COMMUNE 2001/10/01(No310 p48)

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No310号 2001年10月号 (2001年10月1日発行)

定価 315円(本体価格300円+税)

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〈特集〉 激動するパレスチナ情勢

・  はじめに
・1 武装闘争段階に突入したパレスチナ解放闘争
・2 完全に破産した米帝による中東「和平」策動
・3 アメリカ帝国主義の新たな中東侵略戦争政策


●翻訳資料/「日本と弾道ミサイル防衛」 村上和幸 訳
 ・ランド研究所報告書(6月10日)

 ニューズ&レビュー  アメリカ/米帝ブッシュの京都議定書からの離脱 益子 孝史

     8・13-15靖国闘争

三里塚ドキュメント(7月) 内外情勢(7月) 日誌(6月)

特集の「はじめに」へ

羅針盤 靖国問題とは何か

 自民党総裁選以来、繰り返し「8月15日に首相として靖国神社に参拝する」「祖国のために命をささげた人びとに敬意と感謝の誠をささげるのは当然」と言ってきた小泉が、ついに8月13日に「前倒し」の形で靖国公式参拝を強行した。これは、靖国参拝に抗議してきた南北朝鮮、中国を始めアジア人民の声を踏みにじるものであり、断じて許すことができない。アジア侵略戦争の精神的支柱であった靖国、そして戦争犯罪人を祀る靖国に参拝することは、あの侵略戦争を美化し正当化し居直るものである。また、それは日本労働者人民を戦争に駆り立て、死地に追いやった天皇制国家の責任をあいまいにし、「敬意と感謝」と称して合理化するものである。それは「国のために命を捨てよ」と新しい戦争に労働者人民を動員する攻撃なのだ。

 しかし、同時にこの問題が数カ月間、日本の政治の最大問題として、内外の情勢の焦点になったこと、アジアの人民の声と闘いに連帯して闘う日本労働者人民が存在したことで、国論を二分したことは決定的なことであった。靖国問題とは日帝の最弱点である戦争の総括である。それはまさに「国家と革命」の問題そのものである。アジアの人民2000万人以上を虐殺し、日本の労働者人民・兵士計310万人を殺した戦争をもたらした日本帝国主義と天皇制を根本的に総括することは、プロレタリア革命によってしかなしえないのだ。「国のために命をささげる」思想と対極にあるのは、「戦争によってしか生き延びられない国は滅びるべきだ」という革命的祖国敗北主義である。靖国問題はこのことをはっきりさせたのである。

 靖国問題と並行して、帝国主義と労働者人民との重大な対決点となっていた問題が、「新しい歴史教科書をつくる会」の中学校歴史・公民教科書の採択を阻止する闘いである。8月15日が採択期限だったが、全国542の採択区のうち、「つくる会」教科書を採択した地区は皆無だった。これは朝鮮・中国・アジア人民の抗議の高まりと、日本の人民、教育労働者や子どもたちの親の闘いがもぎり取った勝利である。侵略戦争の居直りと皇国史観の教科書を使わせてはならないという当然の要求を覆すことはできなかったのである。だが、一方で東京都と愛媛県の教育委員会が、養護学校などの教科書として「つくる会」教科書を採択するという許せない事態が起こっている。小泉反革命との鋭い対決点がここでも継続している。

 こうした対決は、日帝の体制的危機の深刻化、それを突破するための戦争国家への大改造攻撃との激突として強められている。9・1防災訓練に名を借りた自衛隊の有事出動演習、PKO(国連平和維持活動)五原則見直し、PKF(国連平和維持軍)凍結解除と自衛隊の東ティモール派兵の攻撃、有事立法の本格化の攻撃などが続いている。また、沖縄では中国・朝鮮侵略戦争に向けて名護新基地建設の攻撃が強まっている。そして、それは国家主義、愛国主義、排外主義のイデオロギー攻撃と一体のものである。また、労働組合の解体と労働者の階級的団結破壊の攻撃、リストラ・合理化の攻撃と一体である。この小泉反革命との闘いを、「闘うアジア人民と連帯し日帝のアジア侵略を内乱へ」「米軍基地撤去=沖縄奪還、安保粉砕・日帝打倒」「戦争国家化粉砕、改憲阻止・日帝打倒」の総路線のもとに闘おう。      (た)

 

 

翻訳資料

 日本と弾道ミサイル防衛

 2001年6月10日 ランド研究所

 村上和幸訳 

【解説】

 ブッシュ政権になって、米帝の軍事戦略は一変した。その核心に対日政策の激変がある。
 昨年の共和党選挙綱領、そしてアーミテージ報告(本誌3月号掲載)以来、従来の「二つの大規模戦域戦争への同時対応」という戦力基準から東アジア圧倒的重視・世界大的戦争準備への大転換が始まった。そして日米安保同盟を米英同盟なみにして日帝をそのもとに組みしく路線への転換がはかられている。特に、「改憲」については、この間の諸発言、諸報告の中で、ますますエスカレートしている。争闘戦の枠組み自体を変えようとしている。米帝は、改憲抑制から改憲容認にカジをきった。
 ここに掲載する資料は、ランド研究所国家安全保障部の国際安全保障・防衛政策センターで行われた研究の報告だ。ランド研は、最近までラムズフェルドが理事長をつとめており、共和党主流、軍、軍需産業直系だ。米帝は、この研究に日帝の一部を引き込んだ。外務省所管の国際交流基金に資金を出させ、防衛庁防衛研究所から研究者を派遣させている。
 この報告では、ミサイル防衛構想の真の狙いが中国のミサイルの無力化にあることがあからさまに書かれている。BMDで中国からの致命的反撃をおさえ、都合の良いやり方で中国スターリン主義の体制転覆と中国市場の制圧――侵略戦争を行なおうとしているのだ。
 戦争国家化阻止=改憲粉砕・日帝打倒の闘いに全力決起しよう。闘うアジア人民と連帯し、日帝のアジア侵略を内乱に転化しよう。
 【この報告書は100ページを超える長文なので、報告書原文の冒頭にある「要約」の項を全文翻訳し掲載する。次に、報告書本文の中で「要約」と重複しない重要部分を編集部の判断で掲載する。〔 〕内は訳者による補足】

