十亀弘史の革命コラム-30- 戦争体制のため事件捏造

週刊『前進』04頁(3400号04面05)(2025/06/16)


十亀弘史の革命コラム-30-
 戦争体制のため事件捏造

 マルクス経済学者・宇野弘蔵の「人民戦線事件」の裁判(1939年)で、鈴木義男弁護士がでっち上げの構図を暴いています。「先(ま)ずこの人を検挙すると定められたのである。これを定めて置いて、何か物にするような種はないかと探され」た(荻野富士夫著『検証 治安維持法』)。そして今年5月、広島暴処法弾圧の第6回公判で森川文人弁護士が「この弾圧は反戦闘争をつぶすためだ」と弾劾した上で、「事件があったからではなく、逮捕するために『犯罪行為』を仕立て上げたのだ」と述べています(本紙3397号)。全く同じじゃないですか。
 「大川原化工機事件」でも公安当局は戦争体制を整えようと事件そのものを捏造(ねつぞう)しています。社長らが逮捕されたのは2020年3月ですが、直後の4月には「経済安保」を掲げて国家安全保障局に経済班が設置されています。経済安保は端的に戦争への経済界の動員やそのための恫喝を意味し、中国侵略戦争に向かう総力戦体制構築の一環をなしています。大川原化工機でも問題にされたのは中国に輸出しようとしていた噴霧乾燥機です。軍事利用などできない機械なのに、その輸出が「戦略物資の不正輸出」だとされたのです。
 警視庁公安部によって大川原化工機への捜査が始められたのは安倍政権下の17年、戦時弾圧法としての「共謀罪」が成立した年です。捜査の過程で公安部は不正輸出に当たるかどうかを経産省に問い合わせています。経産省は、はじめ否定的な見解を示しましたが、公安部との何回かの協議を経て、でっち上げへの加担に踏み出します。それこそ権力機関同士の「共謀」による治安弾圧です。しかし、その無理やりの捏造の具体的な中身は全く脆弱(ぜいじゃく)で、結局、起訴の取り下げに至りました。ただ、この弾圧では東京拘置所の医療放棄によって相嶋静夫氏が事実上獄死させられています。一人の人間を殺した弾圧なのです。
 朝日新聞は国と都への賠償請求訴訟控訴審での原告側勝訴の記事で、次のように解説しています(5月29日)。「国益を守る捜査は必要だが、法や証拠を無視するような行為は許されない」。出発点が完全に間違っています。「国益を守る捜査」とは戦争推進の捜査であり、それこそが、何度も何度も「法と証拠の無視」を重ねるのです。戦争と一体の治安弾圧の全てを、一つ一つ真正面から打ち砕いて行きましょう。
(そがめ・ひろふみ)
2025.6.16

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