20年度政府予算案弾劾(上) 社会保障を破壊、無制限の大軍拡

週刊『前進』04頁(3100号03面03)(2020/01/20)


20年度政府予算案弾劾(上)
 社会保障を破壊、無制限の大軍拡


 安倍政権は昨年12月20日、2020年度予算案を閣議決定した。一般会計102兆6580億円と、8年連続で過去最大を更新した。特に社会保障費が35兆円、防衛費が5・3兆円に膨張した。消費税の増税による景気悪化を防ぐため1・8兆円近い経済対策費も計上した。労働者階級人民を貧困にし、資本家階級を優遇し、軍事大国化と戦争・改憲へ突き進む史上最悪の予算案だ。

保育民営化と病院再編へ

 社会保障費は19年度当初予算比5・1%増(1兆7302億円増)の35兆8608億円となった。これは20年度予算案の3分の1近くを占める。
 昨年10月から始まっている幼児教育・保育の「無償化」に3410億円(地方の負担分と合わせると8858億円)を充てる。すべての3〜5歳児と、住民税非課税世帯の0〜2歳児の計約300万人が対象となる。無償化は自治体の保育民営化のてことなる。民営保育所では保育労働者の賃金・労働条件が極限的に低劣化し、職員が集まらず、安全崩壊、資本の経営撤退が続発している。こうした保育崩壊をさらに激化させるのが無償化政策だ。
 大学など高等教育にかかる経済的負担を減らす新制度を20年春に発足させるために4882億円を投じる。51万人が授業料減免や給付型奨学金を受けられるという。しかし世界・日本経済が低迷・縮小し、非正規職化が拡大するなか、大半の学生が巨額の学費ローン地獄から抜け出せない状態にある現状を変えることはできない。
 高齢化に伴う社会保障費の「自然増」は4100億円に抑えられた(概算要求の段階では5300億円だった)。「自然増」を圧縮するために、後期高齢者(75歳以上)の医療費の窓口負担率が2割に引き上げられた。
 他方、診療報酬は0・55%引き上げられた。薬価基準は下げられた。これは「医師の働き方改革」のためだというが、直接には病院・診療所の経営安定を図るためだ。安倍晋三首相、麻生太郎財務相、加藤勝信厚労相が自民党の支持団体、日本医師会の強い要求に応えて決めた。勤務医や看護師の賃金引き上げにつながる保証はない。
 「地域医療介護総合確保基金」に公費143億円を積み増しする。勤務医の残業時間の上限規制(年間1860時間という殺人的な上限)が罰則付きで導入される24年度に先行して、残業時間を減らすために人員配置を厚くする病院を支援するという。この程度では医師の過労死が減らせるとは到底考えられない。
 高齢化や人口減少に対応する医療体制をつくる「地域医療構想」に基づいて公立・公的病院の再編統合、病床削減を促進するために国費約84億円を投入する。稼働している病床を10%以上減らした病院を対象に、減らさなければ得られたと見込まれる収入を補助する。国費投入は自治体に病院再編統合を強制するためだ。その狙いは、民営化・営利化であり、社会保障の破壊、地方の切り捨てである。