 ………………………………………

 要約

 アジア太平洋地域の内部からの弾道ミサイルの脅威の増大を感じ、またミサイル防衛システムの構成要素の研究開発を支援するようにとの米国の要請を受け、日本政府は98年末と99年初めに、弾道ミサイル防衛(BMD)について米国との共同研究開発に踏み出した。しかし、今までのところ日本は、限定的参加を決定したにすぎない。つまり、戦域ミサイル防衛(TMD)の諸要素の米国との共同研究と試作品生産にしか取り組んでいない。今日まで日本は本格的なBMDシステムの開発や調達の努力を行っておらず、また日本のBMDシステムがもたらす政治的・戦略的諸結果について十分あるいは体系的な見積もりをしていない。さらに重要なことは、包括的BMDシステムの開発ないし配備に賛成するコンセンサスがまだ出来ていないことだ。要するに、日本と米国は、まだ次の3点を明確化していないのだ。(1)日本にとって、さらに広範な共同研究開発への参加がどの程度不可欠かということ。(2)望ましくまた実現可能なシステム相互運用性の程度。(3)配備の決定がアジアの安全保障環境にもたらすインパクト。

 動機づけと反応

 たしかに98年、北朝鮮がテポドン1型と思われるロケットを発射し、これが日本の踏み出しを促したのだが、もっと可能性が高い脅威は短距離ミサイルであるノドンの脅威だ。北朝鮮は現在、約100基のノドン1型ミサイルを保有している。これは、通常弾頭および非通常(つまり大量破壊兵器=WMD)弾頭を日本のほぼすべての地域に打ち込む能力をもっている。朝鮮半島紛争あるいは米国と北朝鮮の対立という状況の中で北朝鮮は日本を脅迫または攻撃するためにこうしたミサイルを使う可能性がある。この可能性への懸念が、米国主導のBMDシステムへの日本の参加踏み出しの主要な動機の一つだ。軍事アナリストによれば、この脅威は朝鮮半島の最近の緊張緩和の動向によっていくぶん小さくなったとはいえ、なくなったわけではない。
 中国と日本の政府間関係は友好的であるから、公式に中国を直接の軍事的脅威とするわけにはいかない。しかしながら、多くの日本の戦略家と軍事当局者、そして何人かの政治家は、中国の弾道ミサイルが、数量、タイプ、射程において北朝鮮のものをはるかに超えていて、中国のミサイルが脅威になる可能性があると懸念している。中国は現在、2つのタイプの準中距離ミサイル、1つのタイプの中距離ミサイルを保有しており、双方とも通常弾頭またはWMD弾頭を運搬して日本に達する能力がある。明らかに、その可能性は非常に高いとはいえないが、戦略家は、中国が在日米軍あるいは日本の領土と市民を脅迫ないし攻撃するためにこれらのミサイルを使用しかねない状況として次ぎの2つを挙げている。(1)台湾をめぐる危機のエスカレーションの一部として使用する、(2)長期的には、中国がより強力で大胆になり、中日両政府が領有権を主張している尖閣諸島の支配をめぐる紛争などのアジア太平洋における特定の領土的・政治的ないし戦略的目標を達成するために使用する。
 このように、北朝鮮と中国のミサイルは、ミサイル防衛システムの開発への納税者の資金の投入は正しいと説明するために日本政府の意志決定者が考慮すべき第一の潜在的脅威だ。しかし意志決定者にとって同様に説得力あるインセンティブは、日本の唯一の同盟国である米国がこのシステムの開発への日本の参加を強力に主張していることだ。米国は、83年のレーガン大統領の戦略防衛構想(SDI)開始の時から、BMD開発への共同参加を提唱してきた。この構想されてきたシステムは年月とともに変転してきたが、日本の参加を要請する米国の動機はほとんど変わっていない。米国は、日本に専門技術と資金の貢献、そしてこのシステムが複雑で高価になることは明らかなので、その購入を望んでいる。また日米両国は、このシステムの共同開発が、同盟関係と日本の安全保障の双方を維持し強化すると認識してきた。
 本研究では明示的には扱わない外交や他の非軍事的措置に加えて、日本には、弾道ミサイルの脅威に対抗する軍事的な選択肢が、日本独自のものも米国との協力によるものも多数存在する。これらの対抗措置は大きく分けると、攻撃的措置、受動的防衛措置、能動的防衛措置の3種類になる。
 これまで日本は攻撃能力の調達の可能性を排除してきた。民間防衛、軍事目標の硬化〔堅固化〕などの受動的防衛措置は、ミサイル攻撃があった場合の死傷者を減らすには有効だろうが、弾道ミサイル防衛による能動的防衛がもたらす心理的効果はない。したがって、弾道ミサイルへの日本の軍事的対抗措置の開発作業は、民間防衛及び硬化に加えてBMDの諸要素の何らかの組合せなどの何らかのタイプの能動的な多段防衛を含むものになる可能性が高い。日本は、4つのタイプのBMDシステムを配備しうる。もっとも可能性が高いのは、地上配備の低層(LT)、海上配備の低層、地上配備の高層(UT)、海上配備の高層フェーズTおよびフェーズUだ。現在日本は、公式には研究の初期段階とUT関係の諸要素の共同研究、そしてLT関係システムの限定的調達にのみ関与している。首相官邸と外務省がBMDへの踏み出しへの支持を私的に表明することが時にはあるが、BMDの開発・調達・配備をいかに進めるべきかについて公的にも私的にも十分な討議や合意がなされたことはない。
 これらの3領域〔開発・調達・配備〕における決定と行動は、広範な領域にまたがるさまざまな論争点についての多数の関係者の間での高いレベルの政治的コンセンサスが必要になる可能性が高くなるだろう。そうした論争点には、米日安保同盟へのBMD決定の影響、財政的・法律的束縛、BMD構想の技術的・軍事的な実現可能性、国内的な軍間・省庁間の競争関係、そして中国や他のアジア太平洋諸国の反応などが含まれる。

