書評/『日本が売られる』 堤未果著 安倍の民営化の悪を暴くも自国防衛と改憲肯定に陥る

発行日:

週刊『前進』04頁(2995号04面02)(2018/12/03)


書評/『日本が売られる』 堤未果著
 安倍の民営化の悪を暴くも自国防衛と改憲肯定に陥る


 岩波新書の「貧困大国アメリカ」シリーズでアメリカ資本・政府を暴露・告発してきた著者が今度は日本をテーマにした。
 第1章「日本人の資産が売られる」、第2章「日本人の未来が売られる」、第3章「売られたものは取り返せ」、あとがき「売らせない日本」という構成だ。
 まず、「日本が、いま猛スピードで内側から崩されていることに一体どれほどの人が気づいているだろうか?」と問いかけ、安倍政権の「資本の競争力強化戦略」を多岐にわたって暴露している。
 第1章1「水が売られる」は、今年7月に衆院で可決され、今臨時国会での継続審議となった水道法改正案すなわち水道民営化の問題だ。すでに世界では水道民営化で料金が3倍化するなど問題が噴出し、2000~2015年に37カ国235都市が水道を再公営化した。にもかかわず日本では今になって水道を民営化しようとしている。仏ヴェオリア社の日本法人は埼玉県、浜松市、広島市の下水道処理場、松山市、大牟田市、荒尾市の浄水場の各運営権を獲得、大阪市の検針・料金徴収を受託した。
 第1章3「タネが売られる」は、伝統農業破壊・農民殺しの種子法問題。安倍政権は昨年4月の種子法廃止、5月の種苗法改悪で自家採種禁止リストを82種から289種に拡大した。だが自家増殖は農民の当然の権利だ。種子法廃止は、資本の延命のために農業を破壊し、農民の権利を奪い、農村の崩壊を劇的に促進する。現に伝統農業破壊は中南米、イラク、北アフリカから大量の難民を生み出している。
 第1章7「農地が売られる」では、「農地とは単なる土地ではない。領土であり水源であり、環境に影響を与え、日本人の安全保障を左右する重要な資産だ」と国家主義、祖国防衛主義を正面に出している。「国防上、重要な地域については外国人の土地所有を禁止・制限できる外国人土地法がある……中国が狙っている」と危機感もあらわに排外主義をあおっている。
 第1章10「築地が売られる」は築地中央卸売市場の豊洲移転が大流通資本への売り渡し民営化、独占価格化、食の安全の崩壊をもたらすと警告している。
 第3章1「お笑い芸人の草の根政治革命〜イタリア」では「五つ星運動」を「市民参加型民主主義」と評価し紹介している。確かに「五つ星」は、市民の怒りを受け止め、水道を再公営化し公営交通機関を守ることを掲げた。ところが今年3月の総選挙で第1党になると、極右の「同盟」と連立政権を組み、今夏、地中海を渡って欧州に上陸しようとする難民の受け入れを拒否した。「同盟」は「5年で50万人の非正規移民の(摘発)追放」を掲げるネオナチである。著者はこの点に全く触れない。
 著者は、協同組合が「強欲資本主義から抜け出して第三の道へむかおうとする人類にとっての羅針盤となる」と結んでいる。生活協同組合を資本主義、社会主義に代わるものと位置づけるのだ。スイスの巨大金融資本と化した協同組合をも賛美している。だが、生産を担う労働者と労働組合こそ真の社会変革の主体だ。
 著者の主張は総じて、グローバル資本に「日本を売る」安倍政権から「日本を守れ」ということだ。自国防衛の戦争に直結する。改憲論議参加論もそのためだ。改憲・戦争阻止!大行進と労働者国際連帯で未来を開こう。
(林佐和子)
このエントリーをはてなブックマークに追加