大軍拡と戦争の安保3文書粉砕を 軍事最優先へ国家改造狙う 有識者会議報告書

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週刊『前進』04頁(3272号03面01)(2022/12/05)


大軍拡と戦争の安保3文書粉砕を
 軍事最優先へ国家改造狙う
 有識者会議報告書


 政府の「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」が11月22日に提出した報告書をもとに、岸田政権は年内にも安保3文書(国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画)を改定しようとしている。その内容は、「反撃能力」と言い換えた敵基地攻撃能力の保有をはじめ、憲法9条を完全に踏み破るものであり、米軍と一体化して中国侵略戦争を遂行するための大軍拡と国家大改造を狙うものにほかならない。しかもこの戦後最大の安保・軍事政策の歴史的転換を、形ばかりの国会審議や公聴会すら行わずに閣議決定で強行しようというのだ。このクーデター的暴挙を絶対に許すことはできない。

敵基地攻撃「不可欠」と明記

 まずもって、今回の報告書を提出した「有識者会議」なるものは、政府が指名したメンバーだけで構成され、結論ありきの形式的な会合を4回ばかり行ったにすぎない。元統合幕僚長と元海上保安長官が招かれて発言する一方、憲法学者は一人も参加せず、憲法9条との整合性を検証すること(あるいはそのようなポーズをとること)は初めから度外視された。
 そして出された報告書は、今年の日米首脳会談で確認された「5年以内の防衛力の抜本的強化」を「何ができるかだけではなく、何をなすべきかという発想で」実行すべきだと強調。そして、すでに防衛省が来年度予算の概算要求で明記した「防衛力強化の七つの柱」(表)を「速やかに実行することが不可欠である」と後押しした。中国侵略戦争へ踏み込む米日帝国主義の国家意志を追認しつつ、さらにその内容をいくつかの点で踏み込んで具体化したのが特徴だ。
 最も重大な点は、「我が国の反撃能力の保有と増強は不可欠」「今後5年を念頭に十分な数のミサイルを装備すべきである」として、憲法9条を完全に踏み破る安保・軍事政策の歴史的転換を要求したことだ。これにより自衛隊は、これまで想定してきた日本の領空・領海内での戦闘にとどまらず、中国本土や北朝鮮に対して直接ミサイル攻撃を加えることが可能となる(図)。具体的には、巡航ミサイル「トマホーク」などの外国製ミサイルの大量購入と陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」の長射程化が計画されている。
 これに米軍の極超音速中距離ミサイルの大量配備と、米海兵隊が南西諸島の島々を拠点に中国海軍を攻撃する「EABO(遠征前進基地作戦)」を合わせれば、米軍・自衛隊のミサイル攻撃能力は中国軍を完全に圧倒する。中国海軍を壊滅させると同時に中国沿岸部のミサイル基地を破壊・無力化して、米空母打撃群が中国本土へ攻め込むことが可能となるのだ。その実行に向けた米日の準備策動そのものが、中国にとっては耐えがたい脅威となる。
 報告書はその冒頭で「有事の発生それ自体を防ぐ抑止力を確保しなければならない」と述べ、あたかも戦争を未然に防ぐための提言であるかのように装いながら、その一方で、実際に中国を相手に長期にわたる戦争を遂行するための具体的措置を列挙している。「継戦能力の確保」として弾薬の備蓄や、自衛隊の常設統合司令部・常設統合司令官の設置を要求。また、この間の防衛産業からの民間企業の相次ぐ撤退に危機感をあらわにし、「防衛装備移転三原則等による制約をできる限り取り除き......防衛産業を持続可能なものとしなければならない」として、武器輸出を柱に軍需産業育成に国を挙げて取り組むよう求めた。
 いずれも、日本が本格的に「戦争のできる国」へと転換するために不可欠なものだ。報告書の目的は「戦争の抑止」などでは全然なく、むしろ戦争遂行のための具体的準備を急ピッチで進めることにある。