 将来の意志決定を決める国内の諸要因

 BMD支持のペース、テンポ、レベルは、日本政府の省庁・財政のプロセス、米国の圧力、北朝鮮の行動によって、大きく影響されてきた。日本政府が、BMDの意志決定に関わる関係者の数を制限しようとしてきたことは明らかだ。今日まで、この政策プロセスは大きくは首相と内閣、外務省、防衛庁のコントロール下にあった。それより影響力は小さいが(現在まで支出された金額が比較的小さいので)、財務省のコントロール下にもあった。
 日本のBMD調達に中国が反対しつづけているため、この意志決定過程では首相のリーダーシップが決定的になっている。また、首相と内閣が憲法を解釈し、何が「防衛的防衛」であるかまた将来のBMDシステムの潜在的集団的安全保障の側面が憲法の枠内に収まるか否かを決定する権能があるという理由からも、首相のリーダーシップは必須だ。政治的に強力で熟達した首相なら、BMDについての意志決定過程をリードできる。しかし、日本の安全保障に当面の脅威は存在しないから、誰が首相になっても包括的なシステムに参加することも、資金投入を完全にカットすることもしない可能性が高い。BMDが論争の的になっていること、日本の意志決定がコンセンサス指向であること、そして近年は防衛問題の強固な信念と確固たる政治基盤をもった首相がいなかったことを考えれば、BMDへの日本の参加について将来の首相もおそらく慎重で遅々とした姿勢を続けるだろう。
 防衛庁と自衛隊は、日本にとってのBMDの軍事的な利害得失を見積もる作業を行っている。だが、意見の一致はまだ得られていない。全般的には、BMD研究への日本の参加を支持する方向に徐々にシフトしてきている。これは、主に同盟関係維持に配慮すべきだという点の重視から来るものだ。しかし、あるシステムの調達の決定は各軍間の――特に陸上自衛隊と他の2軍との間の――対抗関係を引き起こしかねないものだ。外務省はBMDを米日同盟の維持・強化の手段として支持しており、その点で防衛庁の同盟者と見られている。しかし、防衛庁とは違って外務省の支持は、このシステムの実現可能性と密接に結合しているわけではない。外務当局者にとって、防衛上の意味は、米日同盟の中での参加の象徴的価値に比べれば小さい。他方、財務省は、財政をコントロールしており、システムの費用と費用対効果のほうに関心がある。経済成長の回復も強力な政治のリーダーシップもない中で財務省が日本の財布の紐を締めており、次のシステム開発のもっと費用がかかるフェーズへの支持を米国が日本にせかせば、激しい政治的論議がおこることは確かだろう。
 経済産業省と私企業の防衛関係業者は、日本の産業に潜在的な技術的利益があることから、隠然たる親BMDロビーとなっている。しかし、ある種の不都合な点もある。それは、少数の分野では日本が自前の技術を開発する能力をもっていることであり、巨額の先行投資が必要だということであり、また日本政府が結局投資の決定を行うか否か、あるいは何時どの程度投資するのか不確実なことだ。そのため、この潜在的親BMDグループが有力な政治勢力となれないでいる。
 国会は、比較的弱体で追従的だと見られることが多いが、BMDについての決定では2つの決定的カードをもっている。第1のカードは予算承認のプロセスだ。第2のカードは、宇宙の平和利用についてのかなり前からある国会決議の取り消しないし解釈変えだ。これまでのところ、一般的な関心を寄せてはきたが、国会内で意義のある討議がされたことはない。技術的・政治的・戦略的かつ財政的な問題になじんだ国会議員が少ないだけではなく、調達・配備を進める決定が無い以上、他の問題に取り組むのは時期尚早だという政府の主張が通ったことによっても、その論議が妨げられてきたのだ。この10年の政治的激変で自民党が分裂し、日本の政治エリートの内部での権力の分配がより均等になってきたため、将来の国会討論は、従来より活気あるものになる可能性が高い。日本の防衛の解釈における大きな変動さえもたらしうる。その変動には、米日同盟の内部における、いっそうの自立にむけた動きも含まれる。
 どのような与党の連立も脆弱になる可能性が高いので、困難な決定を行うために妥協する必要性がそれだけ大きくなるだろう。現在の自公保の与党連立が続くとすると、仏教をバックにした公明党の要求は、(1)集団的防衛協定への参加を回避するために、日本が発射の決定権を持つこと、及び(2)中国を地域的な安全保障対話に入れて、アジアにおける軍拡競争を挑発するリスクをおかさないようにすること、となる可能性が高い。
 経済産業省は、日本の産業に純益をもたらす限りでのみBMDに関心を持っている。経済産業省の中には、日本の参加が次のような条件を満たす必要があると主張する人びとがいる。
◇日本の軍需部門を強化すること
◇参加企業の研究開発能力、技術取得能力を改善すること
◇民需部門に「スピンオフ」の利益の可能性をもたらすこと
 しかしながら、懐疑的な人びとは、BMD計画からスピンオフがあるかどうか疑問視している。この意味では、BMDは、日本が自前の国産技術を開発できたFSX〔次期支援戦闘機〕とはまったく違うと見なされている。センサーやレーダーなど少数の分野を除くと、日本はBMD開発に関しては同様のことができると考えられていない。