最新の米兵器を大量購入

 20年度政府予算案の最大の問題は、大軍拡予算案だということだ。防衛費は前年度当初予算から1・1%増の5兆3133億円となり、6年連続で過去最高を更新した。第2次安倍内閣発足以来8年連続で増加している。18年末の中期防衛力整備計画に沿うと同時に、米帝トランプの「バイ・アメリカン(米国製品を買おう)」に応じたものだ。最新の米国製武器で武装した自衛隊は、米軍との共同訓練を繰り返し、自らも沖縄・南西拠点化、全土基地化を進めることで日米安保体制の強化、自衛隊の侵略軍隊化を図り、朝鮮・中国への侵略戦争に備えている。
 アメリカからの導入手続きが進む陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージスアショア」には、発射装置の取得に115億円、調査費に14億円が充てられた。防衛省のでたらめな調査報告が発覚し、秋田市、山口県萩市・阿武町で住民の配備反対運動が強まっている。ところが防衛省は「特定の候補地を前提としていない」と言い、予算案を計上した。傲然(ごうぜん)たる居直りと住民蔑視だ。本土も沖縄と変わらないが、安倍の危機の現れだ。
 またアメリカ製のステルス戦闘機F35A3機の購入費として281億円、同じくF35B6機の購入に793億円を計上した。安倍政権が18年12月、F35を将来的に計147機体制とすることを閣議了解したことに基づく。F35大量購入も米帝トランプを喜ばせている。垂直離着陸が可能なF35Bは、海上自衛隊の護衛艦「いずも」を事実上の空母に改修して搭載される。同艦の空母への改修費として31億円が計上された。
 安倍政権は、米政府から直接兵器を買う有償軍事援助(FMS)を増加させている。20年度のFMSを使った武器購入は契約ベースで4713億円だ。高額な武器は複数年にわたって分割払いされ、「後年度負担」となって将来の予算を圧迫する。侵略戦争のための武器購入が最優先され、労働者人民が生きていくために必要な社会保障が削減される。20年度の契約に基づき、21年度以降に支払われる後年度負担は2兆5633億円に上る。
 また航空自衛隊はF2戦闘機の後継機の設計開発費を初めて計上した。111億円が充てられる。

中東派兵と「宇宙作戦隊」

 12月27日に閣議決定された海自の中東派兵の経費は、20日に閣議決定された予算案では公表されなかったが、実際には盛り込まれていた。20年度予算案に燃料費として約33億3千万円、人件費として約2億9千万円など、合わせて約46億8千万円を計上。中東地域には「日本に関する船舶の安全確保に必要な情報収集態勢を強化するため」の「調査・研究」活動として人員260人、護衛艦「たかなみ」とP3C哨戒機2機を送る。
 沖縄・名護市辺野古の新基地建設では、軟弱地盤がある海域での工事費の計上を見送る一方、埋め立て工事の経費に780億円を充て、土砂投入を続ける。その他の関連費を含めると辺野古新基地建設費は840億円に上る。防衛省は12月25日、新基地完成に今後9年3カ月かかり、総事業費が9300億円に膨らむという見通しを示した。これは極めて控え目な数字だ。
 宇宙空間での防衛態勢強化に向けた経費506億円を盛り込んだ。「新たな戦場」として米中が開発競争を繰り広げる宇宙空間を常時監視する「宇宙作戦隊」(仮称)を新設し20人を配置する。また自衛隊の情報通信や指揮系統を妨げる「敵」の能力を調査・研究する費用や、日本の人工衛星に対する妨害の状況を把握する装置の整備費などに223億円を計上した。宇宙とサイバー、電磁波の3分野を「新領域」とする防衛大綱に基づき、中ロに対抗してサイバー関連経費256億円を充てた。米帝トランプが昨年8月、宇宙軍を発足させたことに連なる。
 自己負担増を強い、民営化で医療や介護、保育を破壊する20年度予算案、日米安保強化・大軍拡・侵略派兵のための予算案を労働者人民の怒りの闘いで安倍政権もろとも粉砕しよう。

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2020年度当初予算案での防衛費の主な項目

☆ステルス戦闘機F35を9機取得する費用 1074億円
 護衛艦「いずも」の事実上の空母化の改修費 31億円
☆陸上自衛隊迎撃ミサイルシステム「イージスアショア」発射装置の取得費  115億円
 F2戦闘機の後継機の開発費 111億円
 米軍普天間飛行場の辺野古への移設工事費など 840億円
 宇宙空間を常時監視する「宇宙作戦隊」など宇宙領域での能力強化の経費 506億円
 中東海域へのP3Cなど海上自衛隊派遣費 46.8億円
 サイバー経費 256億円

☆は米政府から直接兵器を買う有償軍事援助(FMS)

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