事関係はますます強化された。
 イランは中国からの武器輸入の代金を石油で支払っている。93年に石油輸入国化して以来、中東からの石油輸入量が飛躍的に増大している中国にとってはイランは重要な石油供給国であるばかりでなく、武器輸出市場としての位置も大きい。
 また新疆ウイグル自治区などの国内イスラム教徒のトルコによるパン・トルコ主義への吸引に対抗するためにもイランとの関係強化が必要とされている。この点ではイランの全人口の3分の1を占めるのアゼルバイジャン人へのトルコの影響拡大を恐れるイランとも利害が一致する。
 これは米帝がソ連邦崩壊にともなう中央アジア諸国の独立に際し、トルコの吸引力を軸にこれら諸国の取り込みを構想していることに対する共通の反撃という側面をも持つ。中央アジア諸国の新たな勢力圏化をめぐる米帝、西欧帝、ロシア、中国間の対立の激化の中で、中国はイランの中央アジア・イスラム諸国への影響力を利用しようとしているのである。

 イラン・ロシア関係の強化

 イランはロシアとの関係も強化している。昨年末にセルゲーエフ国防相がイランを訪問した際には、米国の武器供給削減圧力を無視して通常兵器などの輸出再開の方針が打ち出された。
 この結果、95年の米ロによる対イラン禁輸合意で凍結されていた戦車や戦闘機の取引を再開する合意が成立し、今後5年間にイランの年間国防予算に相当する総額20億j規模の契約が結ばれることになった。これによってロシアはイランに対する第1の武器供給国になり、イランはロシアにとってインド、中国に次ぐ武器供給先になった。
 ペルシャ湾に面したブーシェフルに建設中の原発についてもロシアが長期的に協力する方針が打ち出された。
 ロシアはイランとの関係強化を、NATOの東方拡大、とりわけ中央アジアの旧ソ連邦諸国への拡大に対抗する切り札と位置づける外交活動を強化しているのだ。
 他方で武器輸出は今日のロシアでは国家管理の下で統合され、外貨獲得の柱となっており、米帝などが対イラン・イラク制裁で武器輸出が禁止されている間にシェアを拡大しようとしているのである。
 このように米帝のイラン封じ込め政策は、イランの中国・ロシアとの関係強化という対米対抗的協力関係を作り出し、米帝の中東、中央アジア政策の重大な支障となっているのである。この面からも米帝は二重封じ込め政策の破産を認め、イランへの制裁解除をできるだけ早く行いたいと考えているのだ。
 なお、イラン制裁解除問題は、カスピ海地域の石油や天然ガスの運搬ルート問題からも早急に解決しなければならない問題となっている。カスピ海地域の石油は国外に輸出する場合パイプラインを必要とするが、現在あるものはチェチェン共和国を通過するものであり、極めて不安定なものだ。
 またグルジア、アルメニアを通過するパイプライン建設案もあるが、アブハジアやナゴルノ・カラバフなどの民族問題が爆発している地域を通過しなければならない。アフガニスタンを経由するルートも検討されているが、ここもアフガニスタン情勢が不安定であり、当面ここを通るルートの建設に着手する可能性は少ない。
 最も安全なのはイランを経由してペルシャ湾にでるパイプラインであるが、これは米帝がイラン封じ込め政策をとっている以上実現は難しい。そうなれば、カスピ海地域の産油国はロシア経由のパイプラインに期待したり、ロシアへの石油輸出という方向を選択せざるをえなくなる。米帝はカスピ海地域の石油・天然ガスの安定的確保のためにもイランとの関係改善を必要としているのだ。
 だがそのためには、軍事的圧力の強化によって、実質的にイランの支配権を掌握しているイスラム教勢力の抵抗を排除しなければならない。
 このように米帝によるパレスチナ「和平」策動と二重封じ込め政策の破産は、米帝の中東石油支配と中東の新植民地主義的支配体制の危機をもたらしている。この危機の突破のために、米帝は当面、イスラエルの軍事的強硬手段によるパレスチナ解放運動のせん滅によってパレスチナ問題を「解決」し、イラク、イランを軍事的重圧の強化によって屈服させようとしている。
 ブッシュはクリントン時代の中東政策の破産を結局は戦争政策の強化によって乗り切ることを決断したのだ。
 こうした政策は、パレスチナ人民を先頭とするアラブ諸国人民の民族解放闘争の爆発と日欧帝国主義の争闘戦的対応を不可避とするであろう。
 そしてそれはそれで再び米帝の軍事的侵略策動を激化させるのであり、帝国主義の侵略戦争とアラブ諸国の民族解放闘争との戦争的激突不可避の情勢をますます成熟させるであろう。
 すでにパレスチナで始まっている米帝・イスラエルの新たな血みどろの侵略戦争の現実を知り、それに対する激しい怒りをたたきつけねばならない。日本の地においても米帝のパレスチナ・中東侵略戦争に反対し、アラブ人民の民族解放闘争と連帯する闘いをただちに組織しよう。

 

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