 主要問題の諸領域

◇米日同盟の維持
 BMDは、米国の抑止力の信頼性、技術、費用、諜報共有および米日部隊の相互運用性などの諸問題に関する二国間の信頼と協力に影響を与えるものであり、それによって日米同盟を強化する可能性も弱化する可能性も持っている。
◇財政的制約
 費用に関する諸問題が、日本のBMDについての検討に大きな役割を演じる。次の3つの側面が特に重要だ。(1)完全配備のシステムの価格の全般的な購入可能性、(2)既存の軍事プログラムにBMDの配備が与える財政的影響の可能性、(3)BMD配備が 各軍〔陸上、海上、航空の各自衛隊〕の予算に与える影響の可能性
◇法的諸問題
 次の4つの法的懸念が日本のBMDに関する意志決定に影響する。(1)集団的防衛活動への参加の憲法による禁止、(2)宇宙の軍事利用を禁止した国会決議、(3)武器と軍事関連技術の輸出を禁じる法律、(4)弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約の条項。
◇技術的/軍事的な実現可能性と構成上の問題
 BMDシステムの技術的実現可能性および考えうる弾道ミサイルの日本への脅威に対応するBMD構成のタイプは、今なおそうとうな論争の主題である。多くの日本の論者は、BMDの基本的概念に非常に懐疑的だ。特にある人びとは、日本政府が考えているこれらのタイプのシステムと構成が、日本が直面している諸脅威の全範囲にわたって十分な防衛をもたらしうるかどうか疑問視している。
◇産業的・商業的問題
 BMDへの日本の参加は、日本の防衛産業と産業基盤に大きな潜在的利益をもたらす。これは、防衛庁の産業諸部局と主要な防衛関係業者のある部分と経済産業省との間に潜在的な利害の一致を作り出す。しかし全般的には、BMDは軍需・非軍需双方の関係産業の技術開発およびその通商に大きな利益をもたらす領域だとは見られていない。
◇中国というファクター
 中国のBMDへの反対に、また中国がもたらす弾道ミサイルの脅威全般に、どの程度の考慮を払うべきかという点で、そしてこれらのファクターへの日本の反応は何が最良かということで日本には大きな論争がある。日本の政界は特に、日本のBMD政策における中国というファクターの性格と重要性について大きく分裂している。日本の安全保障関係の論者の多くは、日本が強力なBMDを調達しなければならない主な要因として、中国のミサイルの脅威を挙げている。しかし、一部の政治家や当局者を含む他の人びとは、中国政府との良好な関係を維持し、全般的な相互依存と日本の外交政策の柔軟性を高めるためには、日本は中国のミサイルを迎撃する能力を持つBMDシステムの調達を避けるべきだと主張している。第3のグループは、BMDシステムの潜在的配備は、重要な安全保障問題における中国の具体的譲歩と引き替えにしうると主張している。
 中国を潜在的敵国として論議することについての過敏さが政府と社会の双方に存在するために、中国というファクターは、BMDに関する日本の意志決定にこれまでは決定的な役割を果たしてこなかった。しかし、多くの論者は、もし日本政府が比較的高級な上層BMDシステムの開発と配備を真剣に考えるならば中国問題はおそらく日本の計算にはるかに大きな影響を及ぼすことになるだろうと考えている。
【原注 このような決定が中国の政策および行動におよぼす作用をめぐる論争は、その時のBMD論争の中心問題になりうるものであり、また結局は自民党内の厳しい分裂を生み出しうると考えている論者たちもいる。ある論者の言葉では、「日本の政治地図の見直し」にさえなっていくという】
 日本では、日本自身のBMD配備に対する中国の反応が懸念されているだけではなく、米国の国家ミサイル防衛システムの開発・配備の活動への中国の反応も懸念されている。こうした懸念から、BMDシステムについての開かれた透明な討論に中国を入れていこうという呼び掛けが生まれてきた。そうした対話が潜在的な不安定化作用をやわらげうると考えられているからだ。
◇結論および米日同盟への影響
 日本では、包括的BMDシステム(低層・高層の両要素、および戦闘管理・指揮・統制・通信(BM/C3)インフラを含む)の開発ないし配備に賛成するコンセンサスはまだ生まれていない。このコンセンサスの欠如は、次のような様々な要因を反映している。BMDの実現可能性が証明されていないこと。莫大な費用がかかる可能性。大きな戦略的影響。技術的利得が明らかに限定されていること。日本に対するミサイルの脅威が明確かつ持続的に公衆に認識されていないこと、そして専門家やエリートでさえBMD問題について討論していないこと。日本の最高指導者たちあるいは政治家たちの強力な支持の欠如。
 多くの論者は、BMDに踏み出すかどうかの決定は、結局は政治的な決定だと考えている。したがって、それは首相がそうした決定が必要とする政治的リスクをとり、リーダーシップを発揮するかどうかに大きく左右される。
 日本の政治構造は、変転期にある。今後5年ないし10年間、――つまり日本がBMDプログラムの将来の針路に関する主要な決定をしていく期間――多くの異なった政治的勢力配置を想定することができる。たとえば、選挙での大敗によって自民党が分裂し民主党主導の政府が台頭すること、あるいは連立相手のシフトなどが想定できる。誰がリーダーシップをとるかは重要なことだろうが、どの政党に属するか、あるいはどんなラベルをつけているかは重要ではないだろう。
