インド農民が怒りのデモ 「農業新法」廃止求め実力決起

週刊『三里塚』02頁(1059号02面02)(2021/03/08)


インド農民が怒りのデモ
 「農業新法」廃止求め実力決起

(写真 農業新法に抗議し、首都ニューデリーにトラクター等で攻め上る農民たち【2月16日】)

(写真 モディ政権の「自由化」政策に怒る農民によって赤い城塞が実力占拠された)

「デリーへ進め」合言葉に数十万

 インド農民の怒りが激しく火を噴いている。
 1月26日、首都ニューデリーはトラックやトラクターに分乗して進撃する数十万におよぶ農民の怒りのデモで、包囲・席巻された。彼らの要求はモディ政権が昨年9月に制定した「農業新法」の全面撤回・廃止だ。
 この日は憲法施行を祝う共和国記念日で、政府主催の大規模な軍事パレードが予定されており、警察はこれを守りデモを抑え込むために大型車両、コンクリートブロック、釘、鉄線などで主要道路にバリケードを築き、インターネットを遮断した。そして治安警察に加えて2千人の準軍事部隊を投入し、催涙弾・放水・警棒などで暴力的な弾圧を行った。農民たちは各所で果敢に闘い、実力でバリケードを突破・破壊し、ムガール帝国時代の城塞「赤い城」を一時占拠した。この衝突で農民1人が死亡し、100人が負傷した。
 全国の農民たちは昨年11月から抗議活動を開始し、「チャロ・デリー(デリーへ進め)」を合言葉に、高速道路を長期間占拠し、さながら「長征」のように首都に攻め上ってきたのだ。
 「労働法改悪反対」を掲げるインドの労働組合は、この農民の決起に連帯して11月26日にゼネストに立ち上がった(参加者2億5千万人)。全国の労働者・学生・市民が「農民なくして食料なし」と熱烈な連帯と激励を寄せている。スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんをはじめ、全世界からも連帯メッセージが続々と寄せられた。
 政府はかたくなに新法の廃止を拒絶していたが、2月12日に最高裁が仲裁に入り、農民の主張を受け入れる形で新法施行の無期延期を決めた。
 農民団体の幹部は、3月からの収穫期にも抗議活動を継続し、新法廃止まで闘うと強調する。

企業の農業支配強める「自由化」

 制定された農業関連新法は、①農産物流通促進法、②農民保護・支援・価格保障及び農業サービス法、③改正基礎物資法の3つ。農作物の取引は、これまで州政府が指定する卸売市場(マンディ)で行われることが原則とされていたが、新法では販路が「自由化」され、州外の市場・スーパー・食品会社などに販売できるとされる。
 政権は新法について「マンディにはびこる悪質仲介業者を排除し、農産物の州間取引を活発にし、幅広い選択肢を与えて農民の生活を向上させるもの」と説明している。
 だが、新法にはこれまで維持されていた農作物買い取りの最低保証価格(MSP)について明記されていない。農民側は「MSPが廃止されたらわれわれは生きていけない。大企業主導で価格が決められ安く買いたたかれる」と怒りを表している。政府側は「MSPを市場で維持する」と説明を繰り返すが、信用ならない弁明であり、明らかに廃止へ向けた布石だ。

アジアの激動に応える闘いを!

 インドは昨今「IT大国に成長した」などと紹介されるが、それは格差社会がもたらした現実の一面に過ぎない。
 インドは人口13億人、うち6割以上が農村に住み、2㌶未満の農地しか持たない零細小規模農家が農業経営体の85%を占める。だが、GDPに占める農業の割合はわずか18%。灌漑(かんがい)設備の普及率は農地面積の約半分で、その他の地域は天水農業だ。インドの穀物の1㌶当たりの収量は3・2㌧で、世界平均の4・1㌧を大きく下回る。
 1960年代、米ロックフェラー財団の主導によって「途上国の食料危機の克服」をうたう「緑の革命」と呼ばれる農業近代化、農業改革が全世界的に進められた。インドでも伝統的農法から近代農業への転換が図られ、政府の補助金によって灌漑施設の普及、化学肥料と農薬の大規模投入、品種改良作物導入が推進され、収量がいったんは飛躍的に伸び、干ばつと飢饉にあえぐ状況が急速に改善された。
 だが90年代以降、穀物の収穫量は伸び悩んだ。過剰な地下水汲み上げによって水位が大幅低下し、あるいは長年の農薬漬け農法などの結果として土壌劣化、塩害、水質汚染などが生じた。穀倉地帯として知られたパンジャブ州では耕作不能地が拡大し、農民にはがんなどの深刻な健康被害が多発しているという。
 またこうした高負担を強いる「近代農業」が、各農家に過大な「ローン」を背負わせ、次々と借金地獄に追いやった。農民の自殺者数は95年以来30万人を上回る。(00年代、モンサント社の遺伝子組み換え綿花のインドへの導入によって、同社の農薬を飲んで抗議自殺する綿花農民が相次いだことは記憶に新しい。)
 このように根深く深刻な農業危機、農民の苦境に際して、ヒンドゥー至上主義を掲げるモディ政権は、農民保護政策を打ち切り、新自由主義的「市場自由化」を進め、農業と流通を企業にゆだねることで乗り切ろうとしている。
 インドの農民は命がけの決起で、大企業による農業支配に警告を発している。香港、タイ、ミャンマー、インドなどアジアの激動は連動している。日本の地から闘いを起こし、これに連帯する時だ。

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市東さん 動画
 インドで29万回再生

(写真 Farmer Lives in The Middle of Japan's 2nd Largest Airport | Katti Katar Varthalu | 10TV News)

 市東孝雄さんの闘いを報じるユーチューブ動画が、インドで29万回視聴されている。
 「日本で2番目の巨大空港のど真ん中に住む農民」との英語タイトルが付けられたこの2分の動画は、「10TVニュース・テルグ」というインドのニュースチャンネルによって20年8月にアップされた。
 映像素材は英BBCなどが撮ったものの2次使用だが、成田空港の滑走路・誘導路に包囲されながら豊かな農作物を作り続け、土地を守っている市東さんを女性アナウンサーが紹介している。
 言語はテルグ語。インドには公用語のヒンディー語と英語に加え、州別の公用語など22の指定言語があり、テルグ語はその一つ。使用者は8千万人とされる。
 10TVは、2013年に始まった24時間の地域ニュースメディアで、インドの農業労働者、日雇い労働者、未組織労働者、産業労働者、教育労働者など15万人以上を株主として運営されているという。

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