被曝限度引き上げ許すな 原発労働者や建設労働者などに250㍉シーベルトを強制

週刊『前進』06頁(2703号04面03)(2015/10/26)


被曝限度引き上げ許すな
 原発労働者や建設労働者などに250㍉シーベルトを強制


◎おことわり
 本紙2704号4面の訂正に従って修正したものを掲載します。(前進ホームページ編集委員会)

被曝限度引き上げ許すな
 原発労働者や建設労働者などに250㍉シーベルトを強制

 原子力規制委員会は8月5日、原発事故など緊急時の労働者の被曝限度を緊急作業期間中100㍉シーベルトから250㍉シーベルトに引き上げると決定した。被曝労働は極限的な危険労働・疎外労働そのものだ。安倍政権・規制委の被曝限度大幅引き上げ攻撃を徹底的に断罪する。

規制委の決定で来年4月に施行を強行

 「現在、緊急作業時の被曝線量限度を100㍉シーベルトとして規制を行っているが、それを超えるような事故が起こる可能性を完全に否定することはできない」――昨年7月30日、原子力規制委員会委員長の田中俊一は突如、原発事故を想定した労働者の被曝限度大幅引き上げの方針を打ち出した。
 その後、改定案がつくられ、放射線審議会の「妥当」という答申を経て、今年8月5日に規制委が緊急時被曝限度を緊急作業期間中250㍉シーベルトに引き上げることを決定した。安倍政権は、引き上げに沿って改悪した電離放射線障害防止規則(電離則)、人事院規則などの施行を来年4月1日に強行しようとしている。
 日帝は、緊急時の労働者被曝限度を福島第一原発事故直後に特例措置として緊急作業期間中100㍉シーベルトから250㍉シーベルトに一挙に引き上げた。それを今後は法令に明記し、事故発生時には自動的に発動するというのだ。
 この250㍉シーベルトへの線量限度引き上げの適用対象者は、「原子力防災要員」として指定された電力会社の労働者のほか、「原子力災害発生または拡大防止の業務(損傷機器等の復旧作業など)を委託された事業者」、すなわち下請け会社やプラントメーカー・建設などの企業の労働者も含まれる。また公務員関係では原子力保安検査官、原子力災害派遣命令下の自衛隊兵士などが同様の扱いとされるという。

原発労働者が次々心筋梗塞や白血病死に

 原発労働に従事すれば必ず被曝する。ましてや事故が起これば、高線量の大量の放射能に現場の労働者が真っ先にさらされる。今でさえ福島の事故現場は250㍉シーベルトどころか、それ以上の超高線量域が多く、近づくことすらできないではないか。
 被曝労働は極限的な危険労働・疎外労働そのものだ。福島第一原発労働者については、11年3・11事故直後から1年間に2万人の労働者が緊急作業に従事したが、その総被曝線量は24万7千㍉シーベルトで1人当たりの平均被曝線量は12㍉シーベルト。事故前の09年度1年間の全国原子力施設における放射線業務労働者の総数は7万6千人、その総被曝線量は8万4千㍉シーベルトで1人当たりの平均被曝線量は1・1㍉シーベルトだったという。
 現在、福島の子どもに甲状腺がんが多発し、事故現場の最前線で命がけで作業してきた労働者が心筋梗塞(こうそく)や白血病などで相次いで死亡している。しかし、東電はなんら根拠なく原発事故との関係を否定し、責任回避に躍起となっている。
 原発事故は、こうした労働者の死に直結する大量の被曝と多数の疾病をもたらす。だが、安倍はこの事実を無視し、巨万労働者人民の猛反対に逆らい、川内原発1号機、さらに2号機の再稼働を強行したのだ。原発再稼働、そしてこれと完全に連動した安倍政権の緊急作業期間中250㍉シーベルトへの大幅引き上げを断じて許すことはできない。
 250㍉シーベルトという基準値は、「広島原爆の爆心地から約1・7㌔メートル地点での直接被曝線量に等しい」という。これは晩発性リスクと同時に、白血球数の減少など急性放射線症のリスクがきわめて高くなる数値である。福島の事故現場などで2年間働いた労働者が白血病にかかり労災申請して、10月20日に認定された。その累積被曝線量は約20㍉シーベルトと発表されている。
 「放射線に安全量はない」(ジョン・ゴフマン―アメリカの化学者、医師)。一般の人が1年間に浴びてもよいと政府が強弁している公衆被曝法定限度でさえ年間1㍉シーベルトである。250㍉シーベルト基準がいかに凶悪極まる犯罪行為であるかは明々白々だ。