 日米安保同盟への賛否で日本の政治地図を2つの陣営に分けてきた強烈なイデオロギー的バイアスの衰退によって、新たなコンセンサスの余地がでてきた。この生まれつつあるコンセンサスの一つの決定的なカギは、同盟の必要性が広く受け入れられていることだ。しかし、この同盟の中でもっと多くの自立性を要求する動きも同じくらい強くなっている。こうした要求は、日本の戦略的利害は米国のものと常に一致するとはかぎらないという認識から生まれてきたのだ。特に、歴史的・地理的なさまざまな理由から、日本の中国との非対立関係を維持する必要性は、米国よりも大きい。
◇ありうるタイムテーブル
 開発・配備の段階に入る正式決定は、今後4、5年のうちにありうるだろう。航空自衛隊は、先進的なC3システムを航空防衛、ミサイル防衛あるいはその双方のために導入する可能性が高く、それに対応してこの決定がなされうるのだ。このような性格の正式決定というものはすべて、上述のような多くの問題をめぐる論争をひきおこすだろう。それらの問題の中で、米日合同C3システムの形成の問題、および長距離監視・キューイング〔弾道ミサイルの飛来情報の伝達〕の指揮権についての日本対米国のレベルの問題は、これらの同盟関係維持や各軍間のライバル関係などの核心的諸問題に対する関係を考えれば、特に大きな課題になることは明らかだ。
 BMD体系のさまざまな要素、たとえばPAC−3〔能力向上型パトリオット3〕システム、イージス艦の増加やある種のC3とレーダー追跡インフラ・エレメントなどについては、自衛隊は、弾道ミサイル防衛それ自体についての前提的討議ないし決定がなくても、既存システムの予定された必要な「アップグレード」として調達しうる。しかし、システムの運用可能性と有効性が証明されると仮定すれば、もっと複雑で統合されたBMD体系の構築についての基本的な意志決定をある時点で行う必要がほぼ確実にでてくる。そういうBMDには高度な技術が含まれ、開発・配備には大きな費用がかかり、PAC−3などの低層BMDには大きな限界があり、そして日本における米国の将来のTMDの配備によって圧力が生み出される可能性が高いのだから。
 日本のための包括的BMD体系は、おそらく日本のいっそう統合された大きな早期警報およびBM/C3インフラに支援されたPAC−3低層および海上配備型(NTW)上層システムによって構成されることになるだろう。米海軍は海軍地域防衛(NAD)システム〔海上配備型の低層システム〕の調達を日本に強く働きかけていくだろうが、NADの迎撃範囲の狭さや費用の高さのために日本は受け入れないだろう。
 米国は、実用段階に入った、ほぼ米国製のNTW〔海上配備型〕TMDシステムの配備を開始するだろうから、日本はそれに対応して、おそらく遅くとも2007年から2010年までに、低層と高層を組み合わせたBMD体系の配備について基本的意志決定を行う必要がでてくるだろう。すでに発注され調達途上にある軍需品の多さ、日本の限られた防衛予算、そして統合BMD体系を調達し配備し運用化するのにかかる長い時間を考えれば、日本は2000年代終わりまでに配備の決定をしたとしても、2015年以前に本格的なBMDシステムを運用するようになる可能性は低い。BMDシステムを米国とともに開発ないし配備することは、米日同盟の進路に大きな影響を及ぼす。米国がBMD問題をへたに扱うならば、BMDから得られる利益よりはるかに大きく同盟関係と米国の安全保障上の利害を損ないかねないことは明らかだ。しかも、へたに扱ってしまう潜在的可能性はかなり高いのだ。それには次のような理由がある。たとえば、一つの理由は、東京とワシントンの間には合同BMDの概念への互いの認知度・動機・関与のレベルについて懐疑・疑念があることだ。また、もう一つの理由は、両者が今まで、これらの諸問題および他の諸問題の詳細で持続的な対話を行うことに失敗してきていることだ。両政府は、できるだけ速やかにこうした対話を開始すべきだ。
◇決定的諸問題
 米国側にとって重要な短期的問題は、もっと広範な合同研究開発に参加することが日本にとって不可欠だと説明することだろう。〔ここにおける〕米国の主要目標はおそらく、日本のBMDに関する最終的な姿勢が、より広範な政治的・戦略的利害と、また米国および同盟の目標と完全に両立できることを保証することだろう。
 第2の決定的問題は相互運用性だ。特に早期警報およびBM/C3システムに関する相互運用性だ。この高度に複雑なファクターには、技術的問題だけでなく両国間の政治的・軍事的な協同とコントロールがからんでいる。
 第3の問題は、日本が調達するさまざまなタイプと規模のBMDシステムがおよぼす、より広範な政治的・戦略的影響だ。予想される中国のこうしたシステムに対する反応が、米国と日本の中国に対する二国間関係、米日同盟、およびより広範なアジア安全保障環境に与えるインパクトについては、日米双方が詳細に検討し議論すべきだろう。
 今日まで両国政府は、これらの問題に十分な注意を払ってこなかった。米日がBMDについての協力の概要を出していくにつれて、摩擦が生じてくるのは疑いない。たしかに、その摩擦は対話だけでなくすことはできない。だが対話をしなければ、今後の米日同盟の道が険しくなることは確実だ。

