明日も耕す 農業問題の今 乾田は「良いことずくめ」か 米づくり改革の裏側で
明日も耕す 農業問題の今
乾田は「良いことずくめ」か
米づくり改革の裏側で

参院選に間に合わせるかのように、備蓄米が身近なスーパーにも並ぶようになった。その場しのぎのツケはあとからやってくるだろうが、一方で危機を逆手に取って農業のあり方を変えてしまう動きが起きている。
5月8日、朝のNHKニュースで「水を張らない田んぼと液体肥料」なる特集を見た。
埼玉県の従業員5人の農業法人の話で、昨年から水を張らない田んぼで米作りを始めたという。
通常、水田では土をおこして水を張ってならし、苗床で育てた苗を田んぼに植える。
それに対して乾いた田んぼの場合は、耕した土に直接種を播く。
乾田での生産の課題は養分不足だったが、ビール酵母を活用した液体肥料を種に吹きかけると、病気に感染したと勘違いし、養分をたくさん吸収しようと細かい根を張りめぐらせる。これにより、生育が促されるという。
収穫量は若干減ったものの、繁忙期の労働時間を7割減らせて「いいことばかり」という話。
良いことずくめのわけがないと感じたが、この乾田直播きがいま盛んに宣伝され、研修会が各地で行われている。
先端技術動員し
乾田直播きは田植えを省いて労力を減らし、大規模化できる。
しかし、デメリットも多い。水田に田植えすることは手間はかかるが、雑草を効果的に抑制できる。だから農薬も減らすことができる。水田は連作障害も起こしにくい。
しかし、乾田直播きにすれば雑草は避けられないので、農薬の使用は増える。化学肥料もなくてはならなくなる。
さらに、乾田直播きに適したタネは限られている。播いた種が鳥や昆虫に食べられないように殺虫成分がコーティングされたり、飛ばされないように鉄コーティングされたものが使われる。
強まる企業支配
乾田直播きにもいろいろあるので、これらは一般論だが、少なくとも企業の先端技術を抜きには成り立たない。
石破政権は農業予算を拡大するというが、その行く先は「農地の大区画化」「スマート農業」「輸出拡大」の3本柱だ。乾田直播きはこの方針にマッチしている。「米の生産拡大」の名の下で、大規模な米づくりが優遇され、企業による米の支配、種の独占が一気に進みかねない。
企業支配のわかりやすい例がモンサント(現バイエル)だ。同社は以前、ラウンドアップ(除草剤)耐性イネを作っていた。でも水田ではラウンドアップが効かず、うまく除草できない。
だが、水田をやめて乾田になれば、種と農薬をセットで売る彼らの天下になる。思い起こせば「メタンガスを出して気候危機の原因になっている」と水田を悪者にする急先鋒がバイエルだ。
生産者の思いはどうあれ、乾田直播きは企業のための農業だ。その推進は、食料安保の名による戦時体制づくりの農業大改悪だ。