経済利益優先の線量決定は許されない!

 原子力規制委の新委員となった伴信彦(ICRP委員)は緊急作業期間中250㍉シーベルトの上限設定にも不満を募らせ、「しゃくし定規に捉えると危機管理の観点から柔軟性を欠く」とほざく。「破滅的な状況を防ぐことを試みている緊急被曝状況の場合には、線量限度は適用されない」と無制限の被曝強制を主張するICRP2007年勧告を明らかに意識している。
 基準値引き上げに関するこの間の一連の審議過程では、「志願して人命救助活動に参加」という名のもとで労働者を致死量の事故現場に突入させることまで論じられている。労働者人民の反対の声の中で再稼働を強行し、事故が起これば労働者に犠牲を強要して命まで奪おうというのだ。
 放射線審議会会長・神谷研二は、労働者の被曝限度新基準は「ALARA(アラーラ)の考えに基づき管理すべき」とわめいている。「ALARAの考え」とは、放射線被曝を「経済的および社会的な要因を考慮に入れながら、合理的に達成できる限り低く保つ」という文言であり、「経済的および社会的」な利益優先で被曝線量を決めるというものだ。まさに、新自由主義下でのICRP勧告の基本原則にほかならない。労働者の被曝線量を可能な限り低減化するということとはまったく逆である。
 その本質は、原子力・核関連資本と日帝国家の利益を最大にするために労働者に被曝を最大限に強制し、労働者の健康・生命を徹底して破壊する以外のなにものでもない。労働者階級と資本家階級が非和解であることを決定的に示すものだ。今日では日帝支配階級は、この「ALARAの原則」を金科玉条にして、核武装と金もうけの原発・核政策にしがみついているのだ。250㍉シーベルトへの大幅引き上げもこの脈絡の中にある。
 資本主義のもとでは、原発労働者を始め労働者は生きていけない。労働組合をつくり団結して闘わなければ殺されてしまう。このことがますますはっきりしてきた。

被曝労働と闘う労働組合を原発の中に

 「いかなる放射線制限値を認めようとも、それは意図的に疾患や死を容認するものだ」(核戦争防止国際医師会議)。ところが、日帝国家・資本と結託した電力総連・電機連合などの連合の御用幹部どもは、犯罪的な「ALARAの原則」を絶賛し、原発事故前提の250㍉シーベルト線量限度引き上げを「異議なし」と賛同した。「労働組合」を名乗って、労働者人民の生命・生活と未来を資本家どもに売り渡す、この極悪の御用幹部どもを現場労働者の怒りの決起で打倒しよう。
 「被曝労働絶対反対」を貫く動労総連合の建設を軸に、労働者を被曝から守る労働組合を原発の中につくろう。川内原発に続く伊方原発の再稼働を阻止しよう。原発労働者と固く連帯し、11・1全国労働者集会の歴史的爆発を全力でかちとろう。
(河東耕二)

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ICRP 国際放射線防護委員会の略称。科学者らによる学術組織という形を取っているが、実際は原発労働者など労働者人民への放射線被曝強制を科学的装いをこらして「正当化」する、核と原子力政策を推進・維持する組織。日本政府の被曝限度基準はICRP勧告に準拠している。

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