 本文の抜粋

 第1章 はじめに

 第1節 弾道ミサイル防衛の重要性の高まり

……80年代の初め、レーガン政権は、きわめて野心的なBMDシステムを提案した。これは戦略防衛構想(SDI)と名付けられ、米国を事実上あらゆるタイプの戦略的弾道ミサイル攻撃から防衛することを意図していた。…SDIには、財政もその他の研究開発に関する資源も多大に投入された。しかし、SDIは現実のシステムとしては配備に至らなかった。理由は主に、費用がかかりすぎたこと、技術的な不確実性、ソ連との軍備管理交渉への悪影響の恐れであった。その後90年代初めのソ連崩壊によって、SDI計画の実行は停止された。
 …91年のペルシャ湾戦争は、海外の米軍と同盟国を防衛するようにデザインされた戦域ミサイル防衛(TMD)への関心を高めた。さらに、かつてのソ連とアメリカの戦略的競争とは別にミサイルの脅威増大およびミサイル対抗措置の技術的実現可能性の高まりと結びついた少なくとも7つのファクターによって、米国において90年代中ごろに国家ミサイル防衛への真剣な関心が復活していった。
 まず第1に、過去10年間に先進的軍事技術が拡散し、ますます多くの国が国内生産によってか輸入によってか、基礎的な弾道ミサイルシステムおよびそれに見合った、大量破壊兵器(WMD)――化学・生物・核兵器――を含む通常・非通常弾頭を調達できるようになったことだ。
 第2に、…………これらのミサイル関連能力が、米国にとっての特定の「懸念すべき諸国」、たとえば北朝鮮、イラン、イラク、リビアなどで開発あるいは調達されていることだ。こうした国が弾道ミサイルを使用するかもしれないということだけでも、特にそのミサイルの弾頭がWMDであれば、将来の危機の際の米国と同盟国の意志決定をかなり複雑化してしまいかねない。
 第3に、このような動向によって米国の前方基地にある部隊、同盟国、友好国が危険にさらされていることだ。91年の湾岸戦争の時にイラクが短距離弾道ミサイルを国連合同軍に対して使用したこと、また北朝鮮が準中距離弾道ミサイルを90年代に開発したことは、この危険を示した。しかも、北朝鮮が米国領土を攻撃する能力がある長距離ミサイルの開発を引き続き行っていることは、米国が潜在的危険にさらされていることを少なくとも示唆している。
 第4に、輸出の財政的・政治的誘因によって、弾道ミサイル技術を開発している諸国は近年、弾道ミサイルシステム、その技術、およびその構成要素の拡散をさらに加速している。…
 第5に、旧ソ連の崩壊、ロシアの厳しい経済的疲弊の継続とそこから来る国内政治と社会の動揺、およびそれにともなうロシア軍の劣化のために、旧ソ連領に配備されている長距離弾道ミサイルの偶発的ないし「ならず者」的な発射の可能性が高まっていることだ。
 第6に、アジア太平洋地域で、北朝鮮の弾道ミサイルと大量破壊兵器能力の増大によってもたらされる危険とともに、中国のより能力を向上させた短距離・準中距離ミサイル数の増加――そして長距離ミサイルさえも増加させる可能性もある――を始めとする弾道ミサイル戦力の近代化と拡張の問題がある。こうした動向は、台湾問題をめぐる緊張が高まっていること、そして中国が95−96年の台湾海峡危機の際に短距離弾道ミサイルを使用したことを考えると、特に懸念される。
 第7に、過去15年間、少なくとも限定的な弾道ミサイル防衛システムとそれに付随する、センサー、ロケット推進装置、レーダー、誘導システムなどの支援インフラを構築するのに必要な技術の中で大きな前進があったことだ。しかも、湾岸戦争でのイラクの弾道ミサイルからの防衛のためにパトリオット対空ミサイルが使用され、そこで弾道ミサイル防衛の潜在的な技術的実現可能性が、証明されたとはいわないまでも示唆されたのだ。全般的にパトリオット・ミサイルの有効性は比較的低かったとはいえ、少数のものは、目標を破壊できたといえるのであり、初めてBMDシステムの潜在的効用を示した。ただ、パトリオット(おそらくその後継システムも)の真の戦略的価値は、防衛の約束によって、同盟関係の結束が保たれたことにあった、ということもできるだろう。
 これらのファクターは全体として、米国が戦域ミサイル防衛・国家ミサイル防衛の双方の研究・開発、そしておそらくは配備にあたっての動因を大幅に拡大してきた。ペルシャ湾戦争の直後、ジョージ・ブッシュ大統領は、「限定的ミサイル攻撃に対する地球規模の防御」(GPALS)と呼ばれる、レーガン大統領の戦略防衛構想の縮小版を支持した。GPALSは、当初は国家ミサイル防衛システムとして設計されたが、その下段システムとしてTMDもあった。93年、クリントン大統領は、短距離・準中距離射程の離弾道ミサイルの拡散が米軍前方基地の部隊により大きな脅威になっているという主張にこたえて、NMDの要素への力点を下げた。しかしながら、少なくとも2000年初めまでは、おもに北朝鮮の長距離ミサイル開発計画への懸念の増大から、米国はNMD開発への相対的な力点を増大しつづけたのだ。

