中国 最悪の客船沈没事故 利益最優先で安全を切り捨て 家族の怒り、習体制揺るがす

週刊『前進』08頁(2685号06面03)(2015/06/15)


中国 最悪の客船沈没事故
 利益最優先で安全を切り捨て
 家族の怒り、習体制揺るがす

(写真 改造前の「東方之星」【1995年】)
(写真 改造後。客室の外側【海側】の廊下がなくなっている)

 6月1日午後9時28分、中国の南京から重慶に向かっていた客船「東方之星」が湖北省荊州市監利県で沈没した。乗員・乗客数は456人で、8日段階で死者434人、生存者14人、不明者8人という1949年の中華人民共和国建国以来の最悪の船舶事故になった。

定期船を豪華客船に大改造

 この船は1994年に建造され、同年2月に初めて就航した。この時は定期船だったという。その3年後の97年に大改造が行われ「豪華客船」に生まれ変わった。
 建造時は客室の外側(海側)に廊下があり、左舷から右舷にも船首から船尾にも直接行くことができた。しかし大改造によって船体の両側が密閉されて独立した客室が2列にわたって設けられ、部屋数を増やすために外廊下がなくなり、客室の中央を走る内廊下だけになった。船室はほぼ閉ざされた空間となった。
 大改造の目的は独立した客室を多数もつ豪華客船に変えることでクルージングツアーを経営し、収益をあげるためだ。だがその結果、事故のとき乗客は部屋から船外にただちに逃げられなくなった。実際に今回の事故では乗客のほとんどが死亡する事態となったのである。
 またこの改造にあたって、船の長さを11㍍も伸ばしている。またこの大改造によって船の重心の安定性が損なわれ今回の転覆につながった可能性が高い。そもそも定期船だった船を豪華客船に変えるということ自体が無理な話なのだ。

国営の企業も独立採算制に

 この客船を所有し事故を起こした「重慶東方公司」は1967年創業の国有企業であり、重慶の重要水運企業とされていた。しかしその経営は破綻的だった。
 「中国経営報」によれば、この会社は2013年に資産総額が7720万元(約14億6680万円)で、負債総額が1億6846万元(約30億円)、利潤はマイナス395万元(約7500万円)だった。14年は資産総額は8975万元(約17億円)で負債は1億8468万元(約35億1500万円)、利潤が133万元(約2530万円)だった。14年に資産総額は増えているものの負債がそれを上回っており、経営が成り立たなかったことがうかがえる。
 1974~75年世界恐慌の爆発の中で、破産した中国スターリン主義は、78年にその延命策として「改革・開放」政策をとり、新自由主義的な政策を展開してきた。急激に民間資本を成長させる一方で、国有企業をそれとの激しい競争にさらすこととなった。
 市場経済導入とともに国有企業改革が進行した。国営企業では独立採算制が目指されるようになり、「所有と経営の分離」に基づいて「国有企業」と称されるようになった(93年)。さらに中小国有企業の民営化が進行した。また、国有企業の株式会社制度の導入で、いわゆる「非国有資本」が国有企業に投資することも政策的に進行した。毛沢東時代に設立された国営企業は、その資産のあり方も経営実態も変容し、急成長し広範に成長してきた民間資本とのすさまじい市場競争の中に投げ込まれた。
 こうして、破綻する国有企業が続出していった。この「重慶東方公司」も事実上の破産状態だったが、国有企業であり重慶政府の重点企業であったがゆえに延命してきたといえる。しかしそれは経営を維持するための徹底したコスト削減、安全の切り捨てにつながっていったのである。
 「東方之星」が大改造されたのは、91年のソ連崩壊の後で、「改革・開放」政策が本格化し、国有企業改革が進行した時期にあたる。経営の自立と収益の拡大が求められたのである。「改革・開放」政策のもとでの新自由主義的な政策の展開が今回の大事故を引き起こしたことは明らかだ。

韓中日労働者の国際連帯を

 この大事故が中国スターリン主義の体制を揺るがしかねないことに恐怖して、習近平政権はナンバー2の李克強首相をただちに現場に派遣し、政府が直接陣頭指揮をとった。同時に激しいマスコミ統制を敷いて、政府の発表以外報道することを禁止し、「(全力で救助活動をしてくれる)中国に生まれてよかった」などと政府翼賛の報道をさせた。ネットも規制し、事故についての書き込みを次々と削除した。
 その一方で被災者家族に対しては、事故現場に近づけない、説明に応じない、監視人を一人ひとりに配置するなどの徹底した弾圧体制をとった。しかしこのような政府の対応は逆に被災者家族の怒りを爆発させ、事故の現地でのデモや警官隊との激突、記者会見会場への突入抗議や真相究明署名活動など、被災者家族の決起を次々と呼び起こしている。
 この被災者家族の決起は、直接的には事故の責任を追及する怒りの決起である。しかし、それは同時に、中国スターリン主義の長年にわたる労働者人民に対する暴力的な支配への怒りそのものであり、労働者の階級的な怒りであり、スターリン主義体制そのものに向かっているのである。
 加えて事故直後の6月4日は天安門事件26周年だった。習政権は被災者家族の怒りの中に〝スターリン主義打倒〟の炎を見て取り、徹底した弾圧に入った。しかしそれは、怒りにますます火をつけるだけである。
 昨年の韓国のセウォル号事件と一昨年の鉄道労働者のストライキが現在の韓国のゼネストを生み出した。また日本で3・11福島原発事故と動労千葉・動労水戸の闘いが日本階級闘争の新たな段階を切り開いている。それと同じように、今回の客船沈没事故も、中国の労働者階級の決起、鉄道労働者の闘いと結びつき、中国の大激動を生み出すものになろうとしている。
 新自由主義の破綻の中で鉄道を先頭とする労働者階級の決起と国際連帯が、東アジアにおける戦争を阻止し、革命を生み出す本格的な過程に入った。6・7集会の切り開いた地平を断固として推し進め、韓中日の労働者階級の国際連帯をかちとろう!
(河原善之)
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