防衛省主導で「国力」総動員

 さらに報告書では、全体の3分の1以上を割いて「縦割りを打破した総合的な防衛体制の強化」が強調されている。研究開発や公共インフラ整備といった領域について、防衛省・自衛隊の意向に沿って動員できるように転換させようとするものだ。
 「研究開発」については「政府と大学、民間が一体となって、防衛力の強化にもつながる研究開発を進めるための仕組みづくりに早急に取り組むべき」と提言。単なる軍事研究の推進にとどまらず、「関係省庁が国家安全保障局、防衛省及び内閣府と連携」し、「防衛省の意見を踏まえた研究開発ニーズ」に基づき事業を実施するために「府省横断的な仕組みを創設する」とした。防衛省主導の軍事研究に大学などを動員するということだ。この枠組みのもとで「特定秘密」に相当する軍事機密を扱うようになれば、大学は国家権力の完全な監視・統制下に置かれることになる。
 さらに決定的に重大なのは、「公共インフラ」についても「安全保障を目的とした利活用を更に進めるべきである」としたことだ。なかでも「南西地域(特に先島諸島)における空港・港湾」「自衛隊・海上保安庁の配備・利用が想定される空港・港湾」「国民保護のために必要な空港・港湾」については、「『特定重要拠点空港・港湾』(仮称)」に指定し、平素から自衛隊や海保が利用できるよう法整備を進めることを具体的に提言した。さらに「防衛省・自衛隊や海上保安庁のニーズを反映する枠組み」のもとで公共インフラ投資を進めることも要求した。もはや憲法上の地方自治の原則などお構いなしに、国家主導で軍事目的のための公共インフラの利活用・投資をどんどん進めろということだ。しかも「自衛隊が港湾や空港を使用することに対して抵抗感のある自治体もある」とわざわざ言及し、これに対して自治体・住民の「協力」を得られるよう「政府が一体となって努力する必要がある」と強調することで、抵抗する自治体をねじ伏せることまで求めているのだ。
 このほか、「サイバー安全保障」を高めるための「一元的に指揮する司令塔機能」の強化へ新たな制度の設置を求めた。国家(特に防衛省・自衛隊)による情報通信の監視・統制や個人情報の一元的管理が狙われていることは明白だ。さらに「国際的協力」の項目では、「特定安全保障国際支援事業」と称して、武器輸出の推進や他国軍への資機材供与、インフラ整備事業への資金提供などを進めることを提言した。
 報告書では「縦割り打破」という言葉が何度も出てくるが、その内容は以上に見た通り、これまでの府省庁の枠組みや地方自治を解体し、国家安全保障局や防衛省の主導のもとで、国の行財政運営の一切を戦争・軍事優先とするあり方へと転換する全面的な国家大改造にほかならない。

「国民負担」での大増税要求

 報告書は、こうした大軍拡と国家大改造のために必要となる巨額の費用の「財源」について、歳出削減に取り組んだ上で「なお足らざる部分については、国民全体で負担することを視野に入れなければならない」として、「幅広い税目」で増税に踏み切ることを要求した。そして、増税による財源確保のためには「自らの国は自ら守るとの国民全体の当事者意識を多くの国民に共有して頂くことが大切である」として、「国を守るのは国民全体の課題」「国民全体の協力が不可欠」といったことを「政治が真正面から説く」ことを勧告した。国民に国防意識を植え付けて税負担を忍従させろというのだ。
 しかも、報告書の原案にあった「法人税」の表記は最終段階で削除され、代わりに「多くの企業が国内投資や賃上げに取り組んでいる(⁉)なか、こうした企業の努力に水を差すことのないよう、議論を深めていくべき」などとまとめられた。経団連の十倉雅和会長が21日の会見で「法人税」の記述に反発し、「国民が広く薄く負担すべきだ」などと抗議したことを受け、「経済界の方々のお考えもある」(「有識者会議」座長・佐々江賢一郎)として記述を変更したのだという。「国を守るのは国民全体の課題」「当事者意識を共有せよ」などと偉そうに説教しながら、大資本の税負担だけは経団連会長の一言で免除しようというのだ。
 報告書はその冒頭でも、防衛力強化について「国民に『我が事』として受け止め、理解して頂けるよう、政府は国民に対して丁寧に説明していく必要がある」とし、そのための負担についても「国民に理解してもらう努力」が不可欠だと強調している。これは大増税とそれがもたらす極限的な生活破壊への怒りが、戦争絶対反対の階級的怒りと一つになって爆発することへの恐怖にほかならない。
 中国侵略戦争に向けた日米安保強化と一体の大軍拡は、それ自体が戦争の危機を極限的に高め、基地被害を拡大し、人民の生活と命を破壊する。これに対し、沖縄をはじめ日本中で怒りと闘いの高揚が始まっている。三里塚現地闘争、12・14防衛省デモを闘い、安保3文書改定粉砕・岸田打倒へ攻め上ろう。

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