 第2節 日本にとってのBMDシステムの妥当性

…日本は旧ソ連諸国からの偶発的ないし政府の承認なしのミサイル攻撃、あるいはテロリストによるミサイル攻撃またはその脅迫に対して脆弱だ。たしかに後者の脅威の可能性は低いと見られるが、第2次大戦からくるアジアの日本に対する敵意があるから戦略家はこのシナリオも無視すべきではないと考えている論者もいる。
…日本のコントロール下の大規模なBMDシステムは、アジア諸国の中に、日本がそれを攻撃的軍事能力の強化のために使うのではないかという恐怖を拡大しうる。たとえば、日本が攻撃ミサイルの領域にそれを使うのではないか、もっと一般的にいえば、日本の防衛産業の基盤を大きく改善するのではないかという恐怖だ。

 第2章 動機づけと反応

…米国と日本は、弾道ミサイル防衛問題について、83年のSDI計画開始の時から討議してきた。そして日本は、90年代初めの米国のBMD計画や90−92年に行われた弾道ミサイル攻撃に対する地球規模のBMDシステム(いわゆるGPALS)の配備を可能にするための米ロ間の72年のABM条約改定交渉についてよく知っている。米国は、80年代のSDI計画への日本の参加(おもに米国のコスト削減のため)の可能性に関心があったというが、日本のためのBMDシステムについての二国間の具体的な討議と研究は、90年代に入ってからGPALSの脈絡の中で始まった。当時日本は、BMD計画への参加に非常に躊躇していたという。米国のBMD計画は、戦後の日本の政策に3つの大きな矛盾をもたらした。(1)初めの提案には宇宙での迎撃システムの配備が含まれていたが、これは日本の国会の宇宙軍事化禁止の決議と矛盾した。(2)GPALSの共同的な側面は、集団的防衛組織への参加禁止に違反するという、(3)この計画は、BMD関連技術のその参加国間での共有を許容する(共有を要求するものではないが)ため、日本の防衛関連の輸出制限への潜在的違反をもたらした。多くの日本人は、BMD技術の実現可能性が証明されていないことも懸念していた。
 90年代初めまでに、米国は、BMDの中の戦域ミサイル防衛(TMD)要素への日本の参加を求めることに重点を置きはじめた。それは主に、複雑で高価になりはじめていたプログラムのために技術・資金を得るためであり、そして可能ならそれを購入してもらうためだった。米国は、日本の参加によって当時の緊縮軍事予算において米国の費用が削減できると期待していた。また、米国の期待は、日本の米国との間で増大しつづける貿易黒字の縮小だった。そして日本が、米国が開発し在日米軍(および日本のもっとも攻撃される可能性が高い地域)を防衛するために配備したTMDシステムの技術的、政治的、軍事的利益に「ただ乗り」しているとの非難を受けることのないようにすることだった。当時、米国の日本との関係における強調点の多くは、技術的な相互性と資金問題だった。
 日本がBMD計画に資金的に貢献できることは、特に湾岸戦争で国連の取り組みに対して日本政府が巨額の貢献をしたことによって可能性が高くなった。こうして、全般的に、米国のアプローチは、「地域的状況または日本の現実の防衛ではなく、米国のグローバルなリーダーシップ全体を日本が支持すべきだという前提に基づくものだった」といわれている。したがって、日本の政治的に強力な利益集団の多くが、米国の態度を日本の防衛技術と産業基盤に対する脅威と見たことは驚くに当たらない。実際、多くの人が、米国は日本を防衛することより日本の技術と資金を獲得することのほうに関心があると感じたのだ。
 90年代末までには、BMD計画への日本の参加を求める米国の理由はシフトしていった。日本の緊縮財政や米国の経済ブーム、そして米国の「負担の分担」ベースのアプローチに対する日本のフラストレーションのためだ。米日安保同盟の強化の取り組みと米日防衛協力の指針の見直しとあいまって、TMD計画が主要な同盟維持問題および日本の安全保障の強化の取り組みとして練り直された。このより「ソフト・セル〔押し売り的でない〕」なアプローチを採用したが、にもかかわらず米国は、主に北朝鮮の弾道ミサイル計画の大幅な前進の兆しに対応するため、TMD関連の研究開発に参加するよう日本に圧力をかけつづけた。ワシントンでは日本の協力が有用かどうかについて根深い対立があったといわれるが、にもかかわらず圧力がかけられたのだ。
…しかし、90年代末には、BMD計画への日本の積極的参加を求める熱意は、米政府のいくつかの部局の中で明白に衰えはじめた。その理由は、部分的には、米政府内で力点が、国家ミサイル防衛(戦域ミサイル防衛に対して)能力の実現可能性の〔証明の〕達成のほうによりいっそう置かれるようになったことだ。たしかにTMDにはかなりの水準の資金が注がれつづけたが、北朝鮮の長距離ミサイル能力の予想外の開発ばかりでなく、中国の長距離弾道ミサイル計画の前進への懸念の高まりへの反応としても、近年米国はNMD計画にいっそう力を入れることを焦点にしてきたことは明らかだ。日本の実際の参加のレベルがずっと煮え切らないままだったので、クリントン政権の終わりころには、TMDへの日本の参加を求める熱意は消え去っていた。たしかに日本は、93年に米国とともに合同BMDシステムの開発についての研究への参加を決定したが、99年まで米国主導のTMD計画への参加を、実際には公式に決定しなかった。この決定は、前記の98年8月の北朝鮮のテポドンTの発射で公衆のミサイルの盾への支持の増大および従来の理論上の脅威の具体的な証拠を使った外交努力によって拍車をかけられたのだ。また、TMDへの6年間にわたる日本の約3億jの資金的貢献について、ワシントンでは、TMD計画全体の総費用と比べれば取るに足りない額だと見る人びともいる。たとえば、米国は海上配備型TMD(NTW)ブロックIの開発に今後5年間で約23億j支出することにしている。
 しかし現在のブッシュ政権の多段国家ミサイル防衛(NMD)システムの建設・配備の決定によって、あらためて日本の米国主導TMDシステムへの参加に力点が置かれるようになりうる。ブッシュ政権の要職にある高官たちは、日本の現在の参加範囲を拡大することに強い意欲をもっていること明らかに示している。

 第3章 将来の意志決定をきめる国内の諸要因

……98年9月、日本の国会は全会一致で北朝鮮のミサイル発射を非難し日本政府はあらゆる手段を用いて国民の安全を確保すべきだとする決議を行った。
 この空気の変化で直接に利益を受けたのは、長い間日本は偵察衛星を調達すべきだと主張していた勢力だった。日本政府のミサイル発射への対応の遅さはおもに米国が衛星による追跡情報をタイムリーに伝えなかったからだとするメディアの報道の後押しを受けて、政府は98年10月に情報収集衛星を導入する案を作った…。
 小泉純一郎新首相は、旧習破壊性で大衆的人気を得てリーダーの地位についた。彼は、巨大な郵便事業の民営化の提案でもっとも知られている。しかし、タブーに正面から対決する彼の意欲は、財政や経済の範囲を超えている。首相としての最初の記者会見で彼は、一定の状況下で米軍を支援できるように、また自衛隊の地位を明確化するために、憲法改正に賛成すると明言した。しかし、憲法9条の変更はすぐに取り組むには政治的に微妙すぎることを認めた。…
 現在までのところ、98年の共同研究への踏み出しの決定以来の歴代内閣のメンバーは一人も、政府見解と異なる意見――BMDに賛成にせよ、反対にせよ――を述べていない。この政府見解は、かろうじて米国との共同技術研究を進めると決定したということだ。これは、このシステムの製造や配備の決定はしていないのに、弾道ミサイル防衛システムはそもそも防衛的システムで、日本の隣国への脅威にならないから日本国憲法に完全に合致している、という予防線を含んだものだ。…
 特に経済産業省は、BMD開発計画での米国との協力からは日本がほとんど技術的利益を得られないだろうと懸念している。FSX(F−2)戦闘機開発時と同様、技術の支配権・技術共有・技術移転をめぐる対立が両国間の大きな摩擦を拡大しかねない。特に日本の軍需関連品の輸出制限――BMD関連システムの第三国への販売や移転を含む――は、技術問題の管理を複雑化しかねない。このような懸念のために核心的なBMD技術の国産開発にもっと重点を置こうという高官たちもいる。
 …BMDを上層システムを含むものにまで拡張することは、二国間の航空防衛センサー、システム、ドクトリン、指揮・統制・通信・諜報・監視および偵察(C3ISR)能力の効果的統合を必要とする。したがって、おそらく高水準の体系的な二国間調整、設計、開発、調達、配備、ドクトリン、運用の合理化が必要になってくるだろう。防衛庁内外に、こうした広範囲な統合は両国間の大きな摩擦を生み、また米国のシステムへの日本の依存が過剰になると懸念する人びとがいる。またTMDの死活的な要素で米国への過剰な依存を避けるために、自前の早期警報衛星を配備する技術を早急に開発すべきだと主張する専門家さえいる。結局、米国のシステムの共同使用が多くの相互運用性の問題を解決するのだが、それに必要とされるのは米国の軍需企業であって、日本の軍需企業ではない。だからおそらく、これが日本企業の間に大きな抵抗を引き起こすだろう。
 …テクノロジーの純流出。多くの日本の論者は、ほとんどのBMD関係技術で米国は日本に対して大きくリードしており、共同研究開発の名に値する作業はすべて米国が支配するようになる可能性が高いと考えている。その結果、米国の技術のうち日本が関心をもっているものは、日本への移転が制限ないし阻止され、全般的に日本をライセンス生産ないし標準量産品契約の位置に落とすのではないかと恐れている。経済産業省は、日本から米国に高度技術が逆流していくのでないかと懸念し、また米国がBND技術開発にライセンス供与を使って強力に管理することを嫌っているという。

 第4章 結論および米日同盟への影響

 …最近の朝鮮半島の緊張緩和傾向は、BMDへの日本の熱意を明らかにさましている。…もし、北朝鮮の脅威が完全に消滅したら、最小限のBMD能力の調達への動機さえ崩されかねない。
…NMDとTMDは同じシステムに統合されている部分であり、このシステムが中国のミサイルに対抗するように設計されていることが認識されることは、日本の中国との間の問題を引き起こし、また自国の国境外での防衛の憲法上の制限をめぐる国内の論争に火をつける可能性がある。 
